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第一章 片思いの相手から、ツキアッテ…そう言われたら、どんな気持がするんだろう…。
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桂はなんとか泣きじゃくるリナを宥め、店に送り出した。
リナは六本木で1・2を争うバーのママでもありオーナーでもある。
『Bar Blue Bird』
華やかで質の高いダンス・ショーと洗練されたホステス達。一流のコックが腕を振るう美味な料理。
そして経営者であるリナの優しくて頭の良い性格と女性らしい木目細かな気配り。
そういった全ての要素に惹かれて店はいつも捌ききれないほどの予約や常連客で賑わっていた。
業界人や政界人…企業の社長やただの金持ち…ありとあらゆる客達が、店に入る権利とリナと知り合いになるチャンスを窺がっている。
若くして成功した夜の街のリナとうだつのあがらない昼の町の平凡な桂。
二人は高校時代からの親友だった。
環境は何もかも違うのに、不思議にウマがあって25歳になった今でも付き合いが続いていた。だからこそ、彼女には桂の何もかもが分かってしまう。
掃除機を掛けながら先程までのリナとの不毛な会話を思い出して桂は重い溜息を吐いた。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「嘘…幸せなんて嘘…」
桂の言葉を彼女は否定した。泣き濡れた瞳で真っ直ぐに桂を見つめながら。そんなリナの視線が…心配が胸に痛い…。
「そうとしか言えないだろ…。」
諦めそのままに肩を竦めながら答えた桂。
そう…そうとしか言えない…そう言わなければ惨め過ぎた…。
「どうして…かっちゃん…そんなの嫌…私は嫌…。」
うん…俺も嫌だ…。呟いた桂。だったら…どうして…?リナのその問いは、桂の顔を見た瞬間途切れていた。
桂が穏かな笑みを見せていたからだ…。
「リナ…俺…夢だと思うことにしたんだ…」
淡々と答える桂。
「どう言うこと…?」
「…叶わない想いだと…最初からずっと思っていたから…。それが10ヶ月でも叶うのなら…それで良いと思うことにしたんだ。」
リナが涙で顔をクシャクシャにしながら桂を見詰める。
「…だって…かっちゃん…彼の事…彼の事…ずっと…。」
リナを抱きしめる腕に力を篭めて答える桂。
「…うん…だから…良いんだ。俺…彼に振り向いてもらえる事なんてないと思っていたから…。だから…嬉しいんだ。夢を見るんだよ…。極上の夢を…。」
彼に…亮に知ってもらえる事の無い想いだと思っていたから…束の間彼と恋人同士になれるなら…ごっこでも…俺は幸せなんだ。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
桂は掃除機を掛け終えるとコンセントを電源から抜いた。掃除機を片付けて、すっかり真っ暗になった窓の外を見詰める。
低い空が陽の残照に染まっているのを見てふいに涙が零れそうになる。桂は慌てて目を擦り上げた。
自分を励ますように…自分に言い聞かせるように…自分を納得させるように…本当に幸せなんだよ…。桂はそう呟いていた。
リナは六本木で1・2を争うバーのママでもありオーナーでもある。
『Bar Blue Bird』
華やかで質の高いダンス・ショーと洗練されたホステス達。一流のコックが腕を振るう美味な料理。
そして経営者であるリナの優しくて頭の良い性格と女性らしい木目細かな気配り。
そういった全ての要素に惹かれて店はいつも捌ききれないほどの予約や常連客で賑わっていた。
業界人や政界人…企業の社長やただの金持ち…ありとあらゆる客達が、店に入る権利とリナと知り合いになるチャンスを窺がっている。
若くして成功した夜の街のリナとうだつのあがらない昼の町の平凡な桂。
二人は高校時代からの親友だった。
環境は何もかも違うのに、不思議にウマがあって25歳になった今でも付き合いが続いていた。だからこそ、彼女には桂の何もかもが分かってしまう。
掃除機を掛けながら先程までのリナとの不毛な会話を思い出して桂は重い溜息を吐いた。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「嘘…幸せなんて嘘…」
桂の言葉を彼女は否定した。泣き濡れた瞳で真っ直ぐに桂を見つめながら。そんなリナの視線が…心配が胸に痛い…。
「そうとしか言えないだろ…。」
諦めそのままに肩を竦めながら答えた桂。
そう…そうとしか言えない…そう言わなければ惨め過ぎた…。
「どうして…かっちゃん…そんなの嫌…私は嫌…。」
うん…俺も嫌だ…。呟いた桂。だったら…どうして…?リナのその問いは、桂の顔を見た瞬間途切れていた。
桂が穏かな笑みを見せていたからだ…。
「リナ…俺…夢だと思うことにしたんだ…」
淡々と答える桂。
「どう言うこと…?」
「…叶わない想いだと…最初からずっと思っていたから…。それが10ヶ月でも叶うのなら…それで良いと思うことにしたんだ。」
リナが涙で顔をクシャクシャにしながら桂を見詰める。
「…だって…かっちゃん…彼の事…彼の事…ずっと…。」
リナを抱きしめる腕に力を篭めて答える桂。
「…うん…だから…良いんだ。俺…彼に振り向いてもらえる事なんてないと思っていたから…。だから…嬉しいんだ。夢を見るんだよ…。極上の夢を…。」
彼に…亮に知ってもらえる事の無い想いだと思っていたから…束の間彼と恋人同士になれるなら…ごっこでも…俺は幸せなんだ。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
桂は掃除機を掛け終えるとコンセントを電源から抜いた。掃除機を片付けて、すっかり真っ暗になった窓の外を見詰める。
低い空が陽の残照に染まっているのを見てふいに涙が零れそうになる。桂は慌てて目を擦り上げた。
自分を励ますように…自分に言い聞かせるように…自分を納得させるように…本当に幸せなんだよ…。桂はそう呟いていた。
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