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第2章 ロリコン家庭教師、ドルチェ・ハッセル
第20話 魔法の授業
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すれ違う使用人は、例の如く私に嫌な視線を向ける。
ただその視線を受けるのは、ドルチェ先生も同様だった。
そのことにひたすらに申し訳なく思いながら、私は先生の横を歩く。
先生はそれらの視線に気付いているだろうか。気付いていないといいけど……。
なんて思っている間にやってきたのは、屋敷の裏庭である。
そこそこの広さなのである程度のことは可能だろうが、何をしようというのだろうか。
「サラン卿から聞きました。アリエ嬢は『マルチスキル』なんですよね?」
「は、はい! 『盾術』『魔力付与』『魔力活性』の三つですが……」
「えぇ聞きました。それらを利用して『魔法盾』を作り出した、というのも」
「で……でも、今まで魔法盾の再現は二回しかできたことがなくて……」
模擬戦の時と、ブラックフェンリル討伐の時。
それ以外では何度も試してみたが、再現されることは無かった。
「なるほど。アリエ嬢がなされたのはおそらく、スキルの覚醒ですね」
「スキルの……覚醒、ですか?」
覚醒。それはあまり聞き馴染みのない言葉だった。
少なくとも私が読んでいた本にそれは載っていない。
「ふふ。覚醒を知らないのも無理はないでしょう。覚醒は言わば、スキルの融合による奇跡的な反応。それはマルチスキルの人間にごく稀に発生する事案です」
「……な、なるほど」
つまりスキルには独自の周波数があり、それが偶然一致した、みたいなことだろうか。
「アリエ嬢の場合、模擬戦の際ということで。その当時の状況を思い出せますか?」
どうだっただろう。私は当時の状況を思い返す。
しかし、模擬戦と、それからフェンリルとの戦闘時はとにかく必死だった。
思い出そうとしても、明確に思い出すことはできない。
と。考え込む私を見てか先生は「大丈夫ですよ」と私に呼びかけた。
「ゆっくり理解していきましょう。本来であれば七歳で覚醒なんて、非常に珍しいことなんですから。……ですがアリエ嬢は今後戦闘の機会が増えていくことでしょう。そうなると覚醒に頼らない戦闘技術を身につける必要があります」
先生はぴんと人差し指を立てると「ということで!」と快活に言い放った。
「記念すべき一つ目の授業は技術ですね!」
※
十数分の休憩の後、私たちは再び裏庭に集まる。
私は盾と短剣を装備し「よろしくお願いします」頭を下げた。
そのまま促されるまま、先生と数メートルの距離をとる。
「まずは魔法から始めましょう。『ファイヤボール』を作れますか?」
初級魔法は全属性使えるが、実戦での使用経験は以前の模擬戦のみ。
先生の問いに私は盾を地面に置きながら控え目に頷く。
「それでは、私の方へ魔法を放ってください。大丈夫です、防御結界を張りますので」
「は、はい……!」
先生の言葉に私は意識を体内の魔力に集中させた。
右手を前方に突き出し、先生が作り出した巨大な結界に合わせる。
ふぅと息を吸って、吐き出す息と共に魔力を体外へと放出した。
「……ファイヤボール」
右手から放たれたのは、小さな火球。
それは真っ直ぐと、結界に目がけて飛んでゆく。
が、当然ながらその火球は、簡単に彼女の結界に受け止められてしまった。
まだまだ私なんてこんなもの。そう思っていたのだが──。
「……素晴らしい素質です」
と。先生は予期せぬ反応を見せる。
素晴らしい素質──魔法のことだろうか?
そう思ってから、心の中で首を横に振る。
いや違う。今のファイヤボールが大したことないものだとは私でも簡単に分かる。
だとするなら、その素質って──。
「素質っていうのは、私の幼女としての……ですか?」
「それも当然ながらありますが、魔法使いとしての素質です」
前半部分はとりあえず聞き流すとして、魔法使いとしての素質?
