〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて

嘉多山瑞菜

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第二章  彼のために・・・自分のために・・・唇へのキスはしない・・・

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「じゃ…毎週デートね。予定絶対空けておいてくれよ。」

 桂の返事に気を良くして、お決まりのトークアプリのIDを交換。
無事に契約成立。そして亮はそう言った。 

「…毎週…ですか?」

 契約期間は10ヶ月。そして毎週のデート。
契約項目が増えていく。

 そう…。亮は涼しげな表情で返事をすると続けて言った。

「来週の金曜日の夜、初デートだから。時間は…俺ちょっとその頃忙しいから…8時にしようか?」

 桂の返事など期待せず、亮はスマートフォンでスケジュールをチェックしながら勝手に決めると、予定を打ち込んで行く。

 桂は慌てて、亮に言われた時間と待ち合わせ場所をスケジュール帳に書きとめた。

 亮は至極ご満悦な笑顔を浮かべるとニヤッと笑って、それじゃ、来週のデートお洒落してこいよ…と言ったのだった。
 
「お洒落といってもなぁ…。」

 桂はショーウインドーに映った自分の姿を見て溜息を吐いた。

 給料はいたって安い。仕事に出費が嵩む為、自分の身の回りの物には桂は無頓着だった。

 仕事もカジュアルなジャケットにコットンシャツ、チノ・パンツといういでたち。
 あとは改まった時の為のスーツとネクタイがあれば充分だからだ。
お洒落には無縁だし無関心だった。

「これが…精一杯だよな。」

 今朝リナが見たててくれたスーツ姿の自分を見ながら呟く。

 今日のリナはもう諦めたのか、桂に説教をする事もなく「初デートだからお洒落しなくちゃね。」と笑いながら桂のクローゼットを漁ったのだった。

 桂にしては目一杯のお洒落な格好。だけど桂は以前見かけた、亮の恋人の「本命の世界で一番愛しい男」の健志を思い出して憂鬱になる。

 亮の隣にいた彼は非の打ち所のない、ファッション誌から抜け出たような垢抜けた服装をしていたのだ。

 …俺…すげぇ…ダサい…。

 まじまじと自分の姿を見詰め、そして堪らなくなってフイッと視線をショーウインドウから逸らす。

 一瞬自己嫌悪や原因のわからないジレンマに陥った。

「これが俺なんだ…良いさ…これで。」

 健志と張り合おうとしてしまう気持をなんとか押さえながら、桂が自分を納得させるように呟く。

 自分らしい格好…それで良いんだ。俺は…俺なんだから…。身代わりでも、契約でも…ごっこでも…今は俺が彼の恋人なんだ。飾ることはしない。
 
 あれこれと物思いに耽りながら桂は人が行き交う雑踏を見詰める。
自分の前を通りすぎる誰もが、垢抜けたファッショナブルな服装で、ここが代官山だと言う事を桂に思い知らしめる。

 初めて代官山に来たが、自分がこの町にそぐわない…という思いが強くなる。

 ついでに自分が彼にそぐわないのではないかという…不安も強くなる。
 
雑踏の中から頭一つ飛び出た亮の姿が視界に入ってきて桂の心臓がドクンと跳ねた。

 彼の姿を見る今の今まで、信じられなかった…。本当に彼が来るのか…。本当に自分と恋人ごっこをするつもりなのか…。

 亮は人込みをモノともせずに悠々とした足取りで通りを歩いて来る。視線を心持ちさ迷わせ桂の姿を探しているようだった。

 桂は亮の姿をもっとよく見たくて、人影に隠れるように一歩後に下がるとジッとこっちに向って歩いてくる亮をひたと見詰める。

 ストーカーじみた自分の行為に呆れながらも、桂は亮を見詰め続けた。

 今日の亮はブルーグレーの色が良く映える、体に馴染んだスーツを着ている。 

 春の陽気で暑い所為か、ライトストーン色のスプリングコートを手に持ち、右手にはアタッシェをぶら下げている。その姿はやり手の営業マンといった風情だ…。

 そこまで考えて桂は苦笑する。 いつだって…この1年俺は彼を見詰めつづけていたんだ…。それは彼と恋人ごっこをする様になっても変わりはしないのだろう…。

 初めて彼を見たのは1年前。桜木町のBarだった。
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