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第四章 内偵

【三十三】作戦(左京)

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『さて、ここならゆっくりと話せるであろう。千鶴よ長らくの潜入ご苦労であったな。それで、何か情報は掴めたのか?』

『痛み入ります。はい、近いうちに冥国大名がこの集落へと立ち寄り佐助と合流後、姫を連れて恐山へと向かうつもりのようです。その下調べを行う冥国の隠密部隊も既に入り込んでいると思われます。』

『なるほど、小太郎の読みは当たっていたわけじゃな。奴も先日ここにきてその話をしておったわ。弥助とやらが、もうすぐここに姫を探しにくると申しておったが…』

お千代と呼ばれた老婆の話を聞き、背筋が伸びた。ここへ弥助がくるということはきっと俺が残した手紙を才蔵師匠の墓で見つけ、動き出したのであろう。会って詫びを入れたい気持ちもあるが、今はそんなことをしている場合ではない。どうするのが正解なのだろうか…弥助の中で俺は、師匠や城の人々を傷つけ殺めた最も憎き存在であることは間違いない…誤解を解く前にここで出会ってしまってはきっと話がややこしくなってしまうな。

『それよりも…お主は左京か?』

突然、話を振られ心臓の鼓動が早くなった。

「はい、そうでありまする。あの…小太郎殿とは、才蔵師匠の師匠であられるという風魔小太郎殿の事でしょうか?」

『そうじゃ、あいつから話は聞いておる。才蔵のことも全てな。お主、梵字の呪印に苦しんでおるのじゃろ?それを解除しないことには姫を手に入れても、もう一人が出てきたらまた連れ戻されての繰り返し。小太郎も恐山へと向かった故、そのうち才蔵と合流するのではないかの。お主らはこれからどうするつもりなのじゃ?』

「はい、拙者は姫を一度取り逃した件で佐助殿に怪しまれております。ここは、一度姫を連れて佐助殿の所へと向かい、裏切っていないことを見せつけてから共に恐山へと入山し、隙を見て姫を才蔵師匠の元へと送り届けようかと思っております。」

『なるほど、佐助は容赦のない奴じゃから裏切りがバレてしまうと恐らくお主ら二人の命は無い。姫へ全てを話しその様に動くのが一番かもしれぬな。ここへ後から来る弥助にはお主らの話しはしないでおくとしよう。色々説明するのも面倒だしな。ただ、来週にはまた新月がやってくる。それまでに二人協力して何としても姫を才蔵と小太郎の元へ還すのじゃ。』

『お千代様、承知致しました。
全力を尽くしまする。』

話が終わる頃にはすっかり日も暮れて夜の帳が降りていた。我々忍びにとって、もっとも見つかりにくく動きやすい時間だ。お千代殿と茶屋の女衆に礼を言い、姫が潜伏しているという茶屋へと向かう。

途中、通りに潜んでいた隠密部隊の忍びを捕まえ、集落横の小村に大名の命を狙う忍びがいるらしいという嘘の情報を与え、先に潜伏していた隠密部隊を追い払うことに成功。俺と千鶴は隠密部隊の代わりとして”四季”に潜入し姫とその協力者である弥生の姿を確認することができた。姫を連れ去るのは大名が来た時の喧騒に紛れるのが一番であろうとの千鶴の提案で、動線の確認や準備だけ整えておくことにした。

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