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第四章 内偵

【三十五】拘束(左京)

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「姫様、ご無沙汰しておりまする、…左京にございます、この様な形で突然の訪問をお許しください…。事態は急を要するのです。手荒な真似はしたくありません故、ここを開けて話を聞いては貰えませぬか?」

喧騒に紛れ、納戸の前に到着した俺は中から戸締りがしてあった為、素直に名乗り出ることにした。城での出来事のように、手荒な真似をするつもりもないし、ここはきちんと話をして同意を経て同行してもらいたいと思った。

『……え?さ、左京?何を言っているのですか…?何故、何故こんなところに…仮に貴方が左京だとして…何食わぬ顔で私の前に現れるとはどういう神経をしているのですか!貴方の所為で起きた悲劇を忘れたとでも?今、この場所から、弥生から離れるわけにはいきませぬ!早く何処かへ行かないと大声を出して誰か呼びますよ!!』

最初は動揺し小声でブツブツと話していた姫であったが、次第に過去が思い出されたのか声が大きくなり呼吸が乱れてきている。
やはり、簡単にはいかぬか…
ここは少しずつ情報を出すしかない…

「拙者が貴方にした事、暁国にした事は許されない、言い訳の出来ぬこともわかっておりまする、しかし、奥方様は生きておられるのです。どうか拙者の話を聞いてはもらえないでしょうか…?」

そして”え??母上が…”という言葉が聞こえたかと思うと、カタンとつっかえ棒を外す音がした。恐る恐る戸を開け中に入ると姫様は奥の方で警戒感を顕にしながら外した棒を構え佇んでいる。気丈には振舞っておられるが気配から、震え怯えていることも感じ、心を沈め優しく語りかけることにした。

「姫様、開けてくださりありがとうございます。急な話ばかりして申し訳ありませぬ。しかし今は時間がありません。拙者は姫様を奥方様の所へと連れてくるように命じられているのです。詳細は移動しながら話します故、どうか私と共に来ては頂けないでしょうか?これは暁国復興の為に必要な事なのです。」

『……左京、どういうことなの?母上が生きているですって?暁国の復興や母上の話をすれば、私が騙されてついてくるとでも思ったのですか?誰が酷い仕打ちを受けた貴方の言う事を信じると思うの?』

「姫様の仰ることは正論。弁解のしようもございませぬ。しかし、ここは拙者を信じてもらうしかないのです…さすれば才蔵師匠も…」

コンコン

『おい左京、早くしてくれ。
間もなく弥生が戻ってくるぞ』

戸を叩く音の後に千鶴の声が聞こえ、俺は仕方なく姫を拘束する事にした。ここで捕まるわけにはいかない。

「姫様、申し訳ありませぬ、
少しだけ辛抱頂きたい…」

目にも止まらぬ速さで姫に近寄り、佐助殿に教えてもらった気を失わせるツボを突き姫の意識を奪う。

「千鶴、姫を頼む!」

姫の身柄を丁重に千鶴へと引渡し、弥助が俺の仕業だと気づくような痕跡を残した。これで奴は俺を追ってくるはず。
そして、なんとか茶屋から脱出に成功した俺達は隠れていた冥国の隠密部隊を捕まえ佐助殿への報告をお願いした。
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