〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて

嘉多山瑞菜

文字の大きさ
54 / 95
第九章 普通の恋人同士なら行かないで…そう言うのかな…

しおりを挟む
 7月の終りから熱帯夜が続いていた。毎日30度を軽く越える暑い日が続いていて食欲が落ちてはいた…。

 しかし桂にはそんなに自分が痩せたと言う自覚はなかった。

 でも…そう言えば…と桂は目の前でイタリアの食文化を色々面白く話してくれるジュリオの笑顔を眺めながら、リナや真柴が自分に言った事を思い出していた。

 6月頃から、リナも真柴も口を揃えて桂が痩せたと言っていた。リナはやつれたとまで言っていた…。

 そして…今出会って2週間あまりのジュリオにまで体調を気遣われる有り様…。俺の体調に関心がないのは山本だけか…。そこまで考えて、桂はクスッと笑った。

「どうしました?カツラ…。料理は美味しくないですか?」

 ジュリオの心配そうな声に桂は物思いから我に返った。亮の事を考えていた自分に後ろめたさを感じながら、慌ててニッコリとジュリオに笑いかける。

「いいえ。ジュリオさん。とても美味しいです」

 桂の返事を聞いてジュリオが嬉しそうに笑った。

「良かったです。ここの料理、とてもヘルシーで栄養のバランス良いです。きっと桂の身体にも良いでしょう」

 会ったばかりのジュリオにまで健康を心配されるようじゃ…俺もお終いだな。

 そう考えて桂が自嘲するような笑みを口の端に浮かべる。

 ジュリオはそんな桂をつぶらな瞳で何かを考えるような色を浮かべて見つめた。

 桂はその視線にドギマギして顔を少し俯かせた。ふいにさっきジュリオが亮に「カツラを口説きます」と言ったのを思い出したからだ。 

 少しの沈黙の後、さっきまでの陽気な口調とはまったく違う真摯な声音でジュリオは桂に話しかけた。

「カツラ…私、本当にカツラが好きです。んー。好きになりました。私のコイビトになってください」

 単刀直入なジュリオの言葉に桂がパッと顔を上げた。ジッと自分を見つめるジュリオの熱っぽい視線とぶつかって桂は困ったように顔を逸らした。 

 そんな桂の様子を見て、ジュリオが優しく声を掛けた。

「スミマセン。カツラが困りましたね。でも…私本当にカツラ好きです」

 ジュリオの優しい言葉にふいに桂は胸の中が熱くなり込み上げる物を感じていた。目から溢れそうになる涙を慌てて拭いながら桂は顔を上げた。

 ジュリオの優しい気遣いも言葉も嬉しい…ずっとこんな優しさに飢えていた…。

 ジュリオに縋ってしまえば、きっと楽になれる…。不安なんか絶対感じないのだろう…。

 彼の優しさに包まれていられる…。ぽかぽかとした温もりや安心感の中に浸っていられる…。 

 揺れる胸の内でたくさんの感情がグチャグチャになって桂を苦しめる。

 それでも…

 桂は顔を上げて泣き濡れた瞳でジュリオを見つめた。掠れそうになる声で…喉に引っかかってしまいそうな言葉をやっと絞り出す。 

「ジュリオさん。ありがとうございます。でも…俺…俺…。山本が…好きなんです」

 戦慄く唇で絶望的な亮への気持をジュリオに告げる。

 絶対リナ以外には知られてはいけない想いだった…。

 でもジュリオは自分と亮との間にある何かを感じとってしまっている。それなのに真摯な態度で自分が好きだと言ってくれるジュリオに嘘などつけない…。

 桂の瞳からすっと涙が零れた。気付いて桂は乱暴にゴシゴシと目元を擦りながら続けて言う。

「でも…山本には健志さんと言う大切な恋人がいます。山本は彼を愛しています。俺が一人で勝手に…彼を好きなんです」

「分かっています。私、タケシに会った事あります」

 ジュリオがやっぱり優しい笑みを目元に浮かべたまま桂に答えた。

「でも、私カツラが好きです。だから…カツラの気持が…んーなんて言ったら良いのかわからないですねェ…。そう…!カツラの気持がクリアーになったら、その時は私の事考えなさい。それまでは、友達で我慢します」