今の小さなファイヤボールで、私に素質があるとなぜ思えるのだろう。
私が困惑していると、先生は「気付いてないみたいですね」と微笑んだ。
「その年齢で無詠唱、かつその精度。それは素晴らしいことなんですよ?」
「え? で、でも初級魔法ですよ? 無詠唱は簡単って本にも書かれていて……」
「えぇ、無詠唱とは暗算のようなもの。初級魔法となれば実際簡単です。しかしそれでは火球を作り出すことしかできない。精度を向上させるにはまた別の計算が必要です」
私は「なるほど」と小さな声で頷いた。
たしかに魔法を作り上げるには、計算が必要と言われている。
それは魔術式とこの世界では呼ばれている。
魔術式を組み上げること、それが俗に言う詠唱なのだ。
それは中級魔法以上なら必須技術だとは聞いたことはあったけど……。
「やはり師匠の娘さんですね。彼女も術式を意識しない無詠唱の使い手だったので」
その言葉に、私は母さんから初めて魔法を学んだ時のことを思い出す。
教えてもらったのは『バリアー』と『リフレクション』の二つ。
思えば、母さんの指導は論理的ではなく感覚的な指導だった。
その時はそれが普通のことだと思っていたけど。
どうやらそれは違うのだと先生の反応が示している。
「ただ師匠と違う点もあります」
「母さ──母上と、ですか?」
首を傾げると、先生は「はい」と口の端を持ち上げる。
だけど、先生のその目は、どこか私に焦点が合ってないように見えて──。
「師匠はいつも大変明るい方でした。しかしアリエ嬢は彼女とは違い、七歳でありながら凜とした常に表情をされている。そんなアリエ嬢から、まるで私に襲い掛かるような年齢相応の小さな火球が飛ばされる、というのは……」
「せ、せんせい……?」
「実に……そそられる」
「ひっ……」
口の端からは、よだれが垂れているように見えた。
この先生は自我というものを度々失ってしまうらしい。
本当に私は、この先生とやっていけるのだろうか。
「失礼、取り乱しましたね」
だから。取り乱しすぎである。
ただその視線を受けるのは、ドルチェ先生も同様だった。
そのことにひたすらに申し訳なく思いながら、私は先生の横を歩く。
先生はそれらの視線に気付いているだろうか。気付いていないといいけど……。
なんて思っている間にやってきたのは、屋敷の裏庭である。
そこそこの広さなのである程度のことは可能だろうが、何をしようというのだろうか。
「サラン卿から聞きました。アリエ嬢は『マルチスキル』なんですよね?」
「は、はい! 『盾術』『魔力付与』『魔力活性』の三つですが……」
「えぇ聞きました。それらを利用して『魔法盾』を作り出した、というのも」
「で……でも、今まで魔法盾の再現は二回しかできたことがなくて……」
模擬戦の時と、ブラックフェンリル討伐の時。
それ以外では何度も試してみたが、再現されることは無かった。
「なるほど。アリエ嬢がなされたのはおそらく、スキルの覚醒ですね」
「スキルの……覚醒、ですか?」
覚醒。それはあまり聞き馴染みのない言葉だった。
少なくとも私が読んでいた本にそれは載っていない。
「ふふ。覚醒を知らないのも無理はないでしょう。覚醒は言わば、スキルの融合による奇跡的な反応。それはマルチスキルの人間にごく稀に発生する事案です」
「……な、なるほど」
つまりスキルには独自の周波数があり、それが偶然一致した、みたいなことだろうか。
「アリエ嬢の場合、模擬戦の際ということで。その当時の状況を思い出せますか?」
どうだっただろう。私は当時の状況を思い返す。
しかし、模擬戦と、それからフェンリルとの戦闘時はとにかく必死だった。
思い出そうとしても、明確に思い出すことはできない。
と。考え込む私を見てか先生は「大丈夫ですよ」と私に呼びかけた。
「ゆっくり理解していきましょう。本来であれば七歳で覚醒なんて、非常に珍しいことなんですから。……ですがアリエ嬢は今後戦闘の機会が増えていくことでしょう。そうなると覚醒に頼らない戦闘技術を身につける必要があります」
