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第1章 転生幼女は防御特化を試みる
第8話 模擬戦ー1
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父さんの訓練場は、サラン家の屋敷のすぐ隣にある。
訓練場は父さんの弟子五十人以上を収容できるほどの広さだ。
「……失礼します」
ここに来るのは二歳以来である。
その時は訓練の気迫で泣きそうになってしまったんだっけ。
ぶっちゃけ今も不安で逃げ出したいくらいなのだけど。
「……うぅ」
私が不安でびくついていると、周りの兵士たちが私のことに気が付き始める。
突然の私の来訪は彼らにも衝撃だったようで、内緒話のような声が飛び交っていた。
私の耳にはその会話の内容が嫌でも飛び込んでくる。
「アリエ様だ」
「久しぶりに見たぞ」
「噂によれば、ずっと引きこもっていたらしいって」
「どうしてアリエ様が、ソット様と?」
兵士たちには好奇の目を向ける者、訝しむ者、多様な反応をみせていた。
父さんが手を一つパンと叩くと、それらの声は一斉に止み、全ての視線は彼を向いた。
「今からお前たちの中から一人、私の娘と模擬戦をしてもらう」
兵士たちは、父さんの一言に先より一層騒めく。
「アリエ様と?」
「どうしてまた急に?」
「戦闘なんてそもそもアリエ様には……」
彼ら見せたのは当然の反応だった。私も同じ気持ちである。
今までまともに戦闘経験がない私に、どうして戦闘の才があると思ったのか。
分からない。父さんは今、何を考えているのだろう。
「クラン。どうだ。やれるか?」
困惑している間に話は進んでいく。
父さんは数多の兵士の中から一人を指名した。
クランと呼ばれた人物は私でも知っている、この訓練場でも指折りの両手剣使いだ。
私でもその活躍は、部屋にいても耳に入ってくるほどの手練れなのだけど……。
「……わかりました。ソット様の命とあれば」
兵士たちの中から、一人歩き出たのは茶髪の好青年。
彼がクランだ。活躍を知っているからか、威圧感を覚える。
「よし、アリエ。お前も武器を取れ」
と。父さんは私に向き直り、壁にかけられた武器を指差す。
一般的な模擬戦は基本的に三つの木製の武器を選んで戦うことになる。
一つが短剣。一つが片手剣。一つが両手剣。
武器の良し悪しは分からないが、木製とはいえ両手剣は私には振り回せないだろう。
ならば無難に片手剣だろう。これなら盾もついてくる。
危険になったら盾を構えればいい。
「…………はぁ」
溜息が漏れる。
胸当てなどの防具を身につけながら、私は訳もなく天井を仰いだ。
私の足は微かに震えている。
流石に兵士たちも不安げに私を見ていた。
「さぁ。アリエ、やれるな?」
「……は、はい」
私は呼吸を整えながらも頷く。
ここで首を横に振れば、間違いなく父さんには呆れられるだろう。
ならば私は、ここでできる限りをやるしかないのだ。
私は意を決し、真ん中に用意された模擬戦場に歩く。
「……すみませんソット様、少しよろしいでしょうか?」
今から模擬戦が始まる、という時にクランが遠慮がちに手を上げた。
「どうした?」
「何かハンデをつける必要があるのではないでしょうか? アリエ様はまだ子供です」
「いや。いい。危険が及ぶようなことになれば、私が割って入ろう」
「……なるほど。分かりました。では、全力で」
……もしかしたら私、死ぬかもしれない。
「制限時間は三分。魔法の使用は有りとしよう。その間、どちらかが一撃を与えられればその者の勝利とする。……それでは両者、位置につき名を名乗れ」
沈黙に囲まれながら、私たちは所定の位置につく。
一つの深呼吸をして、私の方から震える声で名乗りを上げた。
「アリエ……サラン、です」
「クラン・フォールです。よろしくお願い致します、アリエ様」
