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最終局面Ⅴ

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「ったく嫌になるぜ本当に。いつになったら倒れるんだよ」

 神獄城ヴァルハラ――。このアルティメットスキルは恐ろしく強い。それ故に不思議だ。これだけの攻撃を喰らっておきながら何故奴は倒れない――。

「不屈の精神というやつだな。恐らくタフさは全世界の頂点だな」

「だろうな」

「ふざけるなー!」

 突然、黒龍ニゲルがそう怒号を散らした。その怒号は正直なところ、どんなアルティメットスキルやアクティブスキルの轟音よりうるさかった。そして珍しく鼓膜が一度破れてしまった。耳に出血、難聴、耳鳴りといった症状が出たから分かる。まあ再生するから問題は無いけど――。

 皆、顔を歪めていたけど直ぐに再生するから問題なさそうだな。それにしても俺の鼓膜を破るってどんな声だよ――と思っていた時だった。

「そんな馬鹿な――有り得ないわ」

 俺達も目の前の光景に驚いているが、一番驚いているのはデアだった。何しろ亡霊達が黒龍ニゲルの怒号の影響で消えてしまい、神獄城ヴァルハラも完全に解除されてしまったからだ。俺達がいるのは城の中では無い。黒龍ニゲルが散々荒らして荒野となり果てたマーズベル森林だ。

 黒龍ニゲルはぜえぜえと大きく息を切らしていた。それに目も虚ろになっている。この状態を見れば誰でも分かる。ただならぬ気力で黒龍ニゲルは立っている。

「如何なるスキルであっても俺様の前では無力という事だ……」

 この状況においても黒龍ニゲルは不敵な笑みを浮かべていた。

「敵ながら凄いね――」

「恐ろしい奴だ」

 ミクちゃんが黒龍ニゲルを称賛した後、ルシファーは冷や汗を流しながらそう呟いた。何が凄いって奴の身体はほぼ再生していない。全身血まみれでダメージが残ったまま。死んでいないのが不思議なくらいだ。だからこそ、黒龍ニゲルはこの追い込まれたなか、どのような攻撃を仕掛けてくるのか正直なところ怖い。こいつは土壇場で何か大きな事を仕掛けてくるからな――。

「限界ね――」

 デアはそう言って倒れてしまった。神獄城ヴァルハラはスキル効果が強力な分、お城を召喚させた後もMPを消費し続けるのでデアのMPが再び枯渇してしまった。ミクちゃんがデアのMPの回復を試みるも、何度もMPを回復させているため、デアを戦える状態にするのは困難なようだった。

「あれだけのアルティメットスキルだ。仕方ない。この少女がいなければ奴をここまで追い詰めることはできなかっただろう。よく戦ってくれた」

 ルシファーはそう言ってデアの健闘を称えた。デアの力が無ければ全力の黒龍ニゲルに為す術無くやられていたところだろう。

「面倒くさい奴が一人脱落だな」

「いや、ここにいるのは皆面倒くさい奴だと思うけど?」

「確かにそれもそうだな」

 体中傷だらけの黒龍ニゲルはどこか余裕を感じさせる笑みを浮かべていた。奴にとってデアの存在が大きかったのが物語っている。

「ナリユキ。何か策はあるか?」

「いや、ぶっちゃけあんまり思い浮かばない」

「それは残念だ」

「その割には随分と余裕だな」

「余裕という訳ではないさ。ただ、私もここまで追い込まれたのは初めてだからな」

「成程な。ただここまで手を焼くのは後にも先にも、ルシファーとしては黒龍ニゲルが最後だと思うけど?」

「ベリアルと直接対決をすれば話は変わってくるかもしれないが、とりあえずはそうだな――私はそろそろ英雄ノ神インドラのスキルを発動する」

「窮地に追い込まれる時間が長い程強力な攻撃ができるんだよな?」

「その通りだ」

 ルシファーはそう言って不敵な笑みを浮かべた。その表情を見ていた黒龍ニゲルは珍しく焦った様子を見せている。

 それもその筈。ルシファーの黒刀には強大で神々しい白いオーラが放たれているのだが、そのオーラから感じ取れるパワーは黒龍ニゲルと同等――。いやそれ以上だ。ルシファーが2,000年前に黒龍ニゲルを封印できたのは、間違いなくこの英雄ノ神インドラのお陰だろう。

 ゲームとかでよくあるやつだ。勇者が覚醒して魔王を倒すべくとてつもないパワーを得て、魔王を粉砕するような展開が容易に想像できる。それほど、英雄ノ神インドラによってパワーアップしたルシファーは凄い。アニメとかで言うなら勝ち確定のBGMが流れてもいい。

「凄いなそれ。絶対に勝てるような気がするんだけど」

英雄ノ神インドラは勝利をもたらすユニークスキルだ。相手が強敵な程効果が発揮される」

「魔王なのか勇者なのか分からねえなアンタ」

「残念ながら私は魔王だ。さて黒龍。覚悟は出来ているか?」

「ほざけー!」

 黒龍ニゲルはそう言ってルシファーに襲い掛かった。一方ルシファーは殺意むき出しの黒龍ニゲルに対して穏やかな眼差しを向けていた。

「私は魔界、地上、地下世界アンダー・グラウンド。全ての世界の頂点に君臨する剣術使い。その一太刀。とくと味わえ。これが私の英雄ノ神インドラだ」

 そう言ってルシファーが放った白いオーラを放った黒刀の斬撃。バカでかい斬撃なんてもんじゃない。標高5,000mを超えるマーズベル山脈を軽々と超える程の高さがあり、横幅はマーズベル森林を軽く覆っている。たった一つの斬撃で国を一つ滅ぼす事ができる威力だ。しかし不思議な事にマーズベルの自然にも、俺達にも影響は全く無い。

 影響があるのは「クソー!」という断末魔を出している黒龍ニゲルのみだった。
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