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第2章~ジロー、人里へ出る~
ユキの腹減り事情。
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「ユキってさ、消えてる時ってどんな感じなの?」
それはふとした疑問だった。
その日は、朝から日課の狩りや稽古などを終えて、食事の準備をしてからいつものように日向ぼっこをしているアシナを呼んだ。
「アシナー、ごはんだよー!」
自分を呼ぶ声を聞いたアシナはゆっくりと起き上がると、のしのしという音が聞こえてきそうな足取りでこちらに歩いてくる。気だるそうに歩いてくるが長い尻尾が左右に大きく振れて風を巻き起こしているところを見ると機嫌は悪くなさそうだ。
「あれ?ユキは一緒じゃないの?」
いつもはおれが稽古なんかしてる時はアシナと一緒にいるんだけどな。
「そういえばおらぬな。朝までは近くにいたのだが。」
「散歩でも行ってるのかな。」
一応、周りにいないか見回して見るがそれらしい姿は見受けられない。
「ユキー!何処にいるのー!ご飯だから出ておいで!」
するとすぐに肩に重みを感じる。
【呼ンダ?】
「なんだユキ、消えてたのか。ごはんだよ。一緒に食べよう。」
【ン!】
ユキが肩から降りると三人揃って食事を始める。
アシナさんには最近のお気に入りである、ラヴィの丸焼きだ。丸焼きと言っても、ただ焼いているだけではなく、アリスに街から調味料や香辛料などを持ってきてもらい、それらでしっかりと味付けしてある。
さらにはしっかりと前日から下ごしらえを始めて下味まで付けている。
一度そうしてしまってからは、ただの丸焼きを出した時には「今日は手を抜いたな。」と姑顔負けの嫌みを言われ、ラヴィをそのまま出そうものなら「こんなただの肉の塊食えるかっ!」などと言われてしまった。
ただの肉の塊っておれが来る前は何百年とそういうものを食べてきたはずなのに、おれが少し手を加えてしまったばかりに贅沢になってきてしまっている。セレブ犬ならぬセレブ狼だ。
少しは隣のユキを見習ってほしいものだ。出されたものは何でも食べるし、美味しいかどうか聞けば必ず【美味シイヨ!】と、言ってくれる。そうやって素直に言ってもらえると、作ってよかったなと思えるもんな。
アシナさんにもそういう純粋な心を取り戻してほしいな。
じとっと見ていると、視線に気付いたアシナに「何だ?」と、言われたので含みを持たせたように「別に。」と返してやった。何か思うようなところはあったみたいだけど、そんなことより今は肉だと言わんばかりに、またがっつき始めた。
その横で自分のごはんをもしゃもしゃと食べるユキを見てほっこりする。好き嫌いがないって素晴らしいな。
……ユキってお腹減るのかな。
いやそりゃ今食べてるんだから減ってるんだろうけど、そもそも消えてる時ってどんな感じなんだろう。
「ユキってさ、消えてる時ってどんな感じなの?」
【ン?】
ユキは食事をやめて、顔を上げてこちらを見る。
「いやお腹が減るのは見ててわかるんだけどさ、消えてる時は実体が無いわけじゃん。それともその姿のまま違うところに行ってるの?」
ユキは質問の意味がわからなかったのか、小首を傾げている。
「えっと、じゃあ消えてる時には意識はあるの?それとも無意識なの?」
【意識?アルヨ。デモ、ボウットシテル】
意識はあるけどぼうっとしてる?それは無意識とは違うのだろうか。でも呼んだらすぐに出てくるし無意識という訳ではないんだろうな。それともただ単にそういう仕様なのだろうか。
そんなやり取りを見かねたアシナが食事をやめて声を掛けてきた。口の端には食べかすが付いている。
「精霊が以前、世界に近い存在という話はしただろう。そして本来は人間などには見ることの出来ない存在だと。それが通常の状態なのだ。
だから今のユキや前のテラという精霊はわざわざ人間に認識できるようにしているということだな。」
「んー、結局俺達が精霊を見える状態でも、見えない状態でも精霊達にしてみればあんまり変わんないってこと?」
「概ねそういうことだな。私達が見えていないだけで精霊達は普通に生活しているわけだからな。
簡単に言えば人間に空気や魔素を見ろと言っているようなものだ。空気や魔素は人間は存在は知っていても、実際に認識したり見ることはできない。それと同じように通常は精霊がそこに存在していたとしても人間には認識も知覚もできぬ訳だ。」
確かに空気は必要だけど目で見えるもんじゃないもんね。
「じゃあユキ的には見えてる時はなんか力を使ってるってことなんだ。消えてる時の方が何にも力を使ってないから楽ってことだよね。」
【ン?アンマリ変ワンナイヨ?】
「先ほども言った通りただの認識の問題だ。単にユキがジローと喋りたいとかお腹減ったとか思ったら姿が見えるようなものだろう。
まぁ私も精霊自身ではないしいつか成体の精霊にでも聞いて見ればいいだろう。」
そう言うとアシナは再び食事に戻った。ユキもあまり興味がないのか黙々と食事をしている。
それにしても人間には知覚できないか。じゃあ最初にユキと会話が出来たおれは幸運だったってことなんだろうか。ユキの気分次第ではおれはユキとは会えなかった訳だもんな。
知覚出来ないと言えば魔素の話もか。アシナは普通、人間には魔素が知覚出来ないと言っていた。
じゃあ魔素を知覚出来ているおれはなんだろう。ただ単に普通じゃないってことで済ませていいんだろうか。それとも別の……。
今はこれ以上考えてもよくわかんないからとりあえずごはんを食べてから考えようかな。
