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呻る双腕重機は雪の香り
第一波 極秘! 鋼鉄の双腕 ④
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メニューはクリームパスタに、温野菜サラダとコンソメのスープだった。
運んできてくれた人にお礼を述べると、フォークをもって食べようとするが、気になることがある。
それは、目の前で私が食べるのを黙って見ている人がいるのだ。
「あなたは何か食べないの?」
自分ばかり食べるのも気が引けるので、相手にも聞いてみる。
「私のことは気にしないでください、後でしっかりといただきますので」
本を読んでいるときと違って「世界」に入り込めない食事では、黙って見られるとかなり緊張してくる。
食事の作法には自信があるけれども、食べている場面を見つめられて喜ぶ人は多くはいないと思う。
「だったら、今から食事にしては? 一緒に摂れば時間的にも効率が良いのでは?」
後からと言っているが、午後も私と一緒ならどこで食べるのか、きっと寝てから食べたりする可能性すらある。
それに、一緒に食べるのは悪い案ではないと思った。
そうすれば、緊張せずに食べられるうえに、彼の食の好みも少しは知ることができるかもしれない。
「ご一緒にと言われましても」
「いいの、遠慮しないで」
サラダに入っているトスカーナバイオレットをひと口かじると、とても甘みがあり、ついつい急いで食べたくなってしまう。
「そうですか、でしたらご一緒してもよろしいですか?」
私は小さく頷くと、彼はまた一度外を確認してから少し急ぎ気味に部屋を出ていく。
その隙に残りのトスカーナバイオレットを口に放り込むと、口の中が幸せに満たされていった。
残りのサラダを食べ終えるころに、蒲生さんは戻ってきた。
男性のお弁当とは思えないほど小さく、こじんまりとしている。
部屋に入るなり、そのまま椅子に座るとお弁当箱を広げていく。
二段に重なったお弁当箱には、上にラップサンドと下の段にはあまり見たことのないスープが入っている。
どうやら、スープを入れても漏れない仕組みのようで、蓋の開け方が若干複雑そうだった。
「美味しそうね」
髪の毛が汚れないように耳にかけ、パスタをいただく。
温かなとろみが、パスタによくからんでいてとても美味しい。
しかし、男性の食事はもっと肉や大きなお握りといったイメージがあったので、まさかラップサンドとスープが出てくるとは思わなかった。
「そうですか? お嬢様のお料理が私には美味しそうに見えますが」
隣の芝はなんとやら、と言うわけではなく単純に物珍しかった。
もうひと口食べると、今度はスープを飲み込む。 濃い味付けのパスタに比べあっさりとした味わいが口の中をリセットしてくれる。
「そうそう、蒲生さんも何かスープもってきていましたけど、どんなスープなんですか?」
ラップサンドを丁寧に食べている。
その手と口がとまり、ゆっくりと飲み込んでから私の問いに答えてくれた。
「これは、ルタバガのスープですよ」
また聞きなれない言葉を聞いた。
ルタバガ? それは野菜なのか出汁なのか、まったく見当がつかないが、見た感じだと野菜のスープのように思えた。
「ルタバガ?」
「知りませんか? 西洋カブなんて呼ばれていたりもしますが、日本ではあまり食べられませんね」
そもそも、カブなのか? 色合いが私の知っているカブの色ではなかった。
もっとこう優しい感じの色合いである。
「まぁ、カブって言ってますが、カブの仲間ではないんですけど、香りはキャベツのような葉菜の香りに、食感は固めです。 味はジャガイモやカボチャに似ているでしょうか? 独特なので表現が難しいですけど、旬なので美味しい時期ですよ」
この寒い季節に旬を迎える野菜とは、名前だけでなく食味や旬の時期までも、興味を惹かれてしまう。
私はコミュニケーションは苦手だが、知的好奇心は多いと思っている。
だから本を読んだり、勉強も手を抜きたくない。
自分が知らない世界が広がっていくのは、とても素晴らしいことだ。
それを手軽に手に入れれるのが本なのだが、経験もしたくともそれでは時間が足りなさすぎる。
少しでも怪我の危険性があると、お父様は遠ざけてしまう。 私ってそんなに軟弱なのだろうか?
お母様は、今日も相変わらず世界を飛び回っている。
昨日の報告を受けて、早々に帰国するらしいがいつになることやら。
「初めて聞く野菜だけど、少し興味があるわね」
「そうですか? こっちでは珍しいですけど、ヨーロッパではわりとメジャーな野菜です」
保温性が良いのか、僅かに湯気が見えるスープの香りが、クリームパスタに慣れた鼻に届いてくる。
「もしよろしければ少し食べてみますか?」
「え?」
スッと私にスープを渡してくる。 それほど物欲しそうにしていたのだろうか?
