上 下
81 / 112

番外編 とある高校生男子の独白

しおりを挟む
 多分、オレはそいつが好きだったのだ。
 当時は気がつかなかった。
 なぜ自分と正反対の内向的な性格で、いつも小難しい本を眉間に皺を寄せた顔でつまらなそうに読んでいてイライラさせられるそいつを目で追ってしまうのか。声をかけたところでそっけなく迷惑そうにされるのに絡んでしまうのか。
 自分の気持ちに向き合ったのなら、理由はすぐに分かったのに。もっといい近づき方があったはずなのに。
 気づいたときには遅かった。遅すぎた。
 そいつは死んでしまった。
 男同士だとか、そんなのは後悔の前ではすべて些細なことだった。全部かなぐり捨てて、ぶっ壊れてもいい、何を失ったっていいから、伝えればよかったのに。好きだって。
 次に好きな相手ができたのなら、絶対気持ちを伝える。好きだという確信はまだ持てなくても、気になったのならつかまえる。そう決めたのに、そんな相手が現れないままオレも死んだ。
 そして、ゲームかラノベのようなファンタジー世界に転生した。
 そこではオレは貴族の上見目もよく、女は勝手によってきた。だけれど満たされないのは、好きな相手ではないから。そして相手も見た目や地位に寄ってきているだけだから。
 両親が早くに他界し、若くして爵位を継いだが、オレは難なく公爵の仕事をこなした。
 そこそこの爵位の令嬢と結婚し、平凡に暮らすのだろう、そう思っていた。
 仮の姿で城下町を調査していたときだった。
 潤んだ大きな瞳に、それをふちどる長いまつげ。長い桃色の髪。豊かな形の良い胸。
 こんなに可愛い女の子は、前世を入れても初めて見た。
「助けて……」
 すがりつかれるともうだめだった。
 貴族の令嬢が城下町をふらふらしているはずがない。この子はきっと平民なのに。
 この子の外見を頭に叩き込んで、自分のことを印象づけて。
 前世の恋は気づく前に終わってしまったから、この子のことは絶対手に入れようと決めた。

 
 女の子との出会いからしばらくたち、オレは公爵としての仕事をしていた。
 そこで顔を合わせたのは、この前の女の子とは似ても似つかない少年。同じなのは髪の色だけ。まあまあ可愛いが、この前の女の子のように超絶美形というわけではない。
 それなのに、心が動いた。   
 女の子と出会ったあの時みたいに。
 オレの顔をマジマジ見つめていた少年の口から

「アーテル様……?」

 思わずみたいにそいつの知るはずがない、仮の名が出て。
 オレは迷わず少年の手首を捕まえた。

 
   ★★★



 今気づいたけど、前世のアルバートとシーズベルト、現世の相手の性格に近い感じですね。何かややこしいけど伝わるだろうか……。
 リクエストいただいてたのを消化したつもりだけど、なんか違う気もする……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

妖精のいたずら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,690pt お気に入り:393

不撓不屈

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:2,834pt お気に入り:1

川と海をまたにかけて

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:0

melt(ML)

BL / 連載中 24h.ポイント:248pt お気に入り:13

元ベータ後天性オメガ

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:281

アンバー・カレッジ奇譚

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:184pt お気に入り:0

飯がうまそうなミステリ

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:816pt お気に入り:0

悪魔皇子達のイケニエ

BL / 連載中 24h.ポイント:1,838pt お気に入り:1,935

処理中です...