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第三章 覚醒
【十七】接触(左京)
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俺が初めて佐助殿に会ったのは、城への急襲を実行する二年程前。毎月新月が近づくと悪くなる体調を隠す為に、任務と言って城を抜け出しては林の小屋に引きこもって長い夜を一人耐えていた時のことだった。才蔵師匠は俺の変化に気づいていたと思うが何か助け舟を出すことも無く、見て見ぬふりをしていた。
新月になると疼きだす背中の梵字、幼少期にお祓いの意味で施されたと才蔵師匠は言っていたがそれは何かを隠す為の嘘だと言わざるを得ない体の変化。心の中で、人を殺めたい衝動が渦巻き負の感情に支配されてしまう。幼い頃は、城の池にいる魚をこっそり殺したり花壇の花を荒らしたりすることで、その感情は抑えられていたように思う。しかし、初めて任務に出て人を切りつけたあの肉を切る感触を味わってからというもの、俺の心は新月になると人を殺めたいという衝動に駆られ、抑えられなくなってきていた。
ある新月の日、いつもの小屋で衝動を抑えながら、夜が明けるのを待っていると外に人の気配を感じた。今までこの場所に誰かが来たことはない。刀に手をかけて窓の外を覗いて見るが新月の所為、真っ暗で何も見えない。外に出て確かめようとした刹那、入口の扉が静かに開いた。
『 …お初にお目にかかります。暁国の左京ですね?拙者の名は猿飛佐助。貴殿の苦しみを取り除いて差し上げようと思い参りました。信じられぬというのであれば、切りかかってきても良いのですよ?貴殿は人を切りたくて仕方がないという気を放っています。』
俺が誰にも話したことがなかった、この苦しみを取り除けるというのか?それよりも、何故この佐助という男は俺の事を知っているのか?
「…何故俺の事を知っているのだ?」
月明かりの無い、薄暗い室内の所為ハッキリと表情は読めないが男は静かに笑っている様子を感じる。
『拙者は貴殿の母君から助けてやってくれと頼まれておるだけ。貴殿の母君は拙者にとっても利害の一致した重要なお方。どうしますか?このまま新月がくる度に苦しみ悶える一生を送るのか?拙者に付けば苦しみを取り除き、退屈な日常を変えることもできますが。まぁ、初対面ですし無理にとは言いませんが拙者も忙しいのでね、今断るというのであれば今日のことは忘れて貰うまでです。 』
丁寧な話し方をしているが、男が発する言葉には殺気が感じられ感情はこもっていない。母親に頼まれたと言っていたことから、即座に殺されることはないだろうが何らかの施しをしてくる可能性もある。一番問題なのはこの男がきっと、才蔵師匠よりも強いということ。才蔵師匠に勝てる気がしない自分がこの男に勝てるはずが無い。こう思っている時点で勝負はついているようなものだ。
「佐助殿…あなたは俺の苦しみを本当に解放できるというのか?それに、俺の母とは一体…」
『 安心して下さい、拙者は嘘はつかぬ故。貴殿の母君については後々話すことに致しましょう。それでは、拙者の元に付くということでよろしいですか?ま、他の選択肢を選ぶほど愚かな人間では無いと思ったので声をかけたのですがね。』
「はい…よろしく、お願い致します。」
意を決して俺が答えると、佐助殿は満足そうに頷き、俺の近くに来て何やら作業を始めた。手足を縛られ床に転がされた俺は苦痛の中、遠のく意識の中で見ず知らずの母の面影が見えた気がした。
新月になると疼きだす背中の梵字、幼少期にお祓いの意味で施されたと才蔵師匠は言っていたがそれは何かを隠す為の嘘だと言わざるを得ない体の変化。心の中で、人を殺めたい衝動が渦巻き負の感情に支配されてしまう。幼い頃は、城の池にいる魚をこっそり殺したり花壇の花を荒らしたりすることで、その感情は抑えられていたように思う。しかし、初めて任務に出て人を切りつけたあの肉を切る感触を味わってからというもの、俺の心は新月になると人を殺めたいという衝動に駆られ、抑えられなくなってきていた。
ある新月の日、いつもの小屋で衝動を抑えながら、夜が明けるのを待っていると外に人の気配を感じた。今までこの場所に誰かが来たことはない。刀に手をかけて窓の外を覗いて見るが新月の所為、真っ暗で何も見えない。外に出て確かめようとした刹那、入口の扉が静かに開いた。
『 …お初にお目にかかります。暁国の左京ですね?拙者の名は猿飛佐助。貴殿の苦しみを取り除いて差し上げようと思い参りました。信じられぬというのであれば、切りかかってきても良いのですよ?貴殿は人を切りたくて仕方がないという気を放っています。』
俺が誰にも話したことがなかった、この苦しみを取り除けるというのか?それよりも、何故この佐助という男は俺の事を知っているのか?
「…何故俺の事を知っているのだ?」
月明かりの無い、薄暗い室内の所為ハッキリと表情は読めないが男は静かに笑っている様子を感じる。
『拙者は貴殿の母君から助けてやってくれと頼まれておるだけ。貴殿の母君は拙者にとっても利害の一致した重要なお方。どうしますか?このまま新月がくる度に苦しみ悶える一生を送るのか?拙者に付けば苦しみを取り除き、退屈な日常を変えることもできますが。まぁ、初対面ですし無理にとは言いませんが拙者も忙しいのでね、今断るというのであれば今日のことは忘れて貰うまでです。 』
丁寧な話し方をしているが、男が発する言葉には殺気が感じられ感情はこもっていない。母親に頼まれたと言っていたことから、即座に殺されることはないだろうが何らかの施しをしてくる可能性もある。一番問題なのはこの男がきっと、才蔵師匠よりも強いということ。才蔵師匠に勝てる気がしない自分がこの男に勝てるはずが無い。こう思っている時点で勝負はついているようなものだ。
「佐助殿…あなたは俺の苦しみを本当に解放できるというのか?それに、俺の母とは一体…」
『 安心して下さい、拙者は嘘はつかぬ故。貴殿の母君については後々話すことに致しましょう。それでは、拙者の元に付くということでよろしいですか?ま、他の選択肢を選ぶほど愚かな人間では無いと思ったので声をかけたのですがね。』
「はい…よろしく、お願い致します。」
意を決して俺が答えると、佐助殿は満足そうに頷き、俺の近くに来て何やら作業を始めた。手足を縛られ床に転がされた俺は苦痛の中、遠のく意識の中で見ず知らずの母の面影が見えた気がした。
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