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第2章 大聖女は愛憎をまだ知らない
第12話 宰相は目的のために冷酷である
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いつの間にかセオドアが部屋にいた。
三重に鍵がかかってるのに、どうやって静かに入ってきたの?
そんな疑問を追求することはできなさそうだ。腹黒は、私達に冷たい眼差しを降り注ぐ。
「僕はルチアを説得するように命じたはずですが。慰められてどうするんです」
「ご、ご主人さま……、すみましぇん」
萎縮して、レレさんが縮こまる。
上から目線の宰相にカチンときて、睨んだ。胸にいた彼女を抱き締めれば、セオドアはなぜか口元を和らぜる。
「……まあ、いいです。貴方の役目は達成したようですから。下がりなさい」
「は、はい! 失礼します、ルチアさま……。えっと、ご飯いっぱい食べてくださいね」
急いで立ち上がって、ペコペコ頭を下げる。レレさんは、それから料理をテーブルにささっと並べて、風のように空のワゴンを押していってしまった。
あきらかに魔法を使った素早で、感心してしまう。
癒しが居なくなった空間で、セオドアを視界から外そうとしたわけじゃない。ほんとに、あくまでも無視したわけじゃない。
「……そんなに見て、レレを気に入りましたか、ルチア」
「気に入ったって、そりゃレレさんはあんたにはもったいないぐらい、いい人だと思うけど」
泣いてる女の子を無慈悲に追い出す。そんな冷酷野郎にはもったいない。
「なら、よかったです」
「良かった?」
「ええ」
セオドアは唇だけで笑う。
「もしも貴方が逃亡したら、そのときはレレに罰を与えようと考えてましたから」
その弧から何が吐かれたか。頭が認識する前に、口が動いていた。
「罰って、レレさんは関係ないじゃん……!」
「私が逃げだしただけで、レレさんはあんたの命令をちゃんと守ってる」
「分かっていますよ。監禁した大聖女の世話係です、僕に忠実な者を選びました」
「なら、なんで」
私の問いかけに、セオドアはことも無さげに答える。
「貴方をここに縛るために決まっているでしょう」
まるで、明確な神の教えを発話するみたいに。
「貴方は、ああいう手合いに弱いでしょう。だから、ちょうどいい」
「弱いって」
「善良でか弱く、神に祈るしかできないような、大多数のうちの一人。貴方が守るべきだと勘違いしてる民の具現のようでしょう」
すらすら語られる理屈についていけない。
普段なら胸ぐらだって掴んでいたと思うけど、今は足が床に縫い付けられたようだった。
「貴方が逃げれば、あるいは万が一にでも自傷するものなら、レレの食事を抜き、床で寝かせましょう。これは決定事項です」
平然とした顔で、普段と変わらない涼しい顔で宣言する。
こいつは、私を逃がさないためだけに、他の人間を犠牲にしようと言うのか。
「こうすれば、貴方は逃亡なんてしませんよね」
こいつが他国に向けてきた冷酷さを、眼前で見せつけられる。
「人でなし」
汝、敵と隣人を愛せよ。
それが神が、私たちに告げた言葉だって言うのに。
「お好きなように、構いませんよ」
私の暴言でさえ、セオドアの表情を変えることはできなかった。
「貴方の洗脳はそう簡単に解けないと認識しましたから。しばらくはやり方を変えます。貴方が大聖女であるというなら、僕にその勇姿を見せてください」
追い詰めた獲物を前にした獣のように、あらゆる苦難を投げかけて試す神を気取ったように。
セオドアは自身の目論みにはまった私を見て、嬉しそうに微笑む。
「お人好しで優しい彼女を見捨てるなんて、大聖女ルチアさまがするわけがない。そうだと言ってください」
そして、罰を与えると告げたのと同じ口で言うのだ。
「ほら、愛しいルチア。その美しい言葉しか知らない唇で、復唱してくれますよね」
三重に鍵がかかってるのに、どうやって静かに入ってきたの?
そんな疑問を追求することはできなさそうだ。腹黒は、私達に冷たい眼差しを降り注ぐ。
「僕はルチアを説得するように命じたはずですが。慰められてどうするんです」
「ご、ご主人さま……、すみましぇん」
萎縮して、レレさんが縮こまる。
上から目線の宰相にカチンときて、睨んだ。胸にいた彼女を抱き締めれば、セオドアはなぜか口元を和らぜる。
「……まあ、いいです。貴方の役目は達成したようですから。下がりなさい」
「は、はい! 失礼します、ルチアさま……。えっと、ご飯いっぱい食べてくださいね」
急いで立ち上がって、ペコペコ頭を下げる。レレさんは、それから料理をテーブルにささっと並べて、風のように空のワゴンを押していってしまった。
あきらかに魔法を使った素早で、感心してしまう。
癒しが居なくなった空間で、セオドアを視界から外そうとしたわけじゃない。ほんとに、あくまでも無視したわけじゃない。
「……そんなに見て、レレを気に入りましたか、ルチア」
「気に入ったって、そりゃレレさんはあんたにはもったいないぐらい、いい人だと思うけど」
泣いてる女の子を無慈悲に追い出す。そんな冷酷野郎にはもったいない。
「なら、よかったです」
「良かった?」
「ええ」
セオドアは唇だけで笑う。
「もしも貴方が逃亡したら、そのときはレレに罰を与えようと考えてましたから」
その弧から何が吐かれたか。頭が認識する前に、口が動いていた。
「罰って、レレさんは関係ないじゃん……!」
「私が逃げだしただけで、レレさんはあんたの命令をちゃんと守ってる」
「分かっていますよ。監禁した大聖女の世話係です、僕に忠実な者を選びました」
「なら、なんで」
私の問いかけに、セオドアはことも無さげに答える。
「貴方をここに縛るために決まっているでしょう」
まるで、明確な神の教えを発話するみたいに。
「貴方は、ああいう手合いに弱いでしょう。だから、ちょうどいい」
「弱いって」
「善良でか弱く、神に祈るしかできないような、大多数のうちの一人。貴方が守るべきだと勘違いしてる民の具現のようでしょう」
すらすら語られる理屈についていけない。
普段なら胸ぐらだって掴んでいたと思うけど、今は足が床に縫い付けられたようだった。
「貴方が逃げれば、あるいは万が一にでも自傷するものなら、レレの食事を抜き、床で寝かせましょう。これは決定事項です」
平然とした顔で、普段と変わらない涼しい顔で宣言する。
こいつは、私を逃がさないためだけに、他の人間を犠牲にしようと言うのか。
「こうすれば、貴方は逃亡なんてしませんよね」
こいつが他国に向けてきた冷酷さを、眼前で見せつけられる。
「人でなし」
汝、敵と隣人を愛せよ。
それが神が、私たちに告げた言葉だって言うのに。
「お好きなように、構いませんよ」
私の暴言でさえ、セオドアの表情を変えることはできなかった。
「貴方の洗脳はそう簡単に解けないと認識しましたから。しばらくはやり方を変えます。貴方が大聖女であるというなら、僕にその勇姿を見せてください」
追い詰めた獲物を前にした獣のように、あらゆる苦難を投げかけて試す神を気取ったように。
セオドアは自身の目論みにはまった私を見て、嬉しそうに微笑む。
「お人好しで優しい彼女を見捨てるなんて、大聖女ルチアさまがするわけがない。そうだと言ってください」
そして、罰を与えると告げたのと同じ口で言うのだ。
「ほら、愛しいルチア。その美しい言葉しか知らない唇で、復唱してくれますよね」
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