義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日

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姉妹の三日間

ミズキの花は枯れていない

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 家に帰って、部屋に戻って。
 私は案の定、泣いてしまった。
 暗い部屋でベッドに潜って、本当の意味で枕を濡らす。
 嗚咽するのを耐えながら、毛布に抱きつく。
 震えが止まらない。
 多分、これを一時間は続けている。

 私の中の花は、まだ枯れていない。
 でも、枯れそうで怖い。
 あの状況を思い返すだけで、涙がまたこみ上げる。
 これから、どうしよう。
 どうすればいいの。……わかんないよ。

 スマホが震える。
 『ご飯一緒に食べる?』と、メッセージが届いていた。
 返信する気力もない。
 今頃、てんちゃんは家族仲良くご飯しているのだろう。

 ……ふと、気になった。
 てんちゃんの普通の基準は家族って言ってた。
 だから私にキスすることを認めてくれた。
 ってことは自分の母さんとかとキスしたりしてるってこと?
 もやもやするけど……そんなことないよね。さすがに。

 悶え続ける。
 それから、数十分経ったくらいだろうか。
 唐突に、部屋のドアがコンコンと叩かれた。

「お姉ちゃん? 起きてる?」

 その声に、私の体がビクッと震える。
 てんちゃんの声だ。
 でも、今は合わせる顔が無い。
 結局まだ、ぐちゃぐちゃなままだから。

 私は、物音を立てぬように、その場にじっとした。
 ……早く帰って。

「……入るよ」

 ガチャリと。
 ドアを開ける音がする。

 不法侵入してきたぞ、この人。

 ……だけど、布団を被っているから。
 動かなければいい。

「お姉ちゃん。……やっぱり、寝てるよね」

 ぽつりと呟く。

「お姉ちゃん。ううん。みっちゃん」

 私が寝ていると認識している筈なのに、てんちゃんは話す。
 独り言。なのかな。

「みっちゃん。明日からは普通の家族だから」

 ……何を言ってるの。
 今日のキスとかは、もう明日からしないってこと?
 寝ている筈の私にそれを言っても意味がない気がするけど……。

 そう思っていたら、足音がこっちに近付いてきた。

 気配が、すぐそこからする。
 てんちゃんがすぐそばにいる。

 毛布がガサガサと音を立てる。
 体が軽くなったと思ったら、毛布がてんちゃんに剥がされていた。

「ごめんね。寝ている時にずるいと思うけど──。……あれ? みっちゃん起きてる?」

 あ。ばれそう。
 息を殺さないと。

「……」
「……鼻呼吸、荒いよ。……はぁ。なんだ、起きてたんだ。まぁいっか」

 ちょっと待って。
 まぁ良くないよ。

 涙は止まっていた。だけど。多分、顔は汚いままだろう。
 でも、気になる思いの方が上なので、私は体を起こして問う。

「何しようとしていたのか、詳しく」
「……なんでもないよ」

「夜這い?」
「ち、違うから! 一緒に寝ようかなって思っただけ」
「それ。夜這いじゃ」
「……ぬっ。確かに」

 嬉しかった。
 夜這いで嬉しくなるのは、どう足掻いても変態だけど。

 だって。私と一緒にいたいって、てんちゃんはそう思ってくれているから。
 さっきまでの不安が、まるで嘘のように吹っ飛んだ。

「……私、てんちゃんと一緒に寝たい」

 そう言ったら、てんちゃんは暗闇の中で優しく微笑んだ。

 その笑顔は、私の中に咲いている花の延命剤のようだ。


───────

ハナミズキの花言葉は
「私の想いを受け取ってください」
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