ワールドメイク 〜チート異能者の最強くん〜

プーヤン

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第1章 異能力の目覚め

第12話 不安を取り除く一つの方法

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後ろ姿で気が付く。

その子が東 彼方だと。

彼女は短髪で、後ろから見れば制服から雪をも欺く白い肌が露わになっている。その白い肌は傷一つなく、彼女の細い髪が揺れて影が交錯する。

横顔からでも分かる。

その顔が他を圧倒する美を構築しているだろうことは。鼻梁の高さから、窪みに入った大きな眼も控えめに収まった唇も一度見れば、寝ても忘れぬ美貌であることが。しかし、本人はそのことを客観視したことがないのかよく理解していない。

彼女は不自然に突っ立っている俺に気が付くと少し口角を上げる。

その時、寝ていた睫毛がスッと上に向き、その目にいつもの自分が映る。

その姿を確認した時、何故か不安な気持ちが払拭され安心したのだ。

いつもの彼女を見て安心したのか?

その首もとに何もかかっていないことに安心したのか?

いや、また頭に何か良からぬ妄想が取り巻く。この下らなくも取るに足らない妄想は俺の頭に蜷局を巻いて居座り続けるんだ。

この頭痛は俺の今までの考えに相反する気持ちが引き起こしているのか。

小学校の時も、中学校の時も変わらず彼女と一緒だった。しかし、高校に入ると同時に思うことがあった。

俺と南と東はいつまでも一緒というわけではない。

このまま、東と一生いられる保証もない。その時、俺はいつでも彼女を守れる立場にいるわけではない。ならば彼女に新しい女子の友達なり、環境なり作る手伝いをした方が良いのではないかと。

俺や南とずっと一緒にいることが彼女の幸せになるのだろうかと。

それは勝手な考えであり、単なる自己満足の類なのかもしれない。現に南にも同じ指摘を受けた。それは違う。自己欺瞞の類だと。

しかし、そんなどうしようもない思いが彼女に対する俺の態度に変化を与えたのかもしれない。

そのため彼女に対して自分のことを隠しているのかもしれない。

これは自分の起こしたことへのケジメであり、単なる我儘なのだろう。

 

 

 

「あれ。南くんと帰るんじゃなかったの?」

「いや、南は急な用事が入ったようだ。…………一緒に帰らないか?」

「うん。」

東と他愛ない話をしながらも、どこかで違うことを考えてしまう。

その一挙手一投足に何かいつもと違う点はないか?

東の話にいつもと違う点はないか?と。

相違点をつないで最悪の事態を想像して勝手に怯えているのは本当に気が狂っているとしか思えない。

いつもと違うのは俺の方なのに。

「ああ。そういえばこの間、肇が勧めてくれたアニメ見たよ。まあまあだった。」

「えっとあのゆるゆる系のやつか?」

「そうそう。あんましアニメとか興味ないけど前勧めてくれたあのハダカデバネズミのやつは面白かったし。今回のはなんかみんな目がでかくてちょっと初めは驚いたけど二話まで見たよ。なんだろ。日常系とかって言うんでしょ?」

「おい。それは駄目だろ。ちゃんと三話まで観ないと。あの作品は日常系の皮を被った哲学作品だから。まあ大丈夫だ。三話まで観たら気が付けば最終回のEDを見てるから。」

「なんか意味が分からないけど。まあ、見てみるよ。」

「おう。そうするといい。…………そういえば、東のお袋さん元気?」

「え?…………唐突ね。肇が私の母と会ったことあるのって小学生の時くらいじゃない?」

「いや。ほら。前に中学生のとき、両親が仲が悪いから家に帰りたくないって言ってただろ。」

「ああ。あったね。そんなことも。まあ元気じゃないかな?今は普通に一緒に生活してるし。」

「そっか。」

なぜ、そんなことが疑問に思ったのだろう。

何故そんな突拍子もない疑問が急に頭に飛来したのか。

ここまで頭がこんがらがってくると、中二病ではないにしろ誰かヤバイ異能者に精神攻撃でも受けているのではないかと疑ってしまう。

「ねぇ。」

その時、東が急に真剣な顔でその場に立ち止まる。

そして、その大きな瞳が俺を捕える。

「ん?」

「どうしたの?」

「何が?」

「ううん。何かいつもと違ったから。」

「そう?」

「ほら。あの時みたいな。なんていうの?中学の時みたいな?そういう変な顔してる。」

「なんだそれ?忘れたよそんな昔のことは。」

「そっか。…………でも、何かあったんじゃないの?」

「いや。何もないよ。」

「そう?…………何か隠してない?」

「隠す?何を?」

「いや、それは私には分からない。でも何か?」

「漠然としていて、それじゃあ俺にも分からないよ。」

「言いたくないこと?」

「いや、本当にないから。…………でも。」

「でも?」

「分からないけど。なにか不安なんだ。どうしようもなく不安になることがある。どうしてか分からないし、何に対してなのか明確には答えられないけど。」

ああ。本当に心が脆い。

そんな気持ちで近づくから彼女をいたずらに傷つけていたのか。

すぐに弱音を吐いて、彼女に受け止めてもらおうとする。自分の気持ちを吐露し、すぐに楽になろうとする。

自責の念に駆られている俺に彼女は優しく語りかける。

「そっか。…………何がそんなに肇を不安にさせているか私には分からない。分からないけど…………」

「え?」

その時、自分の手に暖かさを感じた。

それが彼女の手のぬくもりだと気づくのに時間はかからなかった。

彼女の手が俺の冷たい手を包み込んでいた。今まで血の通っていなかったような冷たい手を先から暖かさが伝ってくる。

そうして彼女は黙って前を歩く。

俺を先導して、前へと突き進む。

その時の彼女の顔は見れなかった。見たら本当にどうしようもなく恰好の悪い自分の顔を見られてしまうから。

それに気を抜くと泣いてしまいそうだった。

それは溜まりに溜まった涙が決壊しそうだった。

別に辛いことなどなかった。

なのに、胸がいっぱいになり耐えられなくなる。

彼女にバレぬよう、上を向いて涙を止めて、空気を吸い込む。

彼女は今、どんな表情をしているのだろう。

その表情を確認する手立ては今はない。

それは俺の異能でも分からない。

二人で帰路に就く。

いつもの見慣れた街並みが横に流れていく。いつもなら視界に入っていながら意識せずに流れていく景色だった。

しかし、今はその景色を見てなぜか安心した。

その手を離すときはいつか来る。

その時に笑っていられたらと、強く願って彼女を追いかけるように歩いた。

 

 

 

 

 

 
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