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フィオナの不安

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 昼食後、あたしは一通りナリユキ閣下、ミク様、カーネル王、アリシア、クロノス様、アリス様、ランベリオン様、ベルゾーグ様、ノア様、ルイゼンバーン様達と、マーズベル共和国の案内をしてもらった。そして、今は夜になり、カーネル王様達が来ているので、ナリユキ閣下の屋敷の近くで、和気あいあいとお酒を楽しんでいる。

 ただ、ナリユキ閣下はしばらく部屋で用事があるので席を外しているとのことだ。
 
 思い返せば、アリシアに拾ってもらおうと、過去に訪れたことがあるマーズベルに転移テレポートした。そこで気付けば、アリシアと天使のようなミク様と、人魚姫マーメイドのアリス様がいた。ミク様はあたしと同じで究極の阻害者アルティメット・ジャマーを持っているので、勿論ステータスを視ることはできなかった。

 しかし、ナリユキ閣下とミク様には不思議な事に、あたしのステータスが視えていた。噂は本当だったのだ。鑑定士Ⅴよりさらに上の存在があるという噂は――。それを取得している2人はガープと同じS級の最上位クラスの入り口に立っているのは間違いない。

 そして、ミク様より強いというのが、魔物使いビースト・テイマーのノア様だ。驚く事にカルベリアツリーのダンジョンの700層目のボスらしい。そんな一国の最終兵器クラスの実力者が3人もいる。

 なので、本来ではあれば、カーネル王と側近のクロノス様がいて気を取られるのが普通だが、それを軽く凌駕する大いなる存在であることは一目で分かった。ナリユキ閣下の御傍にいれば安全であることは間違いないだろう。

 けれども、本当にあたしの身体を捧げなくてもいいのか? あたしは何の為に助けられ、何の為に家まで頂けるのだろうか――。

「悩んでいるようですね」

 そう皆の様子を見ながら赤ワインを飲んでいたところ、あたしに声をかけてきたのはベリト様だった。銀髪の赤い目をした美丈夫だ。そして、この人もあたしと同じ境遇を辿った種族。

「はい――。アリシアを頼ってここに来たものの、皆様から恩恵が大きすぎるあまり――。それにナリユキ閣下には何とお礼をしたらよいものか。今まであたしは、このユニークスキルで恩返しをしてきました。それが今までのあたしの人生なので、恩恵が大きいとどうすればいいのか分からないのです。故に、失礼なのは重々承知ですが、まだナリユキ閣下を疑ってしまっている自分がいます」

 ベリト様は一瞬驚いたが、優しい微笑みを浮かべてくれた。何の違和感もない心の底からの微笑みだった。

「――成程。ナリユキ様は、特に何も求めておりませんよ。世の中の人により良い人生を歩んでほしい。たったそれだけなのです。まあ、勿論ナリユキ様の事ですから、カーネル王、クロノス、ルイゼンバーン様と仲良くしているのは、マーズベル共和国の発展の為。ナリユキ様風に言うと生産性を上げるためです。しかし、あの3人をご覧下さい。3人とも心の底から楽しんでおられる。だから、彼等との関係は多かれ少なかれ、圧倒的な真心からくるものです。その真心がカーネル王からナリユキ様に対する提案になるわけです。ナリユキ様は、損得勘定から生まれる関係性は、後にしがらみを生むということ仰っておりますので、まさにそれが今私達に目の前で結果として映っているのです。驚きですよね?」

「本当にそんな綺麗ごとが――」

「まあ綺麗ごとばかりでは無いんですけどね。私は恋人をアードルハイム帝国に目の前で惨殺されて道を踏み外しました。本気で全人類に報復しようとしました。けれどもそれは違うと正しくてくれたのはナリユキ様です。あの御方はアードルハイム帝国にだけアルティメットスキル放って宮殿を破壊し、復讐完了すると仰られたんですよ。普通なら人間を殺すな! とか言ってくるところだと思うんですけどね。そのお言葉があったからこそ、私の心は羽根のように軽くなりました。ですので、何か不安があるならナリユキ様に相談してみると良いでしょう。何なら今すぐにでも」

「用があるので今この席にいないのにですか?」

「大丈夫ですよ。伝え方次第ですが、少しなら時間取ってくれますよ」

 ベリト様はそう言って微笑んでくれた。そう言われると、もの凄く気になってしまう。赤ワインを一気飲み干して、あたしが立ち上がると、「行ってらっしゃい」と、もう一度微笑んでくれた。

 ミク様が「どこに行かれたんですか?」とベリト様に尋ねた返答に「御手洗らしいですよ」と適当に誤魔化してくれていた。後でお礼言わないとな。

 そう思いながらナリユキ閣下の部屋に向かっていると、途中でばったり遭遇した。

「楽しめているか?」

「ええ、まあ――。あのナリユキ閣下」

「ん? どうした?」

「あたしは何の為に、ナリユキ閣下やミク様からこんなご厚意を受けているのでしょうか? せめてあたしの身体で恩返しなりをさせてほしいのです」

 そう言ったものの、あたしの身体は震えていた。自分が犯され続けてきたこともあの地獄の日々がフラッシュバックする。そして、あたしだけが他の仲間を置いて出てきたという事実も――。

 と考えていたときだ。あたしは気付けばナリユキ閣下に抱き寄せられていた。心無しかフレッドと似た匂いがする。

「自分の身体をそんな簡単に差し出すものじゃないぜ。自分が好きな人に差し出すもんだろ? 確かにフィオナさんのスキルは強くなるには効率がいい。でも、だからって身を委ねてもいいと思っている相手じゃないのに、無理やり捧げる必要なんてない。だから今後は自分の身を簡単に差し出すって言っちゃ駄目だ」

 ナリユキ閣下はそう言いながら、空いている右手で頭を優しく撫でてくれた。これほどポカポカした気持ちになるのはいつぶりだろうか。

「もう見たくないんだよ。女の子が辛い思いしながら死んでいくのは。だから安心してくれ。ここにいてくれる以上は守り貫いてみせるからよ」

 ナリユキ閣下の優しい言葉、声にあたしは涙が溢れてきた。

「本当に信じてもいいのですか?」

「ああ。だから今はゆっくり休みな。仮にアードルハイム帝国が来たとしても乗り切るさ。それにもうベリトを引き受けるしな。大丈夫だ。ここの皆は強いから」

 ほんの数分のだったと思う。けれどもあたしはその数分が長く感じる程泣いていた。声がかれそうなくらい大きな声で泣いていた。今までずっと辛かった地獄の日々。間違いない、あたしはこの御方によって報われるんだ。幸せになれるんだ――。
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