とろみのついたルタバガのスープが手を伸ばすと届く場所にある。
少し迷ったが、せっかくのチャンスなのでいただくことにした。
使っていないスプーンでひと口ぶん持ち上げ口に運ぶ、クリーミーな口当たりのスープが広がっていく。
確かに香りは青臭い感じがするが、味はとても美味しい。
「お、美味しい」
「それは良かったです」
安心したのか微笑むその顔は幼く見える。
運んできてくれた人にお礼を述べると、フォークをもって食べようとするが、気になることがある。
それは、目の前で私が食べるのを黙って見ている人がいるのだ。
「あなたは何か食べないの?」
自分ばかり食べるのも気が引けるので、相手にも聞いてみる。
「私のことは気にしないでください、後でしっかりといただきますので」
本を読んでいるときと違って「世界」に入り込めない食事では、黙って見られるとかなり緊張してくる。
食事の作法には自信があるけれども、食べている場面を見つめられて喜ぶ人は多くはいないと思う。
「だったら、今から食事にしては? 一緒に摂れば時間的にも効率が良いのでは?」
後からと言っているが、午後も私と一緒ならどこで食べるのか、きっと寝てから食べたりする可能性すらある。
それに、一緒に食べるのは悪い案ではないと思った。
そうすれば、緊張せずに食べられるうえに、彼の食の好みも少しは知ることができるかもしれない。
「ご一緒にと言われましても」
「いいの、遠慮しないで」
サラダに入っているトスカーナバイオレットをひと口かじると、とても甘みがあり、ついつい急いで食べたくなってしまう。
「そうですか、でしたらご一緒してもよろしいですか?」
私は小さく頷くと、彼はまた一度外を確認してから少し急ぎ気味に部屋を出ていく。
その隙に残りのトスカーナバイオレットを口に放り込むと、口の中が幸せに満たされていった。
残りのサラダを食べ終えるころに、蒲生さんは戻ってきた。
男性のお弁当とは思えないほど小さく、こじんまりとしている。
部屋に入るなり、そのまま椅子に座るとお弁当箱を広げていく。
二段に重なったお弁当箱には、上にラップサンドと下の段にはあまり見たことのないスープが入っている。
どうやら、スープを入れても漏れない仕組みのようで、蓋の開け方が若干複雑そうだった。
「美味しそうね」
髪の毛が汚れないように耳にかけ、パスタをいただく。
温かなとろみが、パスタによくからんでいてとても美味しい。
しかし、男性の食事はもっと肉や大きなお握りといったイメージがあったので、まさかラップサンドとスープが出てくるとは思わなかった。
「そうですか? お嬢様のお料理が私には美味しそうに見えますが」
隣の芝はなんとやら、と言うわけではなく単純に物珍しかった。
もうひと口食べると、今度はスープを飲み込む。 濃い味付けのパスタに比べあっさりとした味わいが口の中をリセットしてくれる。
「そうそう、蒲生さんも何かスープもってきていましたけど、どんなスープなんですか?」
ラップサンドを丁寧に食べている。
その手と口がとまり、ゆっくりと飲み込んでから私の問いに答えてくれた。
「これは、ルタバガのスープですよ」
また聞きなれない言葉を聞いた。
ルタバガ? それは野菜なのか出汁なのか、まったく見当がつかないが、見た感じだと野菜のスープのように思えた。
「ルタバガ?」
「知りませんか? 西洋カブなんて呼ばれていたりもしますが、日本ではあまり食べられませんね」
そもそも、カブなのか? 色合いが私の知っているカブの色ではなかった。
もっとこう優しい感じの色合いである。
「まぁ、カブって言ってますが、カブの仲間ではないんですけど、香りはキャベツのような葉菜の香りに、食感は固めです。 味はジャガイモやカボチャに似ているでしょうか? 独特なので表現が難しいですけど、旬なので美味しい時期ですよ」
この寒い季節に旬を迎える野菜とは、名前だけでなく食味や旬の時期までも、興味を惹かれてしまう。
私はコミュニケーションは苦手だが、知的好奇心は多いと思っている。
だから本を読んだり、勉強も手を抜きたくない。
自分が知らない世界が広がっていくのは、とても素晴らしいことだ。
それを手軽に手に入れれるのが本なのだが、経験もしたくともそれでは時間が足りなさすぎる。
少しでも怪我の危険性があると、お父様は遠ざけてしまう。 私ってそんなに軟弱なのだろうか?
お母様は、今日も相変わらず世界を飛び回っている。
昨日の報告を受けて、早々に帰国するらしいがいつになることやら。
「初めて聞く野菜だけど、少し興味があるわね」
「そうですか? こっちでは珍しいですけど、ヨーロッパではわりとメジャーな野菜です」
保温性が良いのか、僅かに湯気が見えるスープの香りが、クリームパスタに慣れた鼻に届いてくる。
「もしよろしければ少し食べてみますか?」
「え?」
スッと私にスープを渡してくる。 それほど物欲しそうにしていたのだろうか?
とろみのついたルタバガのスープが手を伸ばすと届く場所にある。
少し迷ったが、せっかくのチャンスなのでいただくことにした。
使っていないスプーンでひと口ぶん持ち上げ口に運ぶ、クリーミーな口当たりのスープが広がっていく。
確かに香りは青臭い感じがするが、味はとても美味しい。
「お、美味しい」
「それは良かったです」
安心したのか微笑むその顔は幼く見える。
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