 ジュリオの優しい、そして冗談めかした言葉にやっと桂は笑みを浮かべて黙って頷いた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

闇に咲く花~王を愛した少年~

めぐみ
BL
―暗闇に咲き誇る花となり、その美しき毒で若き王を  虜にするのだ-   国を揺るがす恐ろしき陰謀の幕が今、あがろうとしている。 都漢陽の色町には大見世、小見世、様々な遊廓がひしめいている。 その中で中規模どころの見世翠月楼は客筋もよく美女揃いで知られて いるが、実は彼女たちは、どこまでも女にしか見えない男である。  しかし、翠月楼が男娼を置いているというのはあくまでも噂にすぎず、男色趣味のある貴族や豪商が衆道を隠すためには良い隠れ蓑であり恰好の遊び場所となっている。  翠月楼の女将秘蔵っ子翠玉もまた美少女にしか見えない美少年だ。  ある夜、翠月楼の二階の奥まった室で、翠玉は初めて客を迎えた。  翠月を水揚げするために訪れたとばかり思いきや、彼は翠玉に恐ろしい企みを持ちかける-。  はるかな朝鮮王朝時代の韓国を舞台にくりひげられる少年の純愛物語。

振り向いてよ、僕のきら星

街田あんぐる
BL
大学4年間拗らせたイケメン攻め×恋愛に自信がない素朴受け 「そんな男やめときなよ」 「……ねえ、僕にしなよ」 そんな言葉を飲み込んで過ごした、大学4年間。 理系で文学好きな早暉(さき)くんは、大学の書評サークルに入会した。そこで、小動物を思わせる笑顔のかわいい衣真(いま)くんと出会う。 距離を縮めていく二人。でも衣真くんはころころ彼氏が変わって、そのたびに恋愛のトラウマを深めていく。 早暉くんはそれでも諦めきれなくて……。 星のように綺麗な男の子に恋をしてからふたりで一緒に生きていくまでの、優しいお話です。 表紙イラストは梅干弁当さん(https://x.com/umeboshibento)に依頼しました。

双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。 いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。 しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。 営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。 僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。 誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。 それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった── ※これは、フィクションです。 想像で描かれたものであり、現実とは異なります。 ** 旧概要 バイト先の喫茶店にいつも来る スーツ姿の気になる彼。 僕をこの道に引き込んでおきながら 結婚してしまった元彼。 その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。 僕たちの行く末は、なんと、お題次第!? (お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を) *ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成) もしご興味がありましたら、見てやって下さい。 あるアプリでお題小説チャレンジをしています 毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります その中で生まれたお話 何だか勿体ないので上げる事にしました 見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません… 毎日更新出来るように頑張ります! 注:タイトルにあるのがお題です

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

箱入りオメガの受難

おもちDX
BL
社会人の瑠璃は突然の発情期を知らないアルファの男と過ごしてしまう。記憶にないが瑠璃は大学生の地味系男子、琥珀と致してしまったらしい。 元の生活に戻ろうとするも、琥珀はストーカーのように付きまといだし、なぜか瑠璃はだんだん絆されていってしまう。 ある日瑠璃は、発情期を見知らぬイケメンと過ごす夢を見て混乱に陥る。これはあの日の記憶?知らない相手は誰? 不器用なアルファとオメガのドタバタ勘違いラブストーリー。 現代オメガバース ※R要素は限りなく薄いです。 この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。ありがたいことに、グローバルコミック賞をいただきました。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

夢の続きの話をしよう

木原あざみ
BL
歯止めのきかなくなる前に離れようと思った。 隣になんていたくないと思った。 ** サッカー選手×大学生。すれ違い過多の両方向片思いなお話です。他サイトにて完結済みの作品を転載しています。本編総文字数25万字強。 表紙は同人誌にした際に木久劇美和さまに描いていただいたものを使用しています(※こちらに載せている本文は同人誌用に改稿する前のものになります)。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

処理中です...