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妃殿下ご登場です
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「そのくらいで勘弁してあげて下さいませ」
恥じて俯いていたエーベルハルトだったが、聞き慣れた声が耳に入り驚き顔を上げた。だが、そこに立っている女性を見てぽかんと作法も忘れ凝視してしまう。
「……く、クラウディア……?」
季節は冬だが今日は良く晴れているからだろう。侍女が差す日傘で陽を避けて貰いながら近付く女性の声とエーベルハルトの記憶にある姿が一致せず、混乱してしまう。
「ん?……ひっ!!」
しかし、まさか?と思い名を呼んで問いかけた瞬間、テーブルを挟んだ向こう側からまるでブリザードの様な冷気がエーベルハルトを襲いかかった。
「エーベルハルト殿下」
「はっ、はいいいいっっ?」
「気安く私の妻の名を呼ばないで貰おうか」
にっこり、と笑顔だがリュシオンの目は据わっている。当然だがリュシオンはエーベルハルトのクラウディアへの態度がどんなものであったか知っている。それが、クラウディアの容姿に対してのものがあった事もだ。
クラウディアは祖国にいる時あまり着飾る事を良しとしていなかった。無論公爵令嬢として最低限ドレスを纏い髪を纏めていたが、華やかさにはかける装いだった。クラウディアにしてみれば見苦しくない程度に整えてあるのだから、文句を言われる筋合いは無かったのだが、ドレスもアクセサリーも贈って来ない癖にケチだけを付けられる事は許せるものではなかった。反骨心から装いは一層地味になっていき、それにエーベルハルトが顔を顰める悪循環に陥っていたのだった。
だが、今現れたクラウディアはどうだろう。品の良いドレスは冬であることもあって長袖でハイネックの型だが、首元と袖口にレースをあしらって華やかさを出しているプリンセスラインのものだ。ラベンダー色で腰から裾へ徐々に薄くなっていくグラデーションが美しい。エールデンで今流行っている……というか、クラウディアが着ている事で流行ったデザインだ。本来は常にコルセットを締めるものだが、動きづらいのを嫌ったクラウディアは公式の場でしか付ける事が無かったため、今は豊かな女性特有のラインが良くわかる。
ネックレスなどのアクセサリーも石が小振りのせいか派手さはないが、台座の細工が非常に細かく、見るものが見れば高価な品なのが窺えるだろう。
髪型も学園や祖国の王宮では一度もエーベルハルトが見たことがないものだ。本来エールデンでは既婚女性は髪を結い上げるが、クラウディアの項が見えるのをリュシオンが嫌がったためこちらも普段は髪を下ろしてはいる。サイドに編み込みをいれて若い女性らしい髪型になっている。
エーベルハルトは思った。何故祖国に居る時にこの装いでなかったのか、と。このクラウディアであったのなら、婚約破棄などしなかったものを、と。
当然だろう。ドレスもアクセサリーも贈って来ない、会えば罵詈雑言かすぐに逃げ出すか。そんな男の為に着飾る女性はいないだろう。今クラウディアが美しく輝いているのは、愛し愛されているからに他ならない。
そんなエーベルハルトの心情が手に取るようにわかるのだろう。リュシオンはあからさまにエーベルハルトを威嚇した。ガゼボは結界を応用した暖房システムにより外気が遮断され暖かい筈なのに、エーベルハルトの周りだけ空気が凍って結晶の様なものがチラついている。キラキラと美しいが、これは命に関わる美しさだ。
「り、リュシオン陛下……っ」
ぶる、と寒さにエーベルハルトが震える。吐く息が真っ白だ。リュシオンは魔道大国となったエールデンでも名の知れた氷魔法の使い手だった。魔力はそこそこあるものの、王になる者に必要ないと言い訳して練習をサボっていたために、基礎魔法が幾つか使えるだけのエーベルハルトに勝ち目はない。慌てて止めてもらおうと呼び掛けた。エーベルハルトは見誤ったのだ。リュシオンの嫉妬深さに。
ぱこん
「その辺にして下さい。他国の王族を嫉妬で凍らせたりしたら、外務が泣きます」
どう考えても泣くだけでは済まないが、そう声がかけられた瞬間、ダイヤモンドダストが消えた。戻った暖気に強ばった身体が解れていくのがわかる。
「殿下も迂闊な発言はしないでください。父も泣きます」
「……ヘンリック」
どうやら先ほどの気の抜けたような音は、リュシオンの頭を丸めた紙で叩いたものらしい。気が付かなかったが、ヘンリックはクラウディアの後ろに立っていた。右手に持った紙を左手に打ち付ける度ぱこん、ぱこん、と音がしている。
