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《第23章》― 俺たちは愛し合ったんだろう…どうして、そんなに終わりにしようとするんだ…?―

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 予想は大当たり。
亮は蛻の空となっている、桂の部屋で苦笑を滲ませた。

 桂が出ていってしまってから、多分そんなに時間は経っていなかった…。あの永遠とも思える健志との時間は、20分かそこら…。
なぜ、健志があんな気紛れに気持ちを変えたのかは分からない。だけど、健志に怒鳴られたお陰で、桂を追うことが出来た。
そこまでは、良かったんだけどな…。思いながら、亮は苦笑を相変わらず浮かべたまま、桂の部屋をぐるりと見渡した。

 20分という僅かな時間…それなのに桂の後を追ってみたものの、亮のマンションの周辺には桂の姿はもうなかった。

 サラリーマンが会社への道を急ぐ中、取るべき行動を考えあぐねて、馬鹿みたいに通勤ラッシュの雑踏の中で一人立ち尽くしてしまっていた。
いつも、感じていたがこんな肝心な時に自分が桂の事を何もしらない事を思い知らされる。
知っているのは、桂の優しい笑み…純粋無垢な心・・・淫らな姿態…そして…俺の事が好きと言うことだけ…。

 深いため息を吐きながら、亮は頭を振った。
健志が帰ってくれば、桂が自分の前から姿を消す…「恋人ごっこ」という危うい関係の中でずっと恐れていた事態。この状況だけは、ずいぶん前から予測出来ていた。

「健志が戻れば自分は用済み」

 桂と自分の間に呪縛のように沈んでいた、忌々しいルール。とうとう最悪の状況でそのルールは執行された。

「一体…どこに消えたんだ…」

 亮はぐるっと桂の部屋をもう一度見渡した。整然と片づけられた桂の部屋。そこには、以前有ったはずのモノが消えている。

 いつも調べ物をするのに使っていたパソコン。部屋のロウテーブルに有ったのに…。

 乱雑に積み上げられていた日本語関係の本。それに仕事で使っていただろうたくさんのファイル。それらが全て消えている。さすがに部屋を物色する気は無かったが、恐らく洋服なんかも無いだろう事は容易に推測出来た。必要最低限の大事な物だけを持って、どこかに姿を隠したのだろう…。

 亮は自分の迂闊さを呪った。
あの後、桂を迎えに桂の大学へ向かったのが失敗だった。すぐにこの部屋に来ていれば、泣きじゃくっているだろう桂を、この手に抱きしめることが出来ていたかもしれないのに…。

 健志だって…桂を掴まえろ…と言ってくれたのに…。

「俺は…ホントに…大バカだ」

 桂の事になると、てんで頭が回らなくなる。責任感の強い桂が授業を休むわけはないと、大学に行っているだろうと思ったのが、だいたい間違っていたのだ。

 こんな時期に、どんなバカなヤツだって大学に行ったりするわけないだろう…。桂へ面会を申し込んだ亮への、大学の事務局の人間から返ってきた答えは「今日は休講日ですので、伊藤先生もお休みです」という至極あっさりしたモノだった。

 何度も桂の携帯に連絡したが、当然のように桂の携帯は留守電のまま。桂の部屋に来てみれば亮を出迎えたのは暗いままの部屋。

 以前リナから貰った合い鍵で、はやる動悸を押さえて部屋に入ってみたものの、亮の前に現れたのは予想された現実だけ。

 突然亮のスマートフォンが着信音を鳴らして、亮はギクリとした。
桂かも…亮は慌ててディスプレイに目を凝らすが、表示されているのは会社のスタッフ。亮は落胆したまま、それでも渋々電話に出た。

 会社のスタッフが仕事の話をするのに、曖昧に返事をしながら、亮は次に打つ手を考えていた。
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