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第23章 僕と女子二人
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「先輩、おはようございます」
翌朝、食パンマンションの前を通りかかったところで、後ろから声をかけられた。
「ああ、まふゆさん」
ショートヘアで丸顔の女の子が頬を膨らませて僕をにらんでいた。
「先輩、なんできのう返信くれなかったんですか」
「何も用事がなかったから」
「既読はついたからずっと待ってたんですよ」
「そうなのか。ごめんね」
「先輩って、なんでも『ごめんね』ですよね」
「そうかな」
「ジョークは寒いし、反応は薄いし」
良いところが何もないな。まあ、それが僕だ。
「オハヨ、朋樹、どうしたの?」
凛が食パンマンションから出てきた。
「ああ、おはよう」
僕が凛とあいさつしているのをまふゆさんがじろっと見ている。僕はどうも扱いの難しい女の子と知り合いになる運命らしい。
「知り合いですか?」と凛に詰め寄る。
「うん、こいつのカノジョ」と凛が僕と腕を組む。
ちょっと、何言ってんの。離れろよ。
「え、そうなんですか」
「違うよ。真面目に受け取らないでよ。凛も変なこと言うなよ」と僕は腕をほどいた。
「じゃあ、何なんですか」
凛がニヤニヤしている。何か新しいおもちゃを見つけたような顔だ。
「問題です。私は誰でしょう?」
面倒なことになりそうだから僕は説明してやった。
「こちらは柳ヶ瀬凛。僕らはずっと一緒のクラスだったんだよ。カレシ持ちだよ」
「じゃあ、二股ですか」
どうしたらそういう話になるんだよ。
「ねえ、朋樹、聞いた? あたし、二人の男を天秤にかけてもてあそぶ悪女だって。あたしのことそんなに美人だってほめてくれなくてもいいのに」
「いえ、そんなこと言ってませんから」
もう朝から修羅場かよ。僕が二股できるイケメンならともかく、誰ともつきあってないのに、なんでこんなことに巻きこまれるのさ。あれ、『両手に幽霊』って何のことだっけ?
頭が痛くなってきた。
この場にとどまっていてもしょうがないので僕が歩き出すと、二人も並んでついてきた。歩行者用踏切はまだ先の方なのに、いつもの福岡空港行きの電車が通り過ぎてしまっていた。
「これじゃあ、遅刻だよ」
僕らは少し足を速めて歩いた。後ろから二人の話し声が聞こえる。
「先輩、あたし一片まふゆです。初めまして」
「まふゆちゃん」
「なんですか」
「こいつのこと、好きなの?」
「はい」
え、何言ってんの?
「好きですよ。いけませんか」
「やめておいたほうがいいんじゃない」
「どうしてですか」
「こいつね、あたしのパンツ見ても黙ってニヤニヤしてるようなエロいやつだから」
僕は思わず振り向いた。
「何言ってんだよ」
「そうなんですか、先輩?」
まふゆさんまで本気にしてるよ。
「いや、まあ、そういうことがあったのは事実だけど、別に見たくて見たわけじゃなくて、目に入っただけだよ」
「事実って、ニヤニヤしてたってことがですか」
ああ、もう面倒くさい。どっちでもいいですよ。
「あとね、こいつ嘘がつけない」と凛が僕を指さす。
「正直っていうことですよね」
凛が首を振りながら笑う。
「頭悪いからだよ」
「ひどいな」と、一応抗議しておく。
「ほめてんじゃん」
「どこが」
「嘘のつけない裏表のない男だって。最高のほめ言葉じゃん」
「最初からそう言えよ。違う言い方だったじゃんか」
「なんかお二人とも仲良すぎじゃないですか」
「ねえ」
凛がまふゆさんに耳打ちしている。
「ほっぺふくらますとフグみたいでかわいいよ」
「あたし下関から引っ越してきたんですよ。中学の時に、男子からおまえ下関名物だなってさんざんからかわれちゃって」
