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二周目

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「……風紀委員長と接触を試みるか」

 何となくだが、生徒会には現時点では触れなくてもよいと貴一は判断した。また、同じく何となくではあるが、恐らく季節外れの転校生でもこの学園にやってきて、向こうから災厄と共に生徒会のメンバーともやり合うことになるだろうと考えたためだ。
 ……上記はすべて建前で、本当は「面倒くせぇ」という気持ちが一番強かった。

 とはいえどうやって風紀委員会と接触を図ればよいものか。貴一は白液学園の1年だが、風紀委員や生徒会に立候補できるのは2年からと決まっていた。

「おや」

 校庭横の寂れた花壇に、今にも干からびかけている青い花が息も絶え絶えといった様子で咲いている。薄青色の小花は「オオイヌノフグリ」という、ある意味このゲームの世界観に沿った名前で雑草扱いされているが、目立ちはしないものの美しい花である。

「可哀想に」

 貴一は花壇の隅に転がっていた緑色のじょうろに水を汲むと、フグリ達(語弊がある)に水を与えた。例え白液学園という引くほど汚い名前の世界観でも、動植物を愛でている間は心が浄化されたような気分になれる。普段は鋭い眼差しでキツめの顔立ちをしている貴一だが、ふとフグリ達に対して柔らかい眼差しを落とした。

「……花が好きなのか?」

 突然長身の男に声を掛けられた。身長190cmはあろう巨体だが均整の取れたバランスの良い身体付きであり、引き締まった腕や厚い胸板は日ごろの鍛錬の成果だろうと容易に想像がつく。それよりも凛とした整いすぎた顔立ちと、侍のように長髪を後ろで結んでいるその姿は。

「こんにちは、奥山風紀委員長」

 風紀委員長、奥山庵(おくやまいおり)だった。奥山はじいと貴一の方を見つめている。貴一も数秒奥山を見返してしまうが、はた目から見れば屈強な男二人がメンチを切っているようにしか見えないであろう。
 彼が黙ってこちらを見ているのは、問いかけに答えていない、返答がないからだろうと貴一は判断する。

「花は人並みに好きです。それから、こいつらが枯れかけてて、可哀想だから水をあげたんです。」

 元気になった大輪のフグリは綺麗でしょうからと、BLゲームにおいて主人公の心優しさを表現する良いシーンではあるが、花の名前を省略したおかげで大変なことになっている。

「そうか、ありがとう」

 目線だけで人を委縮させるような圧の強いサムライ系イケメン(テキストのメニュー画面、奥山の名前にそのようなルビが振ってある)が、ふわりと口元を緩ませてその表情を崩した。彼のオーラを例えるのなら、恐らくオオイヌノフグリのような楚々としたものではない、凛とした大輪の花が咲き誇っているのだろう。

「お礼を言われるようなことは何も、俺も今日初めてこの花壇を知って、気まぐれで初めて水をやっただけなんですから」

 花壇の手入れは、本来は美化委員や園芸部員などの仕事であろう。けれども花壇の花たちはみな手入れが行き届いていないように、貴一には見えた。
 奥山は貴一の目線に気づいたのか、申し訳なさそうに目線を下げる。

「入学して間もない1年生に気づかれてしまうなんて情けない……本来であれば花壇の手入れは美化委員の仕事なんだが、実質あの委員会は現在機能していない状態なんだ」

「え……何故」

 信じられないことに、白液学園は学力偏差値の高さもさることながら、富豪や政治家の息子など、家柄の良いお坊ちゃんたちが集まって来る場所である。全寮制ではないが寮と呼ぶには豪華すぎる高級ホテルのような寮もあり、遠方からはるばる通ってくる生徒たちも数多いた。
 あわせて別に外の世界と遮断されているわけでもないのに、異様なまでに学園内での恋愛(男×男)が多く、痴情のもつれで事件となることも多い。
けれども、貴一はいくら世間知らずのお坊ちゃんが沢山いたとしても、部活や委員会を疎かにするような、内申点のことすら考えられないおバカはそこまでいないであろうとぼんやり考える。

「今、美化委員のやつらが新入生のつまみ食いに必死でな。脳みそがセックス漬けになってしまっているんだ」

「あ、物の見事にバカしかいねえ」

 貴一の良心と願望が籠った考察は数秒で物の見事に否定される。仮にも名門(笑)の美化を司る奴らが醜悪晒しているんじゃねえと貴一は頭痛を紛らわせるように舌打ちをする。

「彼らは寮内どころか校舎のあちこちで盛るものだから、取り締まりの手が足りていないんだ……」

「美化委員に代わって、俺が汚物を消毒しましょうか」

このゲームの攻略キャラなのでどこまで期待していいか判断もつかないが、それでも風紀委員長である奥山は美化委員の指導で忙しくしているのであろう。彼の目には寝不足から来る隈ができていた。

「俺も、この時期に咲く花壇一面のフグリが大好きなんだが……このような状態で心を痛めていた」

「そうでしたか……そういうことなら、俺も定期的にフグリの様子を見に行きますね」

「! 本当か? 嬉しいな、君が世話をしてくれたならフグリ達もすぐ元気になると思う」

「ええ、大輪に咲くフグリをまた見せてあげますよ」

 奥山は貴一の手を取ると、頬を赤らめ熱い眼差しを向ける。貴一は冷静に薄目で風紀委員長を見つめると、彼の自分に対する好感度ゲージもマックスに近いことを確認する。
 傍目から見れば睾丸(フグリ)愛好家が同士を見つけて、フグリに対する熱い思いをぶつけあっているようにしか見えないだろうが、オオイヌノフグリは楚々とした控えめな、けれども美しい花である。オオイヌノフグリの名誉のためここに記しておく。
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