腹が減っては戦が出来ぬって言うもんね。考えるのはお腹が一杯になってからにしよう。
それはふとした疑問だった。
その日は、朝から日課の狩りや稽古などを終えて、食事の準備をしてからいつものように日向ぼっこをしているアシナを呼んだ。
「アシナー、ごはんだよー!」
自分を呼ぶ声を聞いたアシナはゆっくりと起き上がると、のしのしという音が聞こえてきそうな足取りでこちらに歩いてくる。気だるそうに歩いてくるが長い尻尾が左右に大きく振れて風を巻き起こしているところを見ると機嫌は悪くなさそうだ。
「あれ?ユキは一緒じゃないの?」
いつもはおれが稽古なんかしてる時はアシナと一緒にいるんだけどな。
「そういえばおらぬな。朝までは近くにいたのだが。」
「散歩でも行ってるのかな。」
一応、周りにいないか見回して見るがそれらしい姿は見受けられない。
「ユキー!何処にいるのー!ご飯だから出ておいで!」
するとすぐに肩に重みを感じる。
【呼ンダ?】
「なんだユキ、消えてたのか。ごはんだよ。一緒に食べよう。」
【ン!】
ユキが肩から降りると三人揃って食事を始める。
アシナさんには最近のお気に入りである、ラヴィの丸焼きだ。丸焼きと言っても、ただ焼いているだけではなく、アリスに街から調味料や香辛料などを持ってきてもらい、それらでしっかりと味付けしてある。
さらにはしっかりと前日から下ごしらえを始めて下味まで付けている。
一度そうしてしまってからは、ただの丸焼きを出した時には「今日は手を抜いたな。」と姑顔負けの嫌みを言われ、ラヴィをそのまま出そうものなら「こんなただの肉の塊食えるかっ!」などと言われてしまった。
ただの肉の塊っておれが来る前は何百年とそういうものを食べてきたはずなのに、おれが少し手を加えてしまったばかりに贅沢になってきてしまっている。セレブ犬ならぬセレブ狼だ。
少しは隣のユキを見習ってほしいものだ。出されたものは何でも食べるし、美味しいかどうか聞けば必ず【美味シイヨ!】と、言ってくれる。そうやって素直に言ってもらえると、作ってよかったなと思えるもんな。
アシナさんにもそういう純粋な心を取り戻してほしいな。
じとっと見ていると、視線に気付いたアシナに「何だ?」と、言われたので含みを持たせたように「別に。」と返してやった。何か思うようなところはあったみたいだけど、そんなことより今は肉だと言わんばかりに、またがっつき始めた。
その横で自分のごはんをもしゃもしゃと食べるユキを見てほっこりする。好き嫌いがないって素晴らしいな。
……ユキってお腹減るのかな。
いやそりゃ今食べてるんだから減ってるんだろうけど、そもそも消えてる時ってどんな感じなんだろう。
「ユキってさ、消えてる時ってどんな感じなの?」
【ン?】
ユキは食事をやめて、顔を上げてこちらを見る。
「いやお腹が減るのは見ててわかるんだけどさ、消えてる時は実体が無いわけじゃん。それともその姿のまま違うところに行ってるの?」
ユキは質問の意味がわからなかったのか、小首を傾げている。
「えっと、じゃあ消えてる時には意識はあるの?それとも無意識なの?」
【意識?アルヨ。デモ、ボウットシテル】
意識はあるけどぼうっとしてる?それは無意識とは違うのだろうか。でも呼んだらすぐに出てくるし無意識という訳ではないんだろうな。それともただ単にそういう仕様なのだろうか。
そんなやり取りを見かねたアシナが食事をやめて声を掛けてきた。口の端には食べかすが付いている。
「精霊が以前、世界に近い存在という話はしただろう。そして本来は人間などには見ることの出来ない存在だと。それが通常の状態なのだ。
だから今のユキや前のテラという精霊はわざわざ人間に認識できるようにしているということだな。」
「んー、結局俺達が精霊を見える状態でも、見えない状態でも精霊達にしてみればあんまり変わんないってこと?」
「概ねそういうことだな。私達が見えていないだけで精霊達は普通に生活しているわけだからな。
簡単に言えば人間に空気や魔素を見ろと言っているようなものだ。空気や魔素は人間は存在は知っていても、実際に認識したり見ることはできない。それと同じように通常は精霊がそこに存在していたとしても人間には認識も知覚もできぬ訳だ。」
確かに空気は必要だけど目で見えるもんじゃないもんね。
「じゃあユキ的には見えてる時はなんか力を使ってるってことなんだ。消えてる時の方が何にも力を使ってないから楽ってことだよね。」
【ン?アンマリ変ワンナイヨ?】
「先ほども言った通りただの認識の問題だ。単にユキがジローと喋りたいとかお腹減ったとか思ったら姿が見えるようなものだろう。
まぁ私も精霊自身ではないしいつか成体の精霊にでも聞いて見ればいいだろう。」
そう言うとアシナは再び食事に戻った。ユキもあまり興味がないのか黙々と食事をしている。
それにしても人間には知覚できないか。じゃあ最初にユキと会話が出来たおれは幸運だったってことなんだろうか。ユキの気分次第ではおれはユキとは会えなかった訳だもんな。
知覚出来ないと言えば魔素の話もか。アシナは普通、人間には魔素が知覚出来ないと言っていた。
じゃあ魔素を知覚出来ているおれはなんだろう。ただ単に普通じゃないってことで済ませていいんだろうか。それとも別の……。
今はこれ以上考えてもよくわかんないからとりあえずごはんを食べてから考えようかな。
腹が減っては戦が出来ぬって言うもんね。考えるのはお腹が一杯になってからにしよう。
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