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第1章

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 暫くふたりは抱き合いながらキスをし続けていた。
「ん……ふっ」
 沙樹の唇から漏れるその声に、崇弘は理性を保つことが難しくなっていく。
「タカ……ちゃ……っ」
 沙樹の呼びかけにはっとする崇弘は、沙樹から離れた。
「タカちゃん……?」
 不思議そうに崇弘を見る沙樹に気付いてるが、そちらを見ることはしなかった。両手で顔を覆い、息を吸い込む。何度かそうして深呼吸をする崇弘を、沙樹は見るしかなかった。

(今はまだダメだ)
 まだ未成年。これ以上のことは出来ないと、かろうじて理性が働く。
「タカちゃん?」
 はぁ……っと息を吐いた崇弘は、沙樹の方を見た。
「これ以上はムリだ」
「え?」
「お前はまだ未成年だ。こういうことはしちゃいけない」
「タカちゃん……」
「本当は早くお前を俺のものにしたい。だけど……」
 沙樹に話す声は甘くせつない。その声に沙樹は何も言えないまま、崇弘を見つめていた。

「今はまだ……」
 再び崇弘は話し出す。沙樹の頬に触れながら、慈しむように優しく言葉を紡ぐ。
「まだ……、お前はまだそのままでいいから」
 優しい言葉は沙樹の中に降り注ぐように入っていく。
「まだ大人にならなくていい……。まだそのまま……」
(急ぐことはない)
 自分に言い聞かせるように崇弘は何度も沙樹の頬を撫でる。自分の思いとは真逆のことを沙樹に伝えた。
(一緒にいると襲いたくなる)
 自分の中で葛藤する崇弘は、それでも沙樹から離れることはしたくないと願う。
 そんな崇弘の思いなど知らないままの沙樹は、崇弘をただ見つめているだけ。
「タカちゃん」
「だからといって、お前と離れるつもりはないよ」
 不安げな顔をした沙樹にそう告げると両手を広げてみる。
「おいで」
 引き寄せられるように沙樹は崇弘の腕の中にいた。



     ◇◇◇◇◇



(早く大人になりたい……)
 崇弘の腕の中で沙樹はそう願った。この心地よい居場所は誰にも渡したくない。沙樹にとって崇弘の傍にいることが一番居心地のいい場所だった。
「タカちゃん」
「ん?」
「私……、タカちゃんなら何されても平気だよ」
 それは本心からだった。崇弘なら何も怖くないと心から思う。
 だけど崇弘は、首を横に振る。
「だぁめ」
 子供に諭すような口調で、沙樹にそう言ってぎゅっと抱き締める。
「今は何もしない」
 髪に指を絡める崇弘は、優しく優しく沙樹を抱き締めていた。
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