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レリーフの始めの情景は、どこにあるのだろうか。地道に探そうとしたコルネリアを導いたのは、彼だった。噴水の女神像が視線を向ける方向をカンテラで照らし出すと、こちらに手招きをする。
「はじまりはこちらです。ここから、時計回りに読み進めていけばいい」
言われるがまま、腰をかがめる。描かれていたのは、山と平野の交わる地形と、草、不思議な帽子を被った男だ。
「この草、葉あざみかしら……」
ギザギザの葉と先の丸まった草模様は、特徴的だが、ただの装飾だろうか。コルネリアが図案を読み解こうとするのを手助けして、彼は隣から指を伸ばす。
「そのとおりです。地下水路の建設は、起点となる母井戸を掘るところから始まります。水の乏しい地域でも花を咲かせる葉あざみの一種、アカンサスは、地下水を湛える適地を探りあてるための目印になるのです」
つまり、この帽子の男は、地下水路の源流をどこにすべきか検討しているわけか。
「よくごらんなさい。アカンサスの下に、楕円に描かれているのが地下水です」
言われるまで、ただの穴にしか見えなかったものが彼のことばとともに意味を持ちはじめる。コルネリアは、レリーフを少しずつたどりながら、彼から教えをうけ、地下水路の成り立ちを把握していった。彼の声は低くやわらかで、耳に心地よい。いつのまにか近づいた距離のせいで、身体の片側にほんのりと体温を感じていた。
長い時間が過ぎたのだと思う。遠く聞こえる音曲は次々に変わっていったが、退屈さはなく、こころが弾んだ。まるで、本に没頭しているときのようだった。自分のペースで過ごした時間ではないはずなのに、それがかえって快いというのは、コルネリアにとって初めての経験だった。
「ほんとうにお詳しいんですのね! わたくしひとりでは読み解けなかったことでしょう。有意義な時間を過ごせました。まことにありがとう存じます」
彼の手を取って立ち上がり、こころからの礼を述べると、彼はまぶしそうな顔でこちらを見つめ、それからに噴水の女神像を見上げた。
「水路建設を後押ししたのが、私の祖父だったので、子どものころからいろいろと耳にしていただけのことです」
謙虚に述べて、カンテラを元の場所に戻すと、彼は改めてコルネリアに手をさしのべた。
「遅くなりましたが、よろしければ、ご挨拶しても?」
「──ええ、もちろんです」
応えて手を差し伸べようとしたのを無粋に遮ったのは、複数の靴音だった。
「はじまりはこちらです。ここから、時計回りに読み進めていけばいい」
言われるがまま、腰をかがめる。描かれていたのは、山と平野の交わる地形と、草、不思議な帽子を被った男だ。
「この草、葉あざみかしら……」
ギザギザの葉と先の丸まった草模様は、特徴的だが、ただの装飾だろうか。コルネリアが図案を読み解こうとするのを手助けして、彼は隣から指を伸ばす。
「そのとおりです。地下水路の建設は、起点となる母井戸を掘るところから始まります。水の乏しい地域でも花を咲かせる葉あざみの一種、アカンサスは、地下水を湛える適地を探りあてるための目印になるのです」
つまり、この帽子の男は、地下水路の源流をどこにすべきか検討しているわけか。
「よくごらんなさい。アカンサスの下に、楕円に描かれているのが地下水です」
言われるまで、ただの穴にしか見えなかったものが彼のことばとともに意味を持ちはじめる。コルネリアは、レリーフを少しずつたどりながら、彼から教えをうけ、地下水路の成り立ちを把握していった。彼の声は低くやわらかで、耳に心地よい。いつのまにか近づいた距離のせいで、身体の片側にほんのりと体温を感じていた。
長い時間が過ぎたのだと思う。遠く聞こえる音曲は次々に変わっていったが、退屈さはなく、こころが弾んだ。まるで、本に没頭しているときのようだった。自分のペースで過ごした時間ではないはずなのに、それがかえって快いというのは、コルネリアにとって初めての経験だった。
「ほんとうにお詳しいんですのね! わたくしひとりでは読み解けなかったことでしょう。有意義な時間を過ごせました。まことにありがとう存じます」
彼の手を取って立ち上がり、こころからの礼を述べると、彼はまぶしそうな顔でこちらを見つめ、それからに噴水の女神像を見上げた。
「水路建設を後押ししたのが、私の祖父だったので、子どものころからいろいろと耳にしていただけのことです」
謙虚に述べて、カンテラを元の場所に戻すと、彼は改めてコルネリアに手をさしのべた。
「遅くなりましたが、よろしければ、ご挨拶しても?」
「──ええ、もちろんです」
応えて手を差し伸べようとしたのを無粋に遮ったのは、複数の靴音だった。
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