先生はぴんと人差し指を立てると「ということで!」と快活に言い放った。
「記念すべき一つ目の授業は技術ですね!」
※
十数分の休憩の後、私たちは再び裏庭に集まる。
私は盾と短剣を装備し「よろしくお願いします」頭を下げた。
そのまま促されるまま、先生と数メートルの距離をとる。
「まずは魔法から始めましょう。『ファイヤボール』を作れますか?」
初級魔法は全属性使えるが、実戦での使用経験は以前の模擬戦のみ。
先生の問いに私は盾を地面に置きながら控え目に頷く。
「それでは、私の方へ魔法を放ってください。大丈夫です、防御結界を張りますので」
「は、はい……!」
先生の言葉に私は意識を体内の魔力に集中させた。
右手を前方に突き出し、先生が作り出した巨大な結界に合わせる。
ふぅと息を吸って、吐き出す息と共に魔力を体外へと放出した。
「……ファイヤボール」
右手から放たれたのは、小さな火球。
それは真っ直ぐと、結界に目がけて飛んでゆく。
が、当然ながらその火球は、簡単に彼女の結界に受け止められてしまった。
まだまだ私なんてこんなもの。そう思っていたのだが──。
「……素晴らしい素質です」
と。先生は予期せぬ反応を見せる。
素晴らしい素質──魔法のことだろうか?
そう思ってから、心の中で首を横に振る。
いや違う。今のファイヤボールが大したことないものだとは私でも簡単に分かる。
だとするなら、その素質って──。
「素質っていうのは、私の幼女としての……ですか?」
「それも当然ながらありますが、魔法使いとしての素質です」
前半部分はとりあえず聞き流すとして、魔法使いとしての素質?
今の小さなファイヤボールで、私に素質があるとなぜ思えるのだろう。
私が困惑していると、先生は「気付いてないみたいですね」と微笑んだ。
「その年齢で無詠唱、かつその精度。それは素晴らしいことなんですよ?」
「え? で、でも初級魔法ですよ? 無詠唱は簡単って本にも書かれていて……」
「えぇ、無詠唱とは暗算のようなもの。初級魔法となれば実際簡単です。しかしそれでは火球を作り出すことしかできない。精度を向上させるにはまた別の計算が必要です」
私は「なるほど」と小さな声で頷いた。
たしかに魔法を作り上げるには、計算が必要と言われている。
それは魔術式とこの世界では呼ばれている。
魔術式を組み上げること、それが俗に言う詠唱なのだ。
それは中級魔法以上なら必須技術だとは聞いたことはあったけど……。
「やはり師匠の娘さんですね。彼女も術式を意識しない無詠唱の使い手だったので」
その言葉に、私は母さんから初めて魔法を学んだ時のことを思い出す。
教えてもらったのは『バリアー』と『リフレクション』の二つ。
思えば、母さんの指導は論理的ではなく感覚的な指導だった。
その時はそれが普通のことだと思っていたけど。
どうやらそれは違うのだと先生の反応が示している。
「ただ師匠と違う点もあります」
「母さ──母上と、ですか?」
首を傾げると、先生は「はい」と口の端を持ち上げる。
だけど、先生のその目は、どこか私に焦点が合ってないように見えて──。
「師匠はいつも大変明るい方でした。しかしアリエ嬢は彼女とは違い、七歳でありながら凜とした常に表情をされている。そんなアリエ嬢から、まるで私に襲い掛かるような年齢相応の小さな火球が飛ばされる、というのは……」
「せ、せんせい……?」
「実に……そそられる」
「ひっ……」
口の端からは、よだれが垂れているように見えた。
この先生は自我というものを度々失ってしまうらしい。
本当に私は、この先生とやっていけるのだろうか。
「失礼、取り乱しましたね」
だから。取り乱しすぎである。
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