ネトゲの旦那は私のアバターにしか興味がない!

彼岸花

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5 まさかのオフ会

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 私がゲームにログインすると、直ぐに胡桃のキャラからフレンド申請が飛んできた。
 そう言えば、準備が整ったから今日ログインするって言ってたっけ。
 申請を承諾すると、途端に胡桃は個人チャットで話し掛けてくる。

「先輩、今どこにいます? チュートリアルが終わったので、そっち向かいます!」
「ギルドのたまり場だけど……場所、わかるかな? リゲルの街の武器屋の隣なんだけど」
「了解です! wiki見ながら行くので、調べれば何とかなりそうですよ」

 そう言うと、胡桃は会話を終わらせた。
 さすが生粋のゲーマーだけあって、適応するのが早い。
 そのまま暫く待っていると、前方から私を呼ぶ声が聞こえてきた。

「先輩~!」
「胡桃……じゃなくて、ハサネちゃん!」

 こちらに向かって大きく手を振りながら、駆け寄ってくる小柄な少女の姿が見えた。
 赤髪の長いポニーテールに、初心者服を身に纏い、二本の短剣を持っている。胡桃のアバターだ。キャラ名は『ハサネ』らしい。
 幸運にもこのゲームには、彼女の大好きなアサシンがジョブとして存在していたため、迷いなくそれを選択したようだった。
 彼女はこの後、私とリュートの紹介で同じギルドに入る予定だ。

「まだチュートリアルしかやってないけど、予想以上に面白くてはまっちゃいそうです! こんなことなら、もっと早くVRMMOやっておけばよかったなぁ」

 ハサネはそう言いながら、私の隣に座った。
 私たちが今いる場所は『リゲルの街』の武器屋の隣にある広場の片隅。
 私が所属するギルド『星彩の騎士団』のメンバーは大抵、この場所に屯している。
 メンバー数は二十名ほどいるけど、中には休止している人や幽霊メンバーもいるので、全員がアクティブに活動しているってわけでもないらしい。

 リゲルの街は他の街よりも多くのプレイヤーが集まっている。
 なので、この広場で露店を出してアイテムを売っている人も結構いたりする。

「良かったね。念願のアサシンになれて」
「はい! 実際に自分で動いてる感覚を味わえるなんて、まさに理想ですよ! しかも、憧れの二刀短剣ですよ! さあ、これからモンスター狩りまくるぞー!」

 嬉しそうにそう語るハサネを微笑ましい気持ちで眺めていると、

「二人とも、ご一緒だったんですね。ハサネは、もうチュートリアル終わったんですか?」

 という声が聞こえた。振り返ると、そこにはダンジョン攻略から帰ってきたと思われるリュートとルディアスの姿があった。
 ルディアスと目が合った私は、思わず下を向き赤面してしまう。
 だって、だって……未遂で終わったとは言え、あんなことがあったんだよ。
 まともに顔なんて合わせられるわけないじゃないですか。
 そりゃあ、確かにVRだけど……だけど! 恥ずかしいと思う私はおかしいのかな。

「あ、先輩だ! はい! 余裕ですよ、余裕!」
「それなら良かったです。それにしても、ユリア。何だか、顔が赤いですね……熱でもあるんですか?」

 リュートに突っ込まれ、ますます赤面する私。どうしよう、顔上げられないんですけど。
 そんな私を見て察した様子のハサネは、ニッと口角を上げるとルディアスの元まで走っていく。

「ふーむ……なるほど。この人がユリア先輩の旦那様ですか?」

 ハサネはそう言うと、興味深そうにルディアスをジロジロと見る。

「先輩好みのイケメンですねぇ……ふふふ」
「ちょ……ハサネちゃん、何言って……」

 悪戯っぽい笑みを浮かべて、ルディアスと私を交互に見るハサネ。

「君、ユリアが言ってた後輩の子かい?」
「はい、そうです! ルディアスさん! これからも、先輩のことを末永くよろしくお願いしますね!」
「もちろん、元からそのつもりだよ。安心してくれ」

 ルディアスはそう言うと、ハサネに向かって爽やかな笑顔を向けた。
 騙されないで! その人、私のアバター目当てですから!