クランはにこりと微笑むと両手剣を構えた。
対する私は苦笑い返すことしかできない。
模擬戦が始まる。
訓練場は父さんの弟子五十人以上を収容できるほどの広さだ。
「……失礼します」
ここに来るのは二歳以来である。
その時は訓練の気迫で泣きそうになってしまったんだっけ。
ぶっちゃけ今も不安で逃げ出したいくらいなのだけど。
「……うぅ」
私が不安でびくついていると、周りの兵士たちが私のことに気が付き始める。
突然の私の来訪は彼らにも衝撃だったようで、内緒話のような声が飛び交っていた。
私の耳にはその会話の内容が嫌でも飛び込んでくる。
「アリエ様だ」
「久しぶりに見たぞ」
「噂によれば、ずっと引きこもっていたらしいって」
「どうしてアリエ様が、ソット様と?」
兵士たちには好奇の目を向ける者、訝しむ者、多様な反応をみせていた。
父さんが手を一つパンと叩くと、それらの声は一斉に止み、全ての視線は彼を向いた。
「今からお前たちの中から一人、私の娘と模擬戦をしてもらう」
兵士たちは、父さんの一言に先より一層騒めく。
「アリエ様と?」
「どうしてまた急に?」
「戦闘なんてそもそもアリエ様には……」
彼ら見せたのは当然の反応だった。私も同じ気持ちである。
今までまともに戦闘経験がない私に、どうして戦闘の才があると思ったのか。
分からない。父さんは今、何を考えているのだろう。
「クラン。どうだ。やれるか?」
困惑している間に話は進んでいく。
父さんは数多の兵士の中から一人を指名した。
クランと呼ばれた人物は私でも知っている、この訓練場でも指折りの両手剣使いだ。
私でもその活躍は、部屋にいても耳に入ってくるほどの手練れなのだけど……。
「……わかりました。ソット様の命とあれば」
兵士たちの中から、一人歩き出たのは茶髪の好青年。
彼がクランだ。活躍を知っているからか、威圧感を覚える。
「よし、アリエ。お前も武器を取れ」
と。父さんは私に向き直り、壁にかけられた武器を指差す。
一般的な模擬戦は基本的に三つの木製の武器を選んで戦うことになる。
一つが短剣。一つが片手剣。一つが両手剣。
武器の良し悪しは分からないが、木製とはいえ両手剣は私には振り回せないだろう。
ならば無難に片手剣だろう。これなら盾もついてくる。
危険になったら盾を構えればいい。
「…………はぁ」
溜息が漏れる。
胸当てなどの防具を身につけながら、私は訳もなく天井を仰いだ。
私の足は微かに震えている。
流石に兵士たちも不安げに私を見ていた。
「さぁ。アリエ、やれるな?」
「……は、はい」
私は呼吸を整えながらも頷く。
ここで首を横に振れば、間違いなく父さんには呆れられるだろう。
ならば私は、ここでできる限りをやるしかないのだ。
私は意を決し、真ん中に用意された模擬戦場に歩く。
「……すみませんソット様、少しよろしいでしょうか?」
今から模擬戦が始まる、という時にクランが遠慮がちに手を上げた。
「どうした?」
「何かハンデをつける必要があるのではないでしょうか? アリエ様はまだ子供です」
「いや。いい。危険が及ぶようなことになれば、私が割って入ろう」
「……なるほど。分かりました。では、全力で」
……もしかしたら私、死ぬかもしれない。
「制限時間は三分。魔法の使用は有りとしよう。その間、どちらかが一撃を与えられればその者の勝利とする。……それでは両者、位置につき名を名乗れ」
沈黙に囲まれながら、私たちは所定の位置につく。
一つの深呼吸をして、私の方から震える声で名乗りを上げた。
「アリエ……サラン、です」
「クラン・フォールです。よろしくお願い致します、アリエ様」
クランはにこりと微笑むと両手剣を構えた。
対する私は苦笑い返すことしかできない。
模擬戦が始まる。
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