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第四章 内偵

【三十四】確保(左京)

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大名が到着する当日は、予想通り店の周辺も含め慌しい雰囲気に包まれていた。俺たちは今、姫が潜伏している茶屋”四季”へ大名に対応する為に臨時で雇われた従業員に紛れ込み機会を伺っている。

『左京、先程弥助とかいう忍びが水月にやってきたと連絡が入った。まだ、遭遇しない方がいいと思うがどうする?』

「そうか、ここで鉢合わせしたら事を荒立てるだけでお互いにとっても利点はないだろう。俺たちは弥助の隙を見て、姫を連れ去る事だけに集中するとしよう」

『異論はない、では姫が一人になったらすぐに連絡する。なるべくこの建物の中にいてくれ。』

「お主は本当に頼もしいな」

『ん?何か申したか?』

問いかけに答えることはせず、二人別々の持ち場へと戻った。本当に頼もしい相棒だ。
千鶴と行動を共にするようになって、忍びとは男の世界であり、男だけが凄いと思っていた過去の自分を恥じた。城に一人だけいた、くノ一弥生は、姫の護衛を主な任務としていた故、実戦ではきっと防衛には長けているが攻撃するとなると少し弱いように思う。城の中だけ護っている忍びと、外の世界で走り回り腕を磨いている者とでは同じ忍びと言えど、もはや住む世界、職務も全く違うものだなと思った。

男では気づかない、細かな場の雰囲気の変化を読む力を持ち合わせ、なおかつ身体能力や戦闘能力も俺と、さほど変わらない程に鍛え上げられている千鶴。きっと本気で戦ったら俺は負けるのではないか?しかし、味方とあればこれ以上に心強い奴はいない。退屈な従業員を演じている間、そんなことを考えていると主門の方で客が来た旨を知らせる声が聞こえてきた。

「あ、あいつは…」

綺麗な着物をきた背が高く美しい女子、あれは確かお千代殿のところにいたくノ一の一人だ。そしてその横で下を向き緊張したような面持ちの男、間違いない…弥助だ。気配を消し、隠れて観察しているとくノ一の方はチラリとこちらを見て片目を瞑ってみせた。弥助には気づかれていないようだ。大名を接待する部屋の二つ隣に入った二人、暫くするとくノ一だけが部屋から出てきた。

『左京殿、本日の夕刻に大名が到着します。弥助殿は隙を見て姫と合流したいと考えているようでございます。弥助殿を助けたい気持ちもあるのですが、私共と致しましては千鶴姉さんの任務を無事遂行することが先決かと思いまして。まだ、弥助殿は姫様と接触はしておりませぬ。何としても先に連れ出してくださいね!千鶴姉さんに迷惑かけたら私が許しませんよ?』

「かたじけない、千鶴には沢山助けて貰った恩があるからな、勿論迷惑をかけぬよう尽力する。また会うこともあるであろう、その時はお手柔らかに頼むぞ。」

水月のくノ一と別れ大名が到着して暫く経った頃、大広間から突然物騒な声が聞こえ始めた。弥助が動きだしたみたいだ。

”曲者じゃーーー!!!”

その喧騒に紛れ、千鶴が近づいてきた。

『今、姫と弥生というくノ一が接触しているみたいだ。恐らく姫はこれから数分の間、一人になる。左京、その隙を逃すな!』

これまで千鶴の読みが外れたことはない。

「承知した、今から姫の元へ向かい確保後は恐山側の関所へと向かう。そこで落ち合うとしようぞ。」

そして俺は、弥生が姫から離れ弥助の元へと向かったのを確認して姫が潜む納戸へと急いだ。
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