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しおりを挟む王都の屋敷に戻ると、客人が来ていると知らされた。
ティール辺境伯である父と、母だった。
何の知らせもなく訪れた両親に、私は驚きつつも客間へと急いだ。
「お父様、お母様!どうしてこちらに?」
「おお、ローズか。息災であったか」
父は、厳格な顔を少しだけほころばせて言った。
母は、私のそばに駆け寄り、その両手で私の頬を包み込んだ。
「まあ、ローズ。少し痩せたのではないかしら。王都での生活は、やはりあなたには合わないのね」
「そんなことはありません、お母様。私は元気に過ごしております」
心配そうな母の顔に、胸がちくりと痛む。
この優しい両親に、どれほどの心労をかけていることだろう。
「して、ローズよ。計画は順調に進んでいると、カイから聞いている」
父が、本題に入った。
私たちはソファに座り、向き合う。
「はい。証拠は、ほぼ揃いました。あとは、決行の時を待つばかりです」
「そうか」
父は短く答えると、じっと私の目を見た。
その深い瞳は、辺境の荒野を見つめてきた、歴戦の将の目だった。
「ローズ。お前に一つ、確認しておきたいことがある」
「……なんでしょうか、お父様」
「この計画、今からでもやめることができる。お前が望むなら、我々はすぐにでも辺境へ引き上げる。ヴォルグ家との関係など、こちらから断ち切ってしまえばいい。お前をこれ以上、苦しませる必要はないのだ」
父の言葉は、私の心を揺さぶった。
そうだ。やめてもいいのだ。
こんな辛い役を、演じ続けなくてもいい。
辺境に帰れば、優しい家族と、領民たちがいる。
「……いいえ」
しかし、私の口から出たのは、拒絶の言葉だった。
「私は、やめません。ここでやめてしまっては、ヴォるグ家の悪行を許すことになります。それは、辺境の未来に、必ずや暗い影を落とすでしょう」
私は、まっすぐに父の目を見つめ返した。
「それに、これはもう、私一人の戦いではありません。お父様、お母様、お兄様。そして、力を貸してくださる方々。皆の想いを、無駄にはできません」
私の言葉を聞いて、父は満足そうに頷いた。
「……よく言った。それでこそ、私の娘だ」
母は、涙ぐみながらも、誇らしげに微笑んでいた。
「ローズ、お前の信じる道を行きなさい。私たちは、いつだってお前の味方です」
「はい、お父様、お母様」
胸に温かいものが込み上げてくる。
この家族がいる限り、私はどんな困難にも立ち向かえる。
両親は、その日のうちに慌ただしく辺境へと帰っていった。
領地を長く空けることはできないのだろう。
だが、彼らが残してくれた覚悟と愛情は、私の心を強く満たしてくれていた。
私はもう、一人ではなかった。
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