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連行Ⅰ

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「流石に厳しいものがあるな」

「何だ? まだやるのか?」

 このアヌビスって魔物は本当に痛みを感じているのか? と思う程打たれ強い。いくらスライムのように再生していても。いくら少しずつ回復しても。銃弾と爆撃はまともに喰らっている。精神的にも大分参ってきているはずだ。正直これ以上戦いたいと言われるのは厳しいものがある。

「あっちは終わったようだからな」

 アヌビスはそう言ってカルディアとマカロフ卿を指した。カルディアがぜえぜえと息を切らして仰向けで倒れている。カルディアの喉元にはアヌビスのスペツナズナイフ。そして、いつの間にか戻っていたワイズが、ガブリエルを含めたカーネル王国の王国兵達を捕らえて俺を睨めつけていた。そしてクロノスも、カリブデウスも、スカーも捕まっているという状態だ。

「まさか――」

「全員人質だ。奴等が止めに入らなかったのは、余が貴様と好きに戦わせてほしいと言っていたからだ」

「俺と勝負がしたかったというのは?」

「それは本音だ。しかし、奴等の目的は貴様を殺すこと又は捕らえることだ。大人しく投降してもらうぞ?」

「ぐっ……」

 いや――俺にはこの転移テレポートイヤリングがある。いざとなれば何処へいようと逃げることができる。しかしもし取り上げられたり、人質を数名一緒に連行された時は絶望的だ。

「行くぞナリユキ・タテワキ」

 人質の前にいるのがワイズだ――。他の人間であればまだ何か好機チャンスがあるのではと思うが、ワイズという狂人を前にしてしまっては下手な事はできない。勿論、マカロフ卿も冷徹ではあるが、レンさんのときのように情を見せるときがあるので付け入ることはできる。しかしワイズという狂人はどうだろう――否、奴なら真っ先に数人の人間の命を奪うに違いない――。

 俺はアヌビスに捕らえられてマカロフ卿の前に立たされた。

「残念だったなナリユキ・タテワキ」

 マカロフ卿はそう言って葉巻を咥えた。

「どうする?」

 答えは知っているのにあえて聞いてくるところが余計にタチが悪い。

「どうするも何も俺が投降しなければここにいる皆やられるんだろ?」

「そうだな。まだ俺だけなら良かったが御覧の通り、ワイズが戻って来た。しかも戦闘値上がっているだろ?」

 は? 真っ先にそう思いワイズの戦闘値を見てみた。何故か知らんが6,500になってマカロフ卿と同じ数値だ。

「奴は少し特殊な生態系でな。魔界だと私達の世界より馴染んだらしく、魔界の扉イビル・ゲートで痛めつけてくる魔物共を殺してきてパワーアップしたそうだ。魔界の扉イビル・ゲートの話はガープから聞いているが、廃人になるか死ぬかの2択で、ワイズのような事例は無いと聞く」

 それは俺もガープの記憶で知っている――本物の化物だな。

「どう考えても逃げ場ねえもんな」

「そういうことだ。話が早くて助かるよ」

 マカロフ卿はそう言って俺の手に枷を付けた。アードルハイムのときにあったスキルが発動できない枷だ。

「悪いなナリユキ・タテワキ――足を引っ張ってしまって」

 仰向けで倒れているカルディアはそう呟いていた。表情を見るからにマカロフ卿に負けて悔しいのだろう。そして、よく見ると両手両足を枷で繋がれていた。

「本当に申し訳ございません」

 クロノス、カリブデウス、スカーに関しては手枷のみとなっている。

「本当にスキル使えないんだな」

 俺はそう呟きながら苦笑いを浮かべた。

「そういうことだ。ワイズ、何人か適当にかっさらうぞ」

「別に殺してもいいだろ。コイツ等はもう用済みだ。何なら俺様の食料にしてもいいが」

 ワイズはそう言ってカーネル王国の兵達を睨めつけた。そのドスの効いた声は兵達を震え上がらすのには十分だった。

「ひいいい!」

「助けて下さい! クロノス様! ガブリエル様!」

 そう部下達の悲痛の訴えにクロノスは唇を噛みしめて「すまない」と謝罪をしていた。

「何で俺達が巻き込まれないといけないんだ」

「英雄と呼ばれて調子に乗っていたんだろ?」

 そう俺の耳に心無い言葉が入って来た――。

 この感じ久しぶりだ――。

 思えばこの世界に来て多少の失敗はしたものの、批判されるような事はなかった。不思議だよな? けど、俺がやってきた行いで皆を巻き込む結果になってしまった……。

 何よりマカロフ卿は明言していた。単身で他国にいる俺の方が叩きやすいと――。

 そう思うと力んでいた力がふと抜けた――国主ナリユキ・タテワキという人物が抜けた感じだ。

「ナリユキ様申し訳ございません。うちの部下が……」

 俺を横目に見ていたクロノスがそう声をかけてきた。

「いや。大丈夫だ」

 俺はそう平然を装う為に笑顔を向けた。取り繕った笑顔だ。自分でもとびきりの違和感を覚える――。

「しか……いえ何でもありません」

 クロノスは何か訴えようとした止めた。しかしっ! とでも言いたかったのだろう。

 そうぐるぐると考えていた時だった。俺への様々な非難を止めたのは――。

「止めなさい! ナリユキ様は勇敢に戦ってくれました。寧ろ我々の力が、マカロフ卿達に及ばなかったのです。さっきの壮絶な戦いを見たでしょう!? この得体の知れない魔物を押していました! ナリユキ様がいなければ我が国は亡びていたかもしれません! それにこれは我々の国で起きた問題です!」

 ガブリエルはそう強く言うと兵達は心のなかに俺への言いたいことをしまった。そう言えど、実際に俺をおびき出すのに立ち向かった冒険者達がいる。冒険者達は民間人を必死に避難させて彼等に立ち向かった――。俺が見た感じだと酷い怪我をした人はいなかったが、中にはそんな人もいたかもしれない。俺が確認できていないだけで命を落としている人も――。

「大丈夫だ。ワイズが殺そうとしていたから私が止めている。全員医療施設送りくらいだ」

 俺の心を見透かしたようにマカロフ卿がそう言葉を残した。

「そろそろ迎えが来ますね」

 メリーザがそう言うと聞き覚えのある音がした。

 そう――オスプレイだ。俺達の頭上にはオスプレイという名の航空機が姿を現した。当然見たことが無い人間は唖然としている。カルディアに関しても「何だあのデカイ鳥は――」と呟いているくらいだ。

 俺は着陸したオスプレイに詰め込まれた。カーネル王国の兵も5人程抜粋されて乗せられた――。そして驚いたのは……。

「おい、クロノスもか?」

「どうやらそうらしいですね」

 クロノスはそう言って申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 オスプレイの扉が閉まると離陸。人生初のオスプレイの搭乗は人質で乗るという最悪な展開だった。

 そしてこれから俺達はどうなるのだろう? クロノスは? カーネル王国の兵は? 皆無事に帰ることができるのだろうか? そのような不安を胸中に秘めながら唇を噛みしめた。

 
 




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