〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて

嘉多山瑞菜

文字の大きさ
6 / 95
第一章 片思いの相手から、ツキアッテ…そう言われたら、どんな気持がするんだろう…。

しおりを挟む
 桂はなんとか泣きじゃくるリナを宥め、店に送り出した。

 リナは六本木で1・2を争うバーのママでもありオーナーでもある。

『Bar Blue Bird』

 華やかで質の高いダンス・ショーと洗練されたホステス達。一流のコックが腕を振るう美味な料理。

 そして経営者であるリナの優しくて頭の良い性格と女性らしい木目細かな気配り。
 そういった全ての要素に惹かれて店はいつも捌ききれないほどの予約や常連客で賑わっていた。

 業界人や政界人…企業の社長やただの金持ち…ありとあらゆる客達が、店に入る権利とリナと知り合いになるチャンスを窺がっている。

 若くして成功した夜の街のリナとうだつのあがらない昼の町の平凡な桂。

 二人は高校時代からの親友だった。

 環境は何もかも違うのに、不思議にウマがあって25歳になった今でも付き合いが続いていた。だからこそ、彼女には桂の何もかもが分かってしまう。

 掃除機を掛けながら先程までのリナとの不毛な会話を思い出して桂は重い溜息を吐いた。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「嘘…幸せなんて嘘…」

 桂の言葉を彼女は否定した。泣き濡れた瞳で真っ直ぐに桂を見つめながら。そんなリナの視線が…心配が胸に痛い…。

「そうとしか言えないだろ…。」

 諦めそのままに肩を竦めながら答えた桂。

 そう…そうとしか言えない…そう言わなければ惨め過ぎた…。

「どうして…かっちゃん…そんなの嫌…私は嫌…。」

うん…俺も嫌だ…。呟いた桂。だったら…どうして…?リナのその問いは、桂の顔を見た瞬間途切れていた。
 
 桂が穏かな笑みを見せていたからだ…。

「リナ…俺…夢だと思うことにしたんだ…」

 淡々と答える桂。

「どう言うこと…?」
「…叶わない想いだと…最初からずっと思っていたから…。それが10ヶ月でも叶うのなら…それで良いと思うことにしたんだ。」

 リナが涙で顔をクシャクシャにしながら桂を見詰める。

「…だって…かっちゃん…彼の事…彼の事…ずっと…。」

 リナを抱きしめる腕に力を篭めて答える桂。

「…うん…だから…良いんだ。俺…彼に振り向いてもらえる事なんてないと思っていたから…。だから…嬉しいんだ。夢を見るんだよ…。極上の夢を…。」

 彼に…亮に知ってもらえる事の無い想いだと思っていたから…束の間彼と恋人同士になれるなら…ごっこでも…俺は幸せなんだ。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 桂は掃除機を掛け終えるとコンセントを電源から抜いた。掃除機を片付けて、すっかり真っ暗になった窓の外を見詰める。

 低い空が陽の残照に染まっているのを見てふいに涙が零れそうになる。桂は慌てて目を擦り上げた。

 自分を励ますように…自分に言い聞かせるように…自分を納得させるように…本当に幸せなんだよ…。桂はそう呟いていた。
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

闇に咲く花~王を愛した少年~

めぐみ
BL
―暗闇に咲き誇る花となり、その美しき毒で若き王を  虜にするのだ-   国を揺るがす恐ろしき陰謀の幕が今、あがろうとしている。 都漢陽の色町には大見世、小見世、様々な遊廓がひしめいている。 その中で中規模どころの見世翠月楼は客筋もよく美女揃いで知られて いるが、実は彼女たちは、どこまでも女にしか見えない男である。  しかし、翠月楼が男娼を置いているというのはあくまでも噂にすぎず、男色趣味のある貴族や豪商が衆道を隠すためには良い隠れ蓑であり恰好の遊び場所となっている。  翠月楼の女将秘蔵っ子翠玉もまた美少女にしか見えない美少年だ。  ある夜、翠月楼の二階の奥まった室で、翠玉は初めて客を迎えた。  翠月を水揚げするために訪れたとばかり思いきや、彼は翠玉に恐ろしい企みを持ちかける-。  はるかな朝鮮王朝時代の韓国を舞台にくりひげられる少年の純愛物語。

振り向いてよ、僕のきら星

街田あんぐる
BL
大学4年間拗らせたイケメン攻め×恋愛に自信がない素朴受け 「そんな男やめときなよ」 「……ねえ、僕にしなよ」 そんな言葉を飲み込んで過ごした、大学4年間。 理系で文学好きな早暉(さき)くんは、大学の書評サークルに入会した。そこで、小動物を思わせる笑顔のかわいい衣真(いま)くんと出会う。 距離を縮めていく二人。でも衣真くんはころころ彼氏が変わって、そのたびに恋愛のトラウマを深めていく。 早暉くんはそれでも諦めきれなくて……。 星のように綺麗な男の子に恋をしてからふたりで一緒に生きていくまでの、優しいお話です。 表紙イラストは梅干弁当さん(https://x.com/umeboshibento)に依頼しました。

双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。 いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。 しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。 営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。 僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。 誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。 それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった── ※これは、フィクションです。 想像で描かれたものであり、現実とは異なります。 ** 旧概要 バイト先の喫茶店にいつも来る スーツ姿の気になる彼。 僕をこの道に引き込んでおきながら 結婚してしまった元彼。 その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。 僕たちの行く末は、なんと、お題次第!? (お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を) *ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成) もしご興味がありましたら、見てやって下さい。 あるアプリでお題小説チャレンジをしています 毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります その中で生まれたお話 何だか勿体ないので上げる事にしました 見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません… 毎日更新出来るように頑張ります! 注:タイトルにあるのがお題です

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

箱入りオメガの受難

おもちDX
BL
社会人の瑠璃は突然の発情期を知らないアルファの男と過ごしてしまう。記憶にないが瑠璃は大学生の地味系男子、琥珀と致してしまったらしい。 元の生活に戻ろうとするも、琥珀はストーカーのように付きまといだし、なぜか瑠璃はだんだん絆されていってしまう。 ある日瑠璃は、発情期を見知らぬイケメンと過ごす夢を見て混乱に陥る。これはあの日の記憶?知らない相手は誰? 不器用なアルファとオメガのドタバタ勘違いラブストーリー。 現代オメガバース ※R要素は限りなく薄いです。 この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。ありがたいことに、グローバルコミック賞をいただきました。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...