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初めての仕事

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翌朝ーー


ラナは日が昇り始める頃にはすでに起床し、
アンジュが来るまで心落ち着きなく過ごしていた。


「(アンジュはまだかしら?早く皆の役に立ちたいわ!)」

それからしばらくすると扉がノックされる。


「っアンジュ、おはよう!今日から久しぶりの仕事なのよね、カバルさんの元へはいつ行けばいいかしら!」

目をキラキラとさせ、落ち着きのないその様子は、
好きなものを目前に控えた幼い子供のようで、アンジュは微笑ましく思った。


「ふふ、おはようございます、ラナ様。
お早いお目覚めだったのですね、私をお呼びになればよろしかったですのに。」


ラナの部屋の隣には、侍女が寝泊まりする部屋が設けられている。
そして部屋の中には隣の部屋へと続く扉があるのだが、これはラナが夜間などに用向きがあるとき、
侍女を呼ぶために使用できるよう設置されたものであるのだ。


「ただ早く起きてしまっただけよ、あなたを呼びつけるほどではないわ。」


「それでもお呼びください。今後は遠慮なさらないでくださいね。
…さて、それでは朝食の前に、支度を済ませておきましょう!」


「そうね。あ、ねぇアンジュ。
城の回復魔術師には制服があるの?」


「いいえ、各々自由にされてますわ。
ラナ様は城下町では制服を?」


「えぇ!以前治療した方から、似合うだろうってプレゼントされた白衣があるの!
ちゃんと持ってきたわ!結構気に入ってるのよ。」


「まぁ、それならせっかくですからそちらを着用していきましょう!
さて、それはどちらに?」


「ここにあるわ!これよ!」

バサっと嬉しそうにクローゼットから取り出してアンジュの前に掲げて見せた。


「……ラナ様?これはその、足元が余りにも心許ない気がしますが…」


「?そうかな…?」


ラナの膝上くらいの丈を見てアンジュは思った。

「(その方はどういうつもりでこれを…?
まぁ、明らかに下心があったのだろうとは思いますが。
下衆野郎ですわね。)

お気に入りなのでしたら仕方ありません。
しかし、あまり足を晒すのはよろしくないので少し裾を伸ばしておきましょう。それでどうにか膝までは隠れますわ。」


そう言ってアンジュはいそいそと裾を直していった。



そうして支度を済ませ、
朝食も終えた頃にカバルが訪ねてきた。


「…失礼する。ラナ殿、支度は整った……」

最後まで言葉が続かなかった。


「……ラナ殿、その格好はなんだ?もしやその姿で仕事をする訳ではあるまいな?」


「え。いけませんか?服装は自由だと聞いたんですが…。」

 
「…悪くはないが、

(随分と目のやり場に困る衣服だな…。
ルイス殿あたりがまたうるさくなりそうだ。)

…まあいい。これから仕事場を案内するから付いてきてくれ。」


「はい!」




治療所にてーーーー


「ここが今日から君も一緒に働く仕事場だ。

君を入れて3人の回復魔術師の他に、約10名の助手が働いてくれている。
その者達の事は少しずつ覚えていくといい。
それから、国民も治療のためここに訪れるから、混乱を防ぐために受付と待合室が設けられている。
そしてこちらの部屋が私達が治療を行う場所だ。
今日は私の仕事を見学して、明日から実際に治療に取り組んでもらえたらいい。」


「分かりました。もう1人の方は今日来られるんですか?」

「あぁ、もうすぐ来るはずだ。来たら紹介するから、それまで所内を案内しておこう。」


こうして説明を受けて回るラナの白衣姿を見て、他の者達がぎょっと目を剥きながらも、幸せそうに癒されていた。


それから十数分後、2人の前に壮年の男性が現れた。


「君が今日から一緒に働いてくれるラナ君だね。はじめまして、私はネオ・マスクルだ。
ここの副所長をしている。普段はあまり城内にはいなくてね。
…申し訳ないが、今日は君との時間があまり取れそうにないんだ。
だから明日以降、君のことを色々と教えて欲しい。これからよろしく頼みますよ。」


「はい!慣れるまでは色々とご迷惑をおかけすると思いますが、
精一杯やらせていただきます!」


「うん、元気もあってよろしい。その服もよく似合っているね。
カバル、今日は彼女のことをお願いするよ。」


「あぁ、大丈夫だ。これからこの国のため、頑張ってもらうとしよう。」




こうしてラナはカバルの仕事に付き添い、初めての仕事を終えたのだった。

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