恥じて俯いていたエーベルハルトだったが、聞き慣れた声が耳に入り驚き顔を上げた。だが、そこに立っている女性を見てぽかんと作法も忘れ凝視してしまう。
「……く、クラウディア……?」
季節は冬だが今日は良く晴れているからだろう。侍女が差す日傘で陽を避けて貰いながら近付く女性の声とエーベルハルトの記憶にある姿が一致せず、混乱してしまう。
「ん?……ひっ!!」
しかし、まさか?と思い名を呼んで問いかけた瞬間、テーブルを挟んだ向こう側からまるでブリザードの様な冷気がエーベルハルトを襲いかかった。
「エーベルハルト殿下」
「はっ、はいいいいっっ?」
「気安く私の妻の名を呼ばないで貰おうか」
にっこり、と笑顔だがリュシオンの目は据わっている。当然だがリュシオンはエーベルハルトのクラウディアへの態度がどんなものであったか知っている。それが、クラウディアの容姿に対してのものがあった事もだ。
クラウディアは祖国にいる時あまり着飾る事を良しとしていなかった。無論公爵令嬢として最低限ドレスを纏い髪を纏めていたが、華やかさにはかける装いだった。クラウディアにしてみれば見苦しくない程度に整えてあるのだから、文句を言われる筋合いは無かったのだが、ドレスもアクセサリーも贈って来ない癖にケチだけを付けられる事は許せるものではなかった。反骨心から装いは一層地味になっていき、それにエーベルハルトが顔を顰める悪循環に陥っていたのだった。
だが、今現れたクラウディアはどうだろう。品の良いドレスは冬であることもあって長袖でハイネックの型だが、首元と袖口にレースをあしらって華やかさを出しているプリンセスラインのものだ。ラベンダー色で腰から裾へ徐々に薄くなっていくグラデーションが美しい。エールデンで今流行っている……というか、クラウディアが着ている事で流行ったデザインだ。本来は常にコルセットを締めるものだが、動きづらいのを嫌ったクラウディアは公式の場でしか付ける事が無かったため、今は豊かな女性特有のラインが良くわかる。
ネックレスなどのアクセサリーも石が小振りのせいか派手さはないが、台座の細工が非常に細かく、見るものが見れば高価な品なのが窺えるだろう。
髪型も学園や祖国の王宮では一度もエーベルハルトが見たことがないものだ。本来エールデンでは既婚女性は髪を結い上げるが、クラウディアの項が見えるのをリュシオンが嫌がったためこちらも普段は髪を下ろしてはいる。サイドに編み込みをいれて若い女性らしい髪型になっている。
エーベルハルトは思った。何故祖国に居る時にこの装いでなかったのか、と。このクラウディアであったのなら、婚約破棄などしなかったものを、と。
当然だろう。ドレスもアクセサリーも贈って来ない、会えば罵詈雑言かすぐに逃げ出すか。そんな男の為に着飾る女性はいないだろう。今クラウディアが美しく輝いているのは、愛し愛されているからに他ならない。
そんなエーベルハルトの心情が手に取るようにわかるのだろう。リュシオンはあからさまにエーベルハルトを威嚇した。ガゼボは結界を応用した暖房システムにより外気が遮断され暖かい筈なのに、エーベルハルトの周りだけ空気が凍って結晶の様なものがチラついている。キラキラと美しいが、これは命に関わる美しさだ。
「り、リュシオン陛下……っ」
ぶる、と寒さにエーベルハルトが震える。吐く息が真っ白だ。リュシオンは魔道大国となったエールデンでも名の知れた氷魔法の使い手だった。魔力はそこそこあるものの、王になる者に必要ないと言い訳して練習をサボっていたために、基礎魔法が幾つか使えるだけのエーベルハルトに勝ち目はない。慌てて止めてもらおうと呼び掛けた。エーベルハルトは見誤ったのだ。リュシオンの嫉妬深さに。
ぱこん
「その辺にして下さい。他国の王族を嫉妬で凍らせたりしたら、外務が泣きます」
どう考えても泣くだけでは済まないが、そう声がかけられた瞬間、ダイヤモンドダストが消えた。戻った暖気に強ばった身体が解れていくのがわかる。
「殿下も迂闊な発言はしないでください。父も泣きます」
「……ヘンリック」
どうやら先ほどの気の抜けたような音は、リュシオンの頭を丸めた紙で叩いたものらしい。気が付かなかったが、ヘンリックはクラウディアの後ろに立っていた。右手に持った紙を左手に打ち付ける度ぱこん、ぱこん、と音がしている。
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