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5ページ目 気づくの遅えよ
中編②
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「出て行ってください」
唐突に、だがきっぱりと告げられたその言葉に、最初、冗談だろうと軽く見ていた男は、すっと瞳をきついものに変えた。
「言ってる意味がわからない」
憮然とした表情のまま、近藤は部屋の中央で腕組をしたまま、近藤は切り返した。
そんなわけないだろう、そんなわけは・・・!
そう言いたい気持ちをぐっとこらえて、圭介は真っ直ぐに強い眼差しで目の前の上司を見た。
・・・そう、彼は上司だ、誰よりも信頼出来て尊敬出来る・・・そして妻のいる、ただの上司。
それが全てさ・・・俺達に恋愛などありはしない、そう必死で言い聞かせて、圭介の出した結論が、出て行って欲しいという願いだった。
「出て行って欲しいんです・・・。もういい加減にしてください」
言葉が震えてしまいそうになるのを、押し殺して圭介は尚も繰り返した。
彼が出ていくこと、それが、不自然な関係を終わらせ、自分を楽にしてくれる。
そこまで考えた瞬間、胸の奥にずきりとした痛みが走った。
圭介の本気が伝わったのだろう、近藤は感情を押し殺したような表情で、ぐっと彼を睨むと、先ほどの言葉を拒絶するように頭を振った
「俺は、ここを出て行くつもりはない」
静かに告げられた近藤の言葉に、一気に圭介の感情が昂ぶった。
脳が沸騰するような怒りが湧き起こってくる。
「あんたっ!奥さんがいるじゃないかっ!いい加減にしてくれよっ!!!」
叫んで、近藤に掴みかかかる。
ぐっと彼のシャツの襟元を掴んで、ぐいぐい揺さぶる。
ドラマじみた安っぽい行為を、自分がしていることすら気付かずに、圭介は彼の胸を拳でドンドンと叩いた。
近藤は抵抗もせずに、圭介の拳を受け入れている。
「・・・ふっ・・・ぅっ・・・」
みっともないとも情けないとも、そんな風に思う気持ちはもう無くて。
悲しくて、ただ・・・ただ・・・悲しくて・・・彼の恋人でいられないのが・・・彼の傍にいることが出来ないのが・・・
どうして・・・どうして・・・こんなに好きになってしまったんだろう・・・
泣いてしまうくらい、彼の全てに溺れてしまうくらい・・・こんなに好きにならなければ、好きになったことに傷つかなくてすんだのに・・・
「・・・きょっ・・・おっ・・・くっ・・・さんっがっ・・・来てたっ・・・!!」
責めるようなことなど言いたくないのに、今日見たあの光景が・・・近藤と妻が自然に笑いあっているのが、深い痛みを伴って、膿むような痛みをもたらす。
分かっていたのに・・・彼に妻がいると・・・一時でも、それでもいいと・・・傍にいたいと願ったのは、自分なのに・・・!
近藤の胸を叩き続けて、涙を零し続けて、どれくらいの時が経ったのか。
圭介の慟哭が啜り泣きに変わるころ、近藤は自分の胸を掴む圭介の腕をそっと外し、その手首を自分の胸へと引き寄せた。
圭介が僅かに抵抗を見せるのもかまわず、近藤は静かに静かに圭介を抱き寄せた。腕の中に囲い込み、ギュッと抱きしめる。
「・・・俺は・・・ここにいる・・・」
首を左右に振る圭介。
彼の言葉を信じられるはずもない。
「・・・何も約束は出来ない・・・」
ほら・・・やっぱり・・・
「・・・お前に惚れてる気持ちは本当だ・・・」
そんな言葉聞きたくない・・・
「・・・・・分かってる・・・・・・・・・・」
圭介の心が分かっているかのような、苦しそうな彼の声が、長い沈黙の後にもたらされて。
宥めるように、ポンポンと背中を優しく叩かれて、抱き込められた腕に力が篭るのを感じて、彼の鼓動が聞こえてきて。
「・・・でも・・・信じて欲しい・・・・・」
弱弱しい近藤の言葉に拒絶したくて・・・、でも出来なくて・・・。
弱くて流されやすい自分を嫌悪しながら、それでも、もう圭介は近藤の胸に縋っていた。
・・・・・信じて欲しい・・・・・
その言葉にしがみつくことしか出来なくて・・・近藤の唇が涙を吸うように、自分の眦に触れて、その甘い感触に、圭介は全てから逃避するように身を委ねると、その言葉にしがみ付いていた。
唐突に、だがきっぱりと告げられたその言葉に、最初、冗談だろうと軽く見ていた男は、すっと瞳をきついものに変えた。
「言ってる意味がわからない」
憮然とした表情のまま、近藤は部屋の中央で腕組をしたまま、近藤は切り返した。
そんなわけないだろう、そんなわけは・・・!