「それってさ、その男子、まふゆちゃんのこと好きだったんだよ」
「そんなわけないですよ」
「そいつ、フグの形の消しゴム使ってなかった?」
「ああっ。魚市場のお土産物だって言ってた!」
まふゆさんが絶叫する。
「ほうら」と凛がまふゆさんの頬を人差し指の腹でつつく。
予鈴が鳴っている。
校門に高志が立っていた。軽く右手を挙げて僕らに手を振っている。
「おせえぞ。どうした、遅刻だぞ」
突進していった凛が鞄を振り回す。
「痛ってえ」
まふゆさんが二人の様子を見て驚いている。
「あれがカレシさんですか」
「うん、鴻巣高志っていうんだ」
「仲良いですね」
「だろ。あれでさ、意外と凛の方が夢中なんだよ」
「そうなんですか」
「朋樹、何か言った?」
「ものすごい悪女だから、言ってること信じちゃダメだって教えてあげてた」
「うふふ、そんなにほめないでよ」
凛がまたまふゆさんに顔を寄せてささやいている。
「こいつね、あたし達をくっつけるために頑張ってくれたすごくイイやつだから。まふゆちゃん、よろしく頼むね」
「信じちゃダメなんですよね」
「さあどうでしょう」
そこはちゃんと肯定しろよ。
「ねえ、まふゆちゃん」
「なんですか」
「パンツの話はホント」
「やっぱりそうなんですか」
「あとね」
凛が僕を指さす。まふゆさんが耳を寄せる。
「あたしが、昔こいつのこと好きだったことがあるのも、ホント」
え、そうだったの。初耳なんですけど。
まふゆさんが僕をにらみつける。凛がにやけながら耳打ちする。
「こいつ、すごく驚いてるでしょ。さて、今の話はホントでしょうか、嘘でしょうか」
「えー、もう、どれがどれだか分からないですよ」
まふゆさんがまたフグみたいに頬を膨らませた。
「ほんと、悪女ですね、凛先輩は」
「またほめられちゃった」
凛がうれしそうだ。
痴話げんかで遅刻だよ。一度もモテたことないのにさ。
翌朝、食パンマンションの前を通りかかったところで、後ろから声をかけられた。
「ああ、まふゆさん」
ショートヘアで丸顔の女の子が頬を膨らませて僕をにらんでいた。
「先輩、なんできのう返信くれなかったんですか」
「何も用事がなかったから」
「既読はついたからずっと待ってたんですよ」
「そうなのか。ごめんね」
「先輩って、なんでも『ごめんね』ですよね」
「そうかな」
「ジョークは寒いし、反応は薄いし」
良いところが何もないな。まあ、それが僕だ。
「オハヨ、朋樹、どうしたの?」
凛が食パンマンションから出てきた。
「ああ、おはよう」
僕が凛とあいさつしているのをまふゆさんがじろっと見ている。僕はどうも扱いの難しい女の子と知り合いになる運命らしい。
「知り合いですか?」と凛に詰め寄る。
「うん、こいつのカノジョ」と凛が僕と腕を組む。
ちょっと、何言ってんの。離れろよ。
「え、そうなんですか」
「違うよ。真面目に受け取らないでよ。凛も変なこと言うなよ」と僕は腕をほどいた。
「じゃあ、何なんですか」
凛がニヤニヤしている。何か新しいおもちゃを見つけたような顔だ。
「問題です。私は誰でしょう?」
面倒なことになりそうだから僕は説明してやった。
「こちらは柳ヶ瀬凛。僕らはずっと一緒のクラスだったんだよ。カレシ持ちだよ」
「じゃあ、二股ですか」
どうしたらそういう話になるんだよ。
「ねえ、朋樹、聞いた? あたし、二人の男を天秤にかけてもてあそぶ悪女だって。あたしのことそんなに美人だってほめてくれなくてもいいのに」
「いえ、そんなこと言ってませんから」
もう朝から修羅場かよ。僕が二股できるイケメンならともかく、誰ともつきあってないのに、なんでこんなことに巻きこまれるのさ。あれ、『両手に幽霊』って何のことだっけ?
