〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて

嘉多山瑞菜

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第一章 片思いの相手から、ツキアッテ…そう言われたら、どんな気持がするんだろう…。

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―セックスフレンドに恋人ごっこのオプション付き。-

 桂は苦笑いを浮かべながらリナにそう言った。その笑みを複雑そうな表情を浮かべて、リナが見詰める。

 リナは立ち上がると、それまで威勢の良さが萎んでしまったように、黙って自分が食べた食器を片付け始めた。

「おい…リナ…どうしたんだよ…?」

 急に黙りこくってしまった親友に不安を感じ、桂は慌ててキッチンのシンクへ向ったリナの後を追った。

 リナは黙って食器類をシンクに入れると、コックをひねってお湯を出し、スポンジを取り上げて黙々と食器を洗い出す。

 普段マニュキアが剥がれるとか、手が荒れるとか理由をこじつけて絶対にそんな事をしないのに、急にらしくなく食器を洗い出したリナに桂は仰天して止めに入る。

「リナ…何やってんだよ…!止めろよ。俺がやるから。」

 桂がリナの肩に手を置いて、自分の方を振り向かせようと力を掛けた。

 その手をリナは振り向かずに濡れた手でなぎ払おうとする。その拍子にリナの手から茶碗が滑って床に転がり落ちていった。

 カシャンッ…乾いた音が床から響く。

「…ホラ…やりつけない事やるから…割れちまったじゃないか…。」

 あぁ…またお前用の茶碗買わなきゃ…そう言いながら桂は嘆息して床に屈み込み、砕け散った茶碗の破片を拾い集める。

 桂が何気なく視線をリナのスラリとした足に移すとそのリナの綺麗な足がなぜか不自然に震えていて、桂はそっと彼女の背中を見上げた。足も背中も、その華奢な肩も何かを耐えるように震えている。

「…リナ…どうしたんだ…?」

 普通じゃないリナの様子に立ちあがって桂はリナの体を強引に自分の方へ引っ張った。
 
 今度はリナも桂にされるままに振り返る。自分をやっと見たリナの顔を見て、反対に桂が一瞬言葉を押し殺した。

 リナは瞳に涙を一杯溜め、いつもは魅力的な笑みを浮かべるその唇は嗚咽を堪える様に戦慄いている。

「…なんで…お前が泣いてんだよ…リナ」

 桂は驚いた表情そのままに、リナを見詰めた。リナは桂の顔をジッと見詰めるとそのまま涙をボロボロ零し出す。

「…おい…リナ…」

 嗚咽を我慢する事も無く、オイオイと声を上げて泣き始めたリナに桂はどうしたら良いのか分からずオロオロするばかり。もとより泣くリナは苦手だったのだ。

「…リナ…頼むから…」

 事態が分からず、困惑したまま「なんで泣いてんだ?」ともう一度訊ねようとした桂の言葉をリナが手を振って遮った。

「…これが…泣かずに…いられる…わけ…?」
「…???」

 人の質問に疑問で答えるなよな…リナの常套手段に桂は天を仰ぎ見ながら、拾い集めた茶碗の欠片をダストに放り込んで、もう一度リナを見た。

 後で掃除機掛けないと…。泣きじゃくるリナにウンザリし始めながら、桂は別の事を考えた。

 桂の注意が自分から離れ始めたのを敏感に察知したリナは泣くのを止めると、今度は桂の耳をギュッと摘んで捻り上げた。

「いってっ!止めろっ!リナ…何すんだ…!」

 グイグイ桂の耳を引っ張りながらリナは、桂を居間に連れていくと乱暴に座布団の上に押しやった。

「…いってぇな!何すんだよ…リナ!」

 痛さで涙を目に浮かべながら、桂は床に座り込んだままリナを見上げる。その正面にリナは桂を威圧する様に腰に両手を当てて仁王立ちになると、殺気だったような顔で桂を鋭く見下ろした。

「…何…卑屈になってんのよ!」

 リナがヒステリックに叫ぶ。

「…え…?」

 リナの綺麗な瞳から、もう一度今度は静かな雫がハラハラと落ちていく。

「…だって…だって…そうじゃない…?セックス・フレンド…なんて…しかも…恋人ごっこ付き…なんて…。」

 ひどい…ひどすぎるわ…。最後のその言葉は掠れて聞き取れないほどだった。

「…あ…リナ…」

 やっとリナの、感情の起伏の原因に思い当たって、桂は表情を心持緩めた。

 リナはいつだって自分の気持を一番良く知っていて…自分の事を思いやって…そして心配してくれている…。
 
 桂は立ちあがると、リナをゆっくり抱きしめた。背が同じぐらいの為、胸に顔を抱き寄せる事は出来ないが彼女の頭を自分の肩に引き寄せてやる。耳元にリナのしゃくりあげるような声が響いた。

「お前って…本当に優しいな…。」

 同じように自分もリナの華奢な肩に顔を押し当てながら呟く。

ホント…いつだってお前だけは俺に優しい…。

「かっちゃん…良いの?…それで…本当に?…。」

 リナの言いたい事は分かっている…。リナが心配している理由もわかり過ぎる位…分かっていた。桂はリナの背中を宥めるように擦ってやる。その優しい行為そのままに桂は穏やかな声根で囁いた。

「良いんだ…。リナ…俺…今スゴイ幸せだから…。」

 それを聞いてリナがワッとまた激しく泣き始めた。
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