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番外編 リディアのほしいもの 1

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「アーテル様、入ってもよろしいですか?」

 深夜、オレはアーテルの部屋を訪れた。リディアの姿だ。
 オレがリディアの時、彼はアーテルになっていることが多い。城に出仕するときはシーズベルト様だけれど。

「どうしたの、リディア? オレに可愛がってもらいたくなったー?」

 深夜の訪問にも関わらず、気分を害した様子はない。むしろ上機嫌だ。
 ゆったりした服装でくつろいでいたようだが、まだ寝ていなかったらしい。

「こんな時間にすみません。怖い夢を見て、眠れなくって……。一緒にいてもいいですか?」
「もちろん。おいで」

 快くリディアを受け入れるアーテル。
 もちろん怖い夢うんねんは嘘である。

「てか、寝室一緒にしてもいいんだよー?」
「いえ、それは。夜遅くお帰りになったとき、朝私が起こしてしまったら申し訳ないですし」

 それは建前で、毎日されるとオレがきついからなんだけど。
 いくら日中は昼寝できるっていっても無理。
 隣同士でソファーに座る。
 オレはさっと羽織りをとった。下に着ているのは薄い夜着。透けた布地にかろうじて小さなリボンで隠れるようになっている。
 何を隠しているのかは言わせないでくれ。恋人同士や夫婦で楽しむような官能的なデザインだ。
 リディアの体を上から下までガン見したアーテルが、ごくりと息を飲む。
 男の本能に負けるのは分かるが、嘘でもいいから見ていないふりをしろ。

「私、お願いがあるんです。アーテル様」

 普段よりうるませた目を上目遣いにして小首をかしげ、もともと大きく開いている胸元を、両腕で挟むようにして強調する。
 こんなに最強に可愛いオレのお願いは、聞くしかないはず。
 リディアのおねだりに、アーテルは特に弱い。
 オレの思惑通り、アーテルはでれっと頬を緩ませた。

「何リディア?  可愛いからおにーさんなんでもお願い聞いてあげるよー?」

 アーテル、ちょろ。
 何でもね。言質はとったぞ!
 オレはアーテルの膝の上にのった。向かい合わせになる形だ。

「私、あなたの子どもが欲しいんです。アーテル様。赤ちゃん作りましょう?」
「は……? ちょ、自分が何言ってるか分かってる?」

 さすがに焦ってる。
 手はしっかりリディアのお尻をつかんでるがな!

「私のこと嫌いですか? さっきなんでもお願い聞いてくださるって言ったのに。アーテル様の嘘つきっ」

 オレは頬を膨らませると、ぷいっと顔をそむける。
 アルバートがするときっついこの仕草も、リディアがすると可愛いことは知っている。

「んなわけないの分かってて言ってるよねー? 何か買って欲しいとかそういうものだと思ってたから……。
 もう、中身が男なだけに、男ウケよく分かっててあざといんだよ、リディアは!」
「えいっ」

 オレはアーテルをソファーに押し倒して、腹にまたがった。アーテルの夜着のボタンを外しながら、首筋に唇をはわせる。

「んっ……。いつもそんなことしないくせに……! ちょ、もうやりたいのは山々だけど、ちゃんと話そ? なんで急に赤ちゃんほしいなんて言うの?」

 流されまいとアーテルがオレを腹にのせたまま、上半身を起こす。
 ちっ。
 頭ん中性欲まみれのくせに、わずかな理性で踏みとどまりやがった。押せば絶対いけると思ったのに。
 なんて思っていることは顔には出さない。にっこり笑顔の首かしげキープのままで、

「ずっと欲しかったんです。言っていなかっただけで。タイミングに他意はありません」
「オレとの子ども?」
「はい」

 こくりと頷くオレ。

「リディアの子どもなら、絶対可愛いだろうなぁー」

 だろ?
 リディア似の娘なんか産まれたら、絶対嫁に出さない!って言いそうだな、こいつ。

「でしょう? じゃあ、アーテル様」

 この勢いで押してしまえっと言いくるめようとしたが、

「子ども作るにしてもゆっくり考えよう? オレも君も若いんだし、焦る必要ないから」
「アーテル様……」

 アーテルの煩悩より理性が勝ってしまった。しょぼん、と落ち込むオレ。
 マジかこいつ。初対面で中に出したやつと同一人物とは思えない。
 おまえどうした? 僧侶にジョブチェンジしたのか?ってレベル。

 今夜はこれ以上押しても無駄かもなぁー。
 アーテルの奴、意外に理性が強い。

「そうですね。このことは今後またゆっくりお話しましょう? じゃあ私、自分のお部屋で寝ますね☆」

 子作りしないならアーテルと一緒に寝る必要はない。
 オレはにっこり微笑むと、脱いだ羽織を羽織って立ち上がろうとする。のを手首をつかまれて阻止された。
 ん?
 子ども作らないなら、オレに何の用があるの?
 お話でもしたいのだろうか?
 きょとんとしているところを、ソファーに押し倒される。

「子供は作らないけど、こんな風に誘われて『じゃあバイバイ』なんてできるほど、オレ人間できてないからー?」
「え? アーテル様?」
「オレのためにこんなエロイ服着てきてくれたんだよねー?」
「そ、そんなわけじゃ……」

 まあ下心があったとはいえそうなんだけど、はっきり肯定するのは恥ずかしい。

「嬉しいな。今度は一緒に選びにいこっか」
「やです。そんなの恥ずかしいっ」

 今着ているこれは、魔女が冗談半分でプレゼントしてくれたものだ。男女でそういう店に買いにいくとか絶対いやだわ。かと言って男同士ならいいと言うわけではない。それはそれで、レベル高すぎ。

「薄いから、リディアの可愛いところがよく見えるね?」
「あ、ん……!」

 胸の頂きをつんっと指先でつつかれ、思わず声を出してしまう。

「赤ちゃん、作らないんですよね?」
「うん。だから中には出さないよ? 口に出してごっくんしてもらおうかなー? お腹か胸にぶっかけるのもいいしー」

 今はリディアだし、絶対アーテルとやりたくないってわけではないけれども。もともとやる気で来たわけだし。
 こいつシーズベルト様より自分本位なプレイが多いんだよな。分かりやすく言えばAVっぽいというか、オレ飲むの好きじゃねーのに。
 まぁ、誘っといて「子作りしないならさよなら☆」はあからさますぎっていうか、あんまりだよな……。
 のちのちしこりが残ったら困るし。仕方ないか。
 オレは可愛らしく首を傾げた。

「優しくしてくださいね?」

 激しくしないように釘を刺しておく。

「オレ、いつも優しいだろー?」
「えーと……」
 
 正直コメントしたくないわ。

「えー?おっかしいなー」

 なぜか首を傾げるアーテル。


  ★★★

 念のため本編読み返したら、アーテル中にはだしてませんでした(笑)おっかしいな。絶対出してると思ったのに……。
 一応ぎりぎりで理性があったようです。
 というわけで番外編と齟齬がありますが、修正すると大変そうなので(修正もれもでてきそうなので)そのままですがご了承ください。
 
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