「リアルの先輩も、優しくて可愛らしい人なんですよ! なんかこう、守ってあげたくなるような感じで!」
「へえ? そうなんだ?」
「はい! それでですね、ユリア先輩ったらルディアスさんのことを話す時、それはもう嬉しそうに話し──」
「あのーーー!!」

 これ以上放っておくと余計なことを言われかねないので、私は慌てて彼女の言葉を遮った。

「びっくりしたじゃないですか、先輩! いきなり、大きい声出して……」
「そんなことより、ハサネちゃん! 初心者クエスト済ませてきたらどうかな!?」
「あ、そう言えばそうですね」
「それなら、初心者講座をしてあげるよ。その方が効率良く覚えられると思うからね」
「わお! ありがとうございまーす!」

 ルディアスは気前良くそう言うと、クエストをやるためにハサネと連れ立った。


◇ ◇ ◇


「あの……ルディアス、後輩の面倒まで見てくれてありがとう」

 私は、ハサネの手伝いが終わりマイルームに戻ってきたルディアスにお礼を言う。

「これくらい、ギルマスとして当然の務めだ。気にするな」
「それにしても……徹底的に王子プレイを貫き通してますね……」
「本性を知っているのは、シオンとユリアくらいだからな。それに、今までずっとあのキャラで通してたのに、今更違うキャラに変更するのもおかしいだろ?」
「まあ、それはそうですけど……」

 本当のルディアスを知っているのは、リアル友人のシオンを除けば自分だけ。
 私は、何だかそれが特別なことのような気がして少し嬉しかった。

「ところで……折り入って、お前に頼みがあるんだが」
「頼み? いいですよ。できる範囲内のことなら」
「リアルで会って欲しい」
「なんだ、そんなことですか……って……はいぃぃぃ!?」

 予想もしていなかった言葉が彼から出たことに驚き、私は思わず壁際に後退る。

「……わ、私と会いたいってことですか!?」
「そうだ」

 そう言いながら、真剣な面持ちで私を見据えるルディアス。
 突然の爆弾発言に、私は動揺を隠せなかった。

「なななななな、なんで……!? だ、だって、その……三次元には興味ないって……」

 私は、上ずった声で彼に問いかける。

「相変わらず、全く興味はないぞ」

 ルディアスは動揺しまくりの私を気にする素振りもみせず、真顔でそう言った。

「そ、それなら……どうして?」
「来週、『蒼の戦乙女ヴァルキリー戦記』の映画が公開するんだが、一緒に行く予定だったシオンが行けなくなってな。暇なら行かないか?」
「あ、それって今人気のアニメの……女騎士アトレイアが一番人気なんですよね。彼女が戦場で主人公を庇う名シーンは、最高に泣けると海外のアニメファンの間でも絶賛されているとか」
「詳しいな! 実はファンだったのか!?」
「え、いや……」
「しかも、アトレイアに興味を持つとは……なかなかわかってるな!」

 あ、なんか勝手に勘違いされてるな……。まあ、いいか。
 実はあの後、気になって調べたせいで、中途半端にあのアニメについての知識を得てしまったのだ。

「で、でも! それなら、一人で行けばいいじゃないですか!」
「一人で行くような寂しい奴だと思われるだろ。逆に、お前は一人で行けるのか?」
「それは……確かにちょっと行き辛いですけど……。ていうか、そういうところは気にするタイプなんですね……二次コンを恥じることはないのに」

 やっぱりこのアニメが好きだったんだ。そして、アトレイアに反応するあたり嫁確定なんだろうなぁ。
 私とルディアスは住んでいる場所が偶然にも近い。普通に会いに行こうと思えばすぐに会える距離だ。

「……まあ、どうせ暇だろ? オフ会みたいなものだ。二人だけだけどな」
「オ、オフ会……!? 二人だけ……!?」

 私は、自分の顔が紅潮していくのを感じた。

「あ、あの……そういうことなら、リアルの知り合いを誘ったほうが良くないですか?」

 そう言って、赤面しながら視線を逸らす私。
 ああ……何でこんなこと言っちゃうんだろう。本当は、嬉しくてたまらないのに。

「他を当たって駄目だったからお前に行き着いたわけだが」
「何ですか!? その『仕方ないからお前で妥協してやるよ』感は!?」
「行きたくないなら、無理にとは言わないけどな」

 そうだ……向こうが私に会いたい理由が気に入らないけど、これはルディアスに会えるチャンスなんだ。
 このチャンスを逃したら、もう会ってくれないかも知れない。

「い、行きます! 行きますよ!」
「最初から素直にそう言え。まあ……そういうことだから、来週の日曜は空けておけよ。今日はもう落ちる」
「は、はい。お疲れ様でした」

 そう言いながらルディアスはマイルームから出ていった。
 部屋に残された私は、怒涛の展開が信じられず放心していた。
 ……あれ? なんか、普通にデートの約束みたいだよね。
 そして……会うってことは、連絡先の交換ができるってこと? どうしよう、嬉しすぎる。
 そんなことを考えていると、自然と口元が緩む。
 私は一人で幸せな気分に浸りながら、クッションを抱えソファーに倒れ込んだ。
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