4 / 15
第1章 大聖女は宰相をまだ信じない
第4話 宰相は大聖女を押し倒す
しおりを挟む
愛していますと言った発音が、頭の中で反響する。
「え……っ、え……、」
セオドアが、私に告白した……?
政敵で、周りからは犬猿と言われてるのに?
宰相は私のことが、好き?
「ここまで直接的に言えば、あなたに届きますか?」
逆光になって、セオドアの顔色は暗い。
だけど眼差しには、普段の鋭さも厳しさもなかった。
「僕は……驚くべきことですが、ずっと貴方を好ましいと考えていました」
「こ、この、ましい……?」
頭に言葉が入ってこなくて復唱すると、宰相は嫌そうな顔をした。
「…………分かりやすく表現すると、ずっと片思いしていたということです」
「は、はぁい……」
うそだ……、腹黒。
あれだけ議会で教会の案を否決しては、言い負かしてきたのに?
私が魔物退治しようとする度、監視に来てたのに?
想像もしてなかった告白に、パニックだった。
なのに、宰相は私に問いかけてきた。
「なら、僕が魔王討伐を諦めろと言った理由も理解できるでしょう?」
ど、どうしよう、話についていけない。
すぐ傍にセオドアがいるってことに気を取られて、頭がふわふわする。触れられている部分が、体温以上に熱を持つ。
「愛する人に死んでほしくないんです。生きてほしいんです」
こいつらしくない懇願が、耳を打つ。
多分緊張のせいで、持ち上げられた顎にかすかな力が篭った。
「どうか、僕の思いに答えてください、ルチア」
低くも柔らかく、名を呼ばれる。言い慣れないせいか、音の輪郭が硬かった。
その祈りに似た呼びかけが、――聞き慣れた言いつけを思い出させた。
――ルチア、大聖女ルチア
――恋は堕落に繋がる悪しきものです。けして誑かされないように。
脳裏に、教皇様のお言葉が蘇る。
「は、離して……!」
金縛りがとけ、指先を振り払う。ぱちんと高い破裂音がして、ひりひりと手の平が痛んだ。
「……信じられない。私にそんなことを言うの」
セオドアが知らないわけない。聖女は恋をしてはいけないのだ。
ぷかぷかしていた頭が冷たくなっていく。なのに、目の奥が熱い。きっと、傷ついたように、宰相が唇を一文字に結ぶからだ。
誤魔化すように、必死に口を動かす
「私は、大聖女ルチア。他の聖女達とだって違うんだよ」
聖女は神と婚姻している。だから恋をしてはいけない。神以外の誰か一人を愛してはいけない。多くある戒めの一つ。
「大聖女たる私は神と同じように、世界の全てを平等に愛さなくてはいけない」
そう決まっているのだ。教皇様に拾って頂いたときから、そう定められた。
「だとしても、僕は愛してしまったんです。信仰に殉じようとする愚かな貴方を」
全身から、溢れそうなぐらい感情が伝わる。押さえ込もうとしているのに、しまい込み切れないなにかが、セオドアを動かしている。
だけど、……悪魔だ。どれだけ弁明を重ねても、その思いは大罪だ。
「愛する人に死んでほしくないって……、なら世界が滅んでもいいの?!」
否定して欲しくて、声を荒らげる。
返答を告げようとする唇が、スローモーションに見えた。天蓋が遠ざかる。私の視界が一変する。ぽすんと柔らかいものに頭が当たった。影が全身にかかる。見上げた先にあったのは、セオドアの顔だけ。
「はい」
端的な返事が脳に届いた。
押し倒されたと認識したとき、セオドアは無表情で宣言する。
「愛するものを失うぐらいなら、貴方でないと救えない世界なら、滅びてしまえ」
「え……っ、え……、」
セオドアが、私に告白した……?
政敵で、周りからは犬猿と言われてるのに?
宰相は私のことが、好き?
「ここまで直接的に言えば、あなたに届きますか?」
逆光になって、セオドアの顔色は暗い。
だけど眼差しには、普段の鋭さも厳しさもなかった。
「僕は……驚くべきことですが、ずっと貴方を好ましいと考えていました」
「こ、この、ましい……?」
頭に言葉が入ってこなくて復唱すると、宰相は嫌そうな顔をした。
「…………分かりやすく表現すると、ずっと片思いしていたということです」
「は、はぁい……」
うそだ……、腹黒。
あれだけ議会で教会の案を否決しては、言い負かしてきたのに?
私が魔物退治しようとする度、監視に来てたのに?
想像もしてなかった告白に、パニックだった。
なのに、宰相は私に問いかけてきた。
「なら、僕が魔王討伐を諦めろと言った理由も理解できるでしょう?」
ど、どうしよう、話についていけない。
すぐ傍にセオドアがいるってことに気を取られて、頭がふわふわする。触れられている部分が、体温以上に熱を持つ。
「愛する人に死んでほしくないんです。生きてほしいんです」
こいつらしくない懇願が、耳を打つ。
多分緊張のせいで、持ち上げられた顎にかすかな力が篭った。
「どうか、僕の思いに答えてください、ルチア」
低くも柔らかく、名を呼ばれる。言い慣れないせいか、音の輪郭が硬かった。
その祈りに似た呼びかけが、――聞き慣れた言いつけを思い出させた。
――ルチア、大聖女ルチア
――恋は堕落に繋がる悪しきものです。けして誑かされないように。
脳裏に、教皇様のお言葉が蘇る。
「は、離して……!」
金縛りがとけ、指先を振り払う。ぱちんと高い破裂音がして、ひりひりと手の平が痛んだ。
「……信じられない。私にそんなことを言うの」
セオドアが知らないわけない。聖女は恋をしてはいけないのだ。
ぷかぷかしていた頭が冷たくなっていく。なのに、目の奥が熱い。きっと、傷ついたように、宰相が唇を一文字に結ぶからだ。
誤魔化すように、必死に口を動かす
「私は、大聖女ルチア。他の聖女達とだって違うんだよ」
聖女は神と婚姻している。だから恋をしてはいけない。神以外の誰か一人を愛してはいけない。多くある戒めの一つ。
「大聖女たる私は神と同じように、世界の全てを平等に愛さなくてはいけない」
そう決まっているのだ。教皇様に拾って頂いたときから、そう定められた。
「だとしても、僕は愛してしまったんです。信仰に殉じようとする愚かな貴方を」
全身から、溢れそうなぐらい感情が伝わる。押さえ込もうとしているのに、しまい込み切れないなにかが、セオドアを動かしている。
だけど、……悪魔だ。どれだけ弁明を重ねても、その思いは大罪だ。
「愛する人に死んでほしくないって……、なら世界が滅んでもいいの?!」
否定して欲しくて、声を荒らげる。
返答を告げようとする唇が、スローモーションに見えた。天蓋が遠ざかる。私の視界が一変する。ぽすんと柔らかいものに頭が当たった。影が全身にかかる。見上げた先にあったのは、セオドアの顔だけ。
「はい」
端的な返事が脳に届いた。
押し倒されたと認識したとき、セオドアは無表情で宣言する。
「愛するものを失うぐらいなら、貴方でないと救えない世界なら、滅びてしまえ」
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた
鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。
幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。
焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。
このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。
エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。
「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」
「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」
「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」
ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。
※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。
※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる