七人の美形守護者と毒りんご 「社畜から転生したら、世界一美しいと謳われる毒見の白雪姫でした」

紅葉山参

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秘密の通路 魅惑の歌い手 フェリックスの登場

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 エオルスとの約束を交わし、女王の呪具の脅威を取り除いたスノーリアは、女王との最終決戦に向け、少しずつ希望を感じていた。七人の守護者たちは、それぞれの役割で彼女を守り、支えてくれる。彼らの愛は重く、時に苦しいが、彼女の命を確実に守ってくれる盾でもあった。

 夜、スノーリアがアルバスの塔の自室で休んでいると、部屋の隅にある古びた石壁から、微かな音と共に冷たい空気が流れ込んできた。

(誰かいる)

 スノーリアはすぐに警戒し、護身用の短剣を握りしめた。彼女の毒の魔力は、その空気の中に、微かな、しかし抗いがたい「魅惑」の魔力を感じ取った。それは、毒ではないが、心を乱す甘い香りのようだった。

 石壁が音もなくスライドし、闇の中から一人の青年が姿を現した。

 彼は、他の七人の守護者とは全く異なる印象を持っていた。中性的なカインよりもさらに華奢で、金色の長い髪を持ち、瞳は夜の闇を映したような深い紫。手には、彼自身の背丈ほどもある優雅なハープを抱えていた。二十歳そこそこと見える彼は、まるで神話に出てくる吟遊詩人のようだ。

「ああ、美しいスノーリア姫。ようやく貴女にお目にかかれた」

 彼の声は、それだけで一つの楽器のようだった。甘く、優しく、そして聞く者の心の奥底の欲望をそっと掻き立てる。

「あなたは誰。この部屋はアルバス様の結界で守られているはず。どうやって」

 スノーリアは短剣を構えたまま、警戒を解かなかった。

 青年は気にすることなく、優雅に一礼した。

「私はフェリックス。この塔の影の住人。そして、この七つの塔を結びつける秘密の通路の鍵を持つ者です。私の魔力は、音と魅惑。アルバスの規律も、ガイウスの壁も、私の歌の前ではただの通過点にすぎません」

 彼は、七人目の守護者として紹介されたエオルスではない。しかし、彼の魔力は、他の守護者たちに匹敵する強大さを持っていた。

「秘密の通路の鍵。なぜ、今まで姿を見せなかったのですか」

 スノーリアが問うと、フェリックスは少し寂しそうに微笑んだ。

「彼らは、私の魔力を危険だと判断しました。私の歌は、人の心を操り、時に狂気に陥れる。特に、貴女のような美しい魂を持つ者は、私の魅惑の最高の標的になってしまう」

 彼はハープにそっと触れ、柔らかな音色を奏で始めた。

 その瞬間、スノーリアの部屋全体が、幻想的な光に包まれた。彼女の心臓が早鐘を打ち、全身が幸福感で満たされていく。

「どうか、怖がらないで。私の歌は、貴女の魂を最も安らかな場所へと誘います。社畜として苦しんだ前世も、毒に苦しんだ今世も、全て忘れていい。私の歌の中では、貴女は永遠に愛され、守られ続ける、ただ一人の姫君です」

 彼の歌声が、スノーリアの耳を、そして心を優しく撫でた。彼の歌は、ルークの癒やしの炎のように温かく、カインの影のように全てを包み込み、そしてシリウスの独占欲のように彼女を完全に掌握しようとしていた。

 スノーリアの毒の魔力は、この歌の中に、「毒」は見抜けないが、「強い支配欲」を感じ取った。それは、女王の毒とは別の、魂を縛り付ける種類の魔力だった。

「私の塔へ来てください、姫。私は、他の連中が気づかない、貴女の魂の奥底の孤独と疲れを知っている。彼らは皆、貴女を守ることに夢中だが、貴女の望む『本当の自由』を知らない」

 フェリックスは立ち上がり、スノーリアに手を差し伸べた。

「私の塔は、彼らの規律や魔力から解放された、貴女だけの夢の空間です。私の魅惑の歌は、貴女の心を永遠に満たし、誰も貴女に触れることを許しません。私だけが、貴女の魂の守護者になれる」

 彼の誘惑は、他のどの守護者よりも直接的で、そして甘美だった。彼女の魂の奥底にある、安らぎと自由への渇望を正確に突いてきた。

 スノーリアは、短剣を握りしめたまま、葛藤した。この誘惑に乗れば、女王の脅威からも、そして七人の守護者たちの重すぎる愛からも逃れられるかもしれない。

「フェリックス様」

 スノーリアは、意を決して彼の目を見つめ返した。

「あなたの歌は、確かに魅力的です。そして、私の孤独を知ってくださっていることも感謝します。しかし、私は今、逃げるだけでは終われません。私は、私を苦しめた女王と、私の力を使ってくれたあなた方と、正面から向き合いたいのです」

 彼女は短剣を床に置き、代わりに彼の差し出された手には触れず、自分の胸に手を当てた。

「私は、あなたに心を支配されるのではなく、私の意志で、あなた方の愛を選びたい。今は、戦う時です」

 フェリックスは、一瞬、驚きに目を見開いたが、すぐに満足そうに笑った。

「素晴らしい。その強い意志こそ、私が貴女の魂に惹かれた理由です」

 彼はハープの演奏を止め、部屋の光が元に戻った。

「分かりました。私の塔は、いつでも貴女のために開いています。私の魅惑の歌は、貴女が望むまで、貴女の魂の奥で眠っています」

 彼はスノーリアに深々と一礼し、再び石壁をスライドさせて、闇の中へと消えていった。

(彼もまた、私を独占したいのだ)
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