頭が痛くなってきた。
この場にとどまっていてもしょうがないので僕が歩き出すと、二人も並んでついてきた。歩行者用踏切はまだ先の方なのに、いつもの福岡空港行きの電車が通り過ぎてしまっていた。
「これじゃあ、遅刻だよ」
僕らは少し足を速めて歩いた。後ろから二人の話し声が聞こえる。
「先輩、あたし一片まふゆです。初めまして」
「まふゆちゃん」
「なんですか」
「こいつのこと、好きなの?」
「はい」
え、何言ってんの?
「好きですよ。いけませんか」
「やめておいたほうがいいんじゃない」
「どうしてですか」
「こいつね、あたしのパンツ見ても黙ってニヤニヤしてるようなエロいやつだから」
僕は思わず振り向いた。
「何言ってんだよ」
「そうなんですか、先輩?」
まふゆさんまで本気にしてるよ。
「いや、まあ、そういうことがあったのは事実だけど、別に見たくて見たわけじゃなくて、目に入っただけだよ」
「事実って、ニヤニヤしてたってことがですか」
ああ、もう面倒くさい。どっちでもいいですよ。
「あとね、こいつ嘘がつけない」と凛が僕を指さす。
「正直っていうことですよね」
凛が首を振りながら笑う。
「頭悪いからだよ」
「ひどいな」と、一応抗議しておく。
「ほめてんじゃん」
「どこが」
「嘘のつけない裏表のない男だって。最高のほめ言葉じゃん」
「最初からそう言えよ。違う言い方だったじゃんか」
「なんかお二人とも仲良すぎじゃないですか」
「ねえ」
凛がまふゆさんに耳打ちしている。
「ほっぺふくらますとフグみたいでかわいいよ」
「あたし下関から引っ越してきたんですよ。中学の時に、男子からおまえ下関名物だなってさんざんからかわれちゃって」
「それってさ、その男子、まふゆちゃんのこと好きだったんだよ」
「そんなわけないですよ」
「そいつ、フグの形の消しゴム使ってなかった?」
「ああっ。魚市場のお土産物だって言ってた!」
まふゆさんが絶叫する。
「ほうら」と凛がまふゆさんの頬を人差し指の腹でつつく。
予鈴が鳴っている。
校門に高志が立っていた。軽く右手を挙げて僕らに手を振っている。
「おせえぞ。どうした、遅刻だぞ」
突進していった凛が鞄を振り回す。
「痛ってえ」
まふゆさんが二人の様子を見て驚いている。
「あれがカレシさんですか」
「うん、鴻巣高志っていうんだ」
「仲良いですね」
「だろ。あれでさ、意外と凛の方が夢中なんだよ」
「そうなんですか」
「朋樹、何か言った?」
「ものすごい悪女だから、言ってること信じちゃダメだって教えてあげてた」
「うふふ、そんなにほめないでよ」
凛がまたまふゆさんに顔を寄せてささやいている。
「こいつね、あたし達をくっつけるために頑張ってくれたすごくイイやつだから。まふゆちゃん、よろしく頼むね」
「信じちゃダメなんですよね」
「さあどうでしょう」
そこはちゃんと肯定しろよ。
「ねえ、まふゆちゃん」
「なんですか」
「パンツの話はホント」
「やっぱりそうなんですか」
「あとね」
凛が僕を指さす。まふゆさんが耳を寄せる。
「あたしが、昔こいつのこと好きだったことがあるのも、ホント」
え、そうだったの。初耳なんですけど。
まふゆさんが僕をにらみつける。凛がにやけながら耳打ちする。
「こいつ、すごく驚いてるでしょ。さて、今の話はホントでしょうか、嘘でしょうか」
「えー、もう、どれがどれだか分からないですよ」
まふゆさんがまたフグみたいに頬を膨らませた。
「ほんと、悪女ですね、凛先輩は」
「またほめられちゃった」
凛がうれしそうだ。
痴話げんかで遅刻だよ。一度もモテたことないのにさ。
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