〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて

嘉多山瑞菜

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第九章 普通の恋人同士なら行かないで…そう言うのかな…

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 店を出てジュリオは携帯を取り出した。
 
 桂に「スミマセン。ちょっとメッセージを聞きます。」と言うと、桂から少し離れたところで電話をする。 
 
 ひとしきり留守電を聞いたのだろう。携帯をスーツのポケットにしまいながら戻ってくると、桂に苦笑を見せながら言った。

「ウルサイお邪魔虫、騒いでいます。カツラをリョーの所に送ります。いいですか?」
「え…?ジュリオさん…でも…俺」 

 桂は困惑してジュリオを見た。今日はもう自分の部屋へ帰るつもりだった。
桂の困った表情を見て、ジュリオがウインクをして続けた。

「カツラ…。もっと頑張ってください。リョーはカツラに会いたいです。それが一番です。今リョーと居るのはカツラです」

 一生懸命言葉を探しながら励ましてくれるジュリオの気持が嬉しくて…桂は微かに微笑むと「分かりました」と答えていた。

 亮のマンションへ着くとジュリオは慣れた様子で亮の部屋のインターフォンを押した。その様子でジュリオが亮の部屋に何度も来た事があるのだと桂にも分かる。

 亮は部屋に人を入れることがあまり好きではないと言っていた。恋人とごく親しい友達しか部屋に入れないよと言っていたのを思い出して、桂は笑みを浮かべた。なんだかんだ言っても亮とジュリオは仲が良いのだろう。

『はい』

 相変わらず不機嫌そうな亮の声がインターフォンごしに聞こえてくる。その声を聞いてジュリオと桂は顔を見合わせてプッと吹き出した。笑いを滲ませた声音でジュリオが喋る。

「リョー。私です。カツラを送りました。私帰ります。だからカツラを迎えにきなさい」

 ガチャッとインターフォンの音が途切れる。ジュリオがやれやれと言うように肩をすくめると、桂を見やりながら言った。

「リョー。頭良いです。仕事できます。でも、私思います。リョー、単純でわかりやすいですね。時々子供みたいです」

 ジュリオの亮の形容に桂がまた笑った。

 自分も時々亮の事をそう思っていたが、他の人から言われると面白かった。カッコイイ男も長年の友人に掛かっては形無しだな。と思って笑いが滲んでしまう。

 その桂の笑みを見てジュリオもニッコリと笑った。

「カツラ、笑っているほうが良いですね」

 言ってジュリオがそっと桂の頬を撫でた。

 ギッと言う乱暴な音と共にマンションのガラス扉が開くと、亮が転がるように飛び出してくる。

 ロビーに立っている二人に気付くと亮はムッとしたように更に機嫌の悪い顔を顰めた。

 ツカツカと二人に近づくと、まだ桂の頬に触れていたジュリオの腕を乱暴に掴んで引き離した。低い声で呟くように言う。

「いい加減にしろよ。ジュリオ。桂に手を出すな。桂は俺と…」

 ニヤニヤしながら亮の言葉を聞いていたジュリオが大袈裟に手を振って亮の言葉を遮った。そして意地悪く言う。

「知っています。リョー。でも私、カツラのこと好きです。カツラに好きと言いました。リョーとカツラ付き合っています。でもリョー、リョーの恋人はタケシです。だから、私はカツラと恋人になるつもりです」

 ペラペラと得意そうに喋るジュリオの言葉に亮の顔が赤らんだ。その様を楽しそうにクスクス笑いながら見るとジュリオは続けた。

「今日は、カツラの気持、優先して口説くの、止めました。でもタケシが戻ったら…」

 ジュリオはニッコリ微笑みながら、一呼吸おいて脅すように亮に指を突き出して言った。

「私がカツラとコイビトになります。良いですね」

 何かを言おうとして亮が口を開き掛ける。それでも沸きあがる怒りを押し込めるようにグッと唇を引き結ぶと一言「勝手にしろ」と呟いた。

 ジュリオはニッコリと笑うと、それまでオロオロと二人のやりとりを見守っていた桂を労わるように見詰めて、もう一度頬に手を触れた。

「カツラ…私帰ります。今日とても楽しかったです。それじゃおやすみなさい。」

 言いながら優しい笑みを浮かべて、ゆったりと桂の頬にキスを落とす。

「おい…。ジュリオ!やめろよ!」

 亮が、とっさにジュリオの肩を掴んで引き戻した。

「あ…」

 桂は、ジュリオの突然のキスにドキドキしてホワンと脱力したようにジュリオを見詰めた。

 それを見て亮が歯噛みをすると桂の腰を抱き寄せる。そして乱暴にジュリオの手の中に、それまで持っていたものを押し込んで叫んだ。

「ほら、車のキーだ。俺の車使って良いから。さっさと帰れよ。じゃぁな!」

 そう言うと、まだ力が抜けたようになっている桂を引きずってマンションの中へ入っていく。

 ジュリオは相変わらずニヤニヤと笑みを浮かべて二人を見送っていたが、押しつけられたキーを眺めると

 「マンマミーヤ!。それじゃ一人寂しくおやすみしましょう」と楽しそうに言って、亮の駐車場へと軽い足取りで歩いて行った。
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