異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
615 / 653
第4部 四神を愛しなさいと言われました

163.根本がわかっていないとたいへんだと思います

しおりを挟む
 四神が好きすぎてまず誰の領地に向かうか決められないとしたら、あとは四神の領地の環境がどれだけ香子の意に沿うかということが選択のポイントになってくるのではないかと香子は思う。
 それに四神が気づいてくれるわけはないので、部屋に戻ってから香子は呟くようにそんなことを言った。

『花嫁様は決めかねているのですね』

 それを延夕玲が引き取った。

『四神は魅力的だから』

 香子はあっけらかんと言う。葛藤は深かったが、もう四神に嫁いでいるのだからと香子は開き直っていた。
 開き直るまでの期間は非常に長かったが、それは香子にとって必要な時間であった。

『でもさー……いきなりこっちの世界に連れて来られて、四神と結婚とかありえないと思うのよね』
『……花嫁様は白虎様も厭うていらっしゃったのですか?』

 白風がたまらず香子に声をかけた。それに夕玲と楊芳芳がピクリと反応した。女官以外が部屋の主である香子に話しかけるなどあってはならないことだからだ。(黒月は守護なので別だし、身だしなみを整える時は侍女たちも聞かないと仕事にならないのでその際は夕玲が話しかけることを許可している)

『厭ってなんかいないわ。でも……私がいた世界……ではないわね。私の常識では、勝手に結婚相手を決められるなんてことはなかったのよ』

 世界規模で見たら、親が子の結婚相手を決めるところもあるだろうと香子は思い直した。日本でも家によってはそんなところもまだあるかもしれないと。

『勝手に決められたことに反発しただけで、白虎様は素敵な方だと思うわ』
『では……!』

 白風が身を乗り出すようにしたことに、香子は押し止めるように両手を前に出した。

『四神はみな素敵な方々なのよ』
『……そうでございますね』
『だから決められないって言ってるの。そうしたら後は環境が大事でしょ?』
『……厨師を派遣しております』

 白風が答える。白虎の眷属が四神宮の料理を習う為に来ていることは香子も知っている。香子は頷いた。

『……努力していることは知っているわ』
『でしたら……』
『でもね、他の領地の眷属は来ていないのよ。この意味がわかる?』

 白風は不思議そうな顔をした。夕玲がため息を吐き、『失礼しました』と礼をした。

『妾の教育不足でございます。たいへん申し訳ありません。教育し直します』
『……別にかまわないわ。あと一か月もここにはいないのだから』

 香子の突き放すような言葉に、白風はハッとした。このままでは香子が白虎の領地に来ないと気づいたのである。

『……たいへん申し訳ありません』
『それは何に対して謝っているの?』

 バッと平伏した白風に、香子は淡々と聞いた。
 白風は内心焦る。何が悪かったのか、白風は根本的なことを理解していない。
 白風は白虎の眷属であり、眷属の中でも少ない女性である。だから蝶よ花よと育てられてきた。そこは黒月と同様であったが、白風は眷属同士から生まれた子であった為、人を慈しむという考えが欠如していた。眷属の中でのみ暮らしてきたので、そもそも人に触れたことがほとんどなかったのである。
 それ故に、夕玲や楊のことを侮っていた。

『……わかりません』

 白風は正直に答えた。
 そういうところは嫌いではないと香子は思う。ここでごまかしたり言い訳をしたりしないのは美徳だと。
 とはいえ白風の行動によって香子が白虎の領地に行きたくないと思うのは自由である。

『以前も言ったと思うけど、夕玲や芳芳はこの部屋で私の次に身分が高いの。黒月は私の守護だから私と対等に口を利いてもかまわないわ。でも白風は私に仕えに来たんでしょう? だったら眷属だからとか関係なく、女官の言うことは聞かないといけないの。もうこれ以上私に説明させないでくれるかしら?』

 香子がこういうことを白風に説明したのは初めてであったが、部屋付きの侍女である紅児と林雪紅は内心震えていた。

『……たいへん申し訳……』
『もう謝らなくていいから。夕玲、芳芳、再教育よろしくね』

 香子はため息を吐いた。
 こういうことは香子の仕事ではないはずだと香子は思う。

『白虎様がいらっしゃいました』

 表から黒月の声がかかり、香子はゲッと思った。おそらく今の会話も聞かれていたのではないだろうかっと香子は冷汗をかいた。

(そういえば……今日は白虎様と昼間過ごすんだった……)

 環境うんぬんはともかくとして、白風に指導していたのは香子としてもどうかと思う。白虎はなんとも思わないだろうが、付き従っている白雲からの印象は悪くなるのではないかと香子は思った。
 紅児たちが扉を開けると、白虎と白雲が入ってきた。

香子シャンズ、参るぞ』
『はい、白虎様』

 香子は白虎を見てから、ちら、と白雲の様子を窺った。白雲の表情はいつも通りだったが、その眼差しは非常に冷たい。そしてその視線は白風に向けられていた。
 ハッとして白風を見れば、俯いていた。

『白虎様、花嫁様は庭へどうぞ。延、悪いが侍女に声をかけて白虎様を庭に案内してほしい。我はしばし席を外します』

 珍しく白雲にそう言われ、白虎は不思議そうだった。

『白虎様、先に庭でお茶をしましょう!』

 香子は慌てて言う。

『ではそうするか』

 白虎は嬉しそうに香子を抱き上げ、夕玲に案内されて(侍女は間に合わなかった)庭へ向かった。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

処理中です...