そう言いたい気持ちをぐっとこらえて、圭介は真っ直ぐに強い眼差しで目の前の上司を見た。
・・・そう、彼は上司だ、誰よりも信頼出来て尊敬出来る・・・そして妻のいる、ただの上司。
それが全てさ・・・俺達に恋愛などありはしない、そう必死で言い聞かせて、圭介の出した結論が、出て行って欲しいという願いだった。
「出て行って欲しいんです・・・。もういい加減にしてください」
言葉が震えてしまいそうになるのを、押し殺して圭介は尚も繰り返した。
彼が出ていくこと、それが、不自然な関係を終わらせ、自分を楽にしてくれる。
そこまで考えた瞬間、胸の奥にずきりとした痛みが走った。
圭介の本気が伝わったのだろう、近藤は感情を押し殺したような表情で、ぐっと彼を睨むと、先ほどの言葉を拒絶するように頭を振った
「俺は、ここを出て行くつもりはない」
静かに告げられた近藤の言葉に、一気に圭介の感情が昂ぶった。
脳が沸騰するような怒りが湧き起こってくる。
「あんたっ!奥さんがいるじゃないかっ!いい加減にしてくれよっ!!!」
叫んで、近藤に掴みかかかる。
ぐっと彼のシャツの襟元を掴んで、ぐいぐい揺さぶる。
ドラマじみた安っぽい行為を、自分がしていることすら気付かずに、圭介は彼の胸を拳でドンドンと叩いた。
近藤は抵抗もせずに、圭介の拳を受け入れている。
「・・・ふっ・・・ぅっ・・・」
みっともないとも情けないとも、そんな風に思う気持ちはもう無くて。
悲しくて、ただ・・・ただ・・・悲しくて・・・彼の恋人でいられないのが・・・彼の傍にいることが出来ないのが・・・
どうして・・・どうして・・・こんなに好きになってしまったんだろう・・・
泣いてしまうくらい、彼の全てに溺れてしまうくらい・・・こんなに好きにならなければ、好きになったことに傷つかなくてすんだのに・・・
「・・・きょっ・・・おっ・・・くっ・・・さんっがっ・・・来てたっ・・・!!」
責めるようなことなど言いたくないのに、今日見たあの光景が・・・近藤と妻が自然に笑いあっているのが、深い痛みを伴って、膿むような痛みをもたらす。
分かっていたのに・・・彼に妻がいると・・・一時でも、それでもいいと・・・傍にいたいと願ったのは、自分なのに・・・!
近藤の胸を叩き続けて、涙を零し続けて、どれくらいの時が経ったのか。
圭介の慟哭が啜り泣きに変わるころ、近藤は自分の胸を掴む圭介の腕をそっと外し、その手首を自分の胸へと引き寄せた。
圭介が僅かに抵抗を見せるのもかまわず、近藤は静かに静かに圭介を抱き寄せた。腕の中に囲い込み、ギュッと抱きしめる。
「・・・俺は・・・ここにいる・・・」
首を左右に振る圭介。
彼の言葉を信じられるはずもない。
「・・・何も約束は出来ない・・・」
ほら・・・やっぱり・・・
「・・・お前に惚れてる気持ちは本当だ・・・」
そんな言葉聞きたくない・・・
「・・・・・分かってる・・・・・・・・・・」
圭介の心が分かっているかのような、苦しそうな彼の声が、長い沈黙の後にもたらされて。
宥めるように、ポンポンと背中を優しく叩かれて、抱き込められた腕に力が篭るのを感じて、彼の鼓動が聞こえてきて。
「・・・でも・・・信じて欲しい・・・・・」
弱弱しい近藤の言葉に拒絶したくて・・・、でも出来なくて・・・。
弱くて流されやすい自分を嫌悪しながら、それでも、もう圭介は近藤の胸に縋っていた。
・・・・・信じて欲しい・・・・・
その言葉にしがみつくことしか出来なくて・・・近藤の唇が涙を吸うように、自分の眦に触れて、その甘い感触に、圭介は全てから逃避するように身を委ねると、その言葉にしがみ付いていた。
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