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第1章 三人の日常(1-1)

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 家を出ると十二月の空が高かった。週明けの三日だ。どこまでも澄み渡る青空を見上げながら線路沿いの道を歩いていると、革靴の足音が響いてくる。
「朋樹、オッハヨー」
 背中から声をかけてきたのはいつも通りの柳ヶ瀬凛だった。
「ああ、おはよう」
「今日は寒いね」
 凛は前髪を両側に分けて丸いおでこを出したボブヘアで、顔半分をアメリカ国旗柄の太いマフラーでグルグル巻きにしている。顔も肩も隠れるくらいの太いマフラーがお気に入りなのはいいけど、柄はどうにかして欲しい。留学でもするのかよって思うけど、そもそも凛は英語が赤点ぎりぎりだ。
 オシャレと防寒は別なのか。女子のこだわりはよく分からない。
「寒波だって。昼も六度までしか上がらないってさ」
「マジで?」
 凛は手袋をはずして僕の頬に人差し指の腹を押し当てた。
「朋樹の顔、冷たいな。マフラーぐらいしたら」
 僕はいつもマフラーも手袋もしていない。べつに寒さを我慢しているわけではないし、凛のマフラーと比べられるのが嫌だからでもない。首や手に何かが当たっている感触が苦手なのだ。
 凛がふざけて僕の頬を両手で挟む。
「人間マフラー『ぬくもり』だぞ」
 昭和の家電みたいな名前だな。でも確かに凛の指先は温かい。
「カイロでも持ってたのか」
「あたしの心が温かいんです」
 ああそうですか。
 校門前まで来るとちょうど国道の踏切の方から鴻巣高志がやってきた。
「おう、朋樹、凛も、オッス」
「やあ」
「オハヨ」
「おまえ寒くないの?」
「でしょ、マフラーぐらいしろって言っても聞く耳持たないのよ」
「おまえがプレゼントしてやれば。クリスマスに」
 高志の言葉に凛が急に黙り込む。
「あれ、もしかして、内緒で準備してたとか。悪い悪い」
「んなわけないじゃん」
「手作りとかしてたのかよ」
「違うって言ってんだろ、もう」
 凛が鞄を振り回す。鴻巣の背中にクリーンヒット。でも、高志はうれしそうだ。
「これがないと一日が始まらねえよ」
 昇降口へ駆けていく高志を凛は追わなかった。
「あんたもプレゼントなんてないからね。期待しないでよ」
 分かってるよ。凛が不器用だってことは。
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