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《第14章》―お前の喜ぶ顔をずっと見ていたい、自分が喜ばせたい。そう思う自分がいるなんて—

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  会社のスタッフ達の間で、自分の噂が広がっているのに亮は気付いていた。

― 付き合いが悪くなった―

 若いスタッフ達の間では悪評、そして年配のお偉方からは良評とクッキリと評価が分かれてはいたが…。

 その日も、企画の一番若いスタッフが亮に声を掛けてきた。

「あ…?あの有名なバーか?」

 亮の問いにハイと嬉しそうな顔でスタッフが答えた。
彼は亮の大学の後輩で、若手の社員の中でも一番仕事が良く出来ていた。亮もなにかと目を掛けていたせいか、良く懐いていて、遊びになると良く亮に誘いを掛けてきたのだ。

 今日も、六本木にある最近流行りのバーに行かないかと亮を誘いに来たところだった。
近頃、テレビや雑誌で見掛けるバーだった。業界人や芸能人が良く集まるというスポットで、亮も店が何周年だかのパーティをやる時に招待状をもらった事があった。
 
 その時は仕事の都合がつかず、出席を渋々断っていたが…今回は…。

「悪いけど、他に用があるから止めとく」

 あっさりと亮は断りの言葉を口にする。その言葉にスタッフが顔を顰めた。

「えぇ?行きましょうよ、専務。専務がいないとつまらないでしょう。それに、最近専務付き合い悪いって、専らの噂ですよ」

 その言葉に亮が苦笑を浮かべた。

 そう…以前の自分なら、今日の誘いにも乗っただろう…桂を知らない以前の自分だったら…。

 夜のクラブやバー。大勢の喧騒、混濁した空気…そして饐えたような酒の匂い…。
そのどれもが好きで夜遊びに狂っていた…。
メンバーの中心となって若手のスタッフ達と夜を徹して遊び歩き、カッコイイと評された。そして遊びを忘れた年寄達からは、度が過ぎると眉をひそめられていた。

 それが…今じゃ…。

 亮は、スタッフが渋々部屋を出て行くのを見送ると、ふっと笑みを零した。今日は桂と逢う約束をしていた。

 久し振りに桂が、桂の部屋に招待をしてくれたのだ。桂の部屋で…桂と過ごす…。これ以上に楽しい時間などありはしない…。

 桂が見たいと言っていた、映画を一緒に見る。時間があれば、桂に聞かせたいと思っていたジャズを聞きながらベッドに入るのも良いな…と考えていた。

 亮にとってうれしい事に今日は金曜日…桂の部屋で日曜日まで過ごせる事が出来る。日曜日の昼ぐらいだったら、どっかに昼飯を食べに出ても良い…天気が良ければドライブをして、それで、俺の部屋に戻って桂を泊らせてもいいいし…そうそう、新発売のゲーム機も買っておかないと…などと、あれこれ亮は予定を立てていたのだ。

 最近、めっきり夜の盛り場に出て行かない自分を自覚していた。以前のようにネットや雑誌で最新のデートスポットを調べる事もしなくなった。

 人の集まるところになど、興味が無かった。
ただ…桂と一緒にいられれば…それだけで充分。少しだけ街を桂とぶらついて…そして桂の部屋で桂の料理を一緒に食べて…桂を抱きしめられれば…それが一番…。

 亮は、桂と過ごす時間を想像して優しい笑顔を一人で零すと、また手もとの書類に集中し始めた。
 
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