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第2章 シャクンタラー対ファウスト
第14話 桝原 隆はモテたい
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次の日、学校に行けば明桜の生徒は皆が当たり前のように俺に媚びへつらってきた。
二強の内、橋爪が石見に負け、その石見を俺が倒したことで、事実上俺はこの明桜のトップに躍り出たのだ。
石見グループは桝原グループとなったわけだ。
俺は初めて見る上からの景色に高揚感を覚え、媚びへつらう奴らを見て優越感に浸っていた。
俺の天下がやってきたと。
そう。始めの三日間は。
上に立って初めて気が付くことがある。
こいつらはどうしようもないと。
やれ他校の奴が喧嘩を売ってきただの、やれ他校の奴らが俺たちのシマで調子に乗っているだの。アホな連絡ばかりを寄越してくる。
それに加え、俺が普通に授業を受けていると、奴らは今からカチコミにいきますよと平気で授業中の教室に入ってくる。
まあ、授業を受けているのも俺ともう一人のがり勉君の二人だけだが。
本当に始末に負えない。
そして喧嘩を売っては負けると俺に告げ口をしてくる。もう本当になんて面倒な奴らなのだろうか。
今思えば、このサル山のボスとして奴らを管理出来ていた石見という男はすごい奴なのだろう。
カリスマ性。そう。確かに石見は人間性に富んだ出来る男の代名詞的存在だったのかもしれない。
それでいてあの容姿。勝てるところは一つもないし、勝ちたいとも思わない。
俺はふと思った。
もうやめたいと。
こんなサル山でボスを気取っていても楽しいことなど一つもない。
お前らそんなにいるんだからもっと有意義に日々を過ごしてはどうか?喧嘩しても恨みを買うだけだし、万引き、恐喝もあとあと困るのはお前等だぞ。
さて、そう思い立った俺はある一つの行動に移すことにした。
石見にボスに返り咲いてもらい、俺はどこのグループにも属さず、孤高の一匹オオカミというのもいいのではないかと。
思い立ったが吉日。俺は早くも石見が入院しているという病院に向かった。
彼のいる病院は学校の最寄り駅からほど近いところに位置する。
俺は放課後、コンビニで週刊誌を買って彼の病室へと向かう。病人にもっていくべき物など分からないので、娯楽品を持って行ってやろうと考えたのである。
さて、確かこの部屋だ。このドアの向こうに石見がいるわけだが、始めになんと声をかけたらいいのか考えてしまう。
思えば彼が入院しているのは俺のせいだ。彼をボスから引きずり下ろした俺に、またボスになってとお願いされたら彼は激高するに違いない。んーとドアの前で唸りながら考える。
口元をとがらせてどうにか彼にボスへと返り咲いてもらうべく足りない知恵を振り絞り考える。
と、その時ドア越しにある声が聞こえてくる。
それは女性の声だった。
それも母親ではない。その声は猫なで声で石見と楽しそうに戯れている。姉でもないだろう。石見に兄弟姉妹はいない。
「石見く~ん。大丈夫?さより心配だよ~。」
「大丈夫だ。心配ない。あと三日もすれば治る。それにしてもやられたぜ。桝原の野郎。あんな強いとは思わなかった。」
「そんな強い人だったの~?でも安心して次、その人が慎吾に悪い事しそうになったら私が助けてあげる!」
「いやいや。俺がもっと強くなって沙代里を守ってやるから大丈夫だ。」
「え~。慎吾カッコいい~!」
…………これは?!
親戚かな?
実は妹か姉がいて隠していたとか………。いやそれはそれで羨ましい。
いやいや。あんな話し方の肉親はきついだろう。
はい。認めましょう。そうですね。彼女ですね。
これで何故、奴がいつも会合に遅刻していたのかも分かった。遅いときは一時間も遅れてきてやがった。なるほど。彼女とお楽しみだったんですね。
俺たちが数字の入った石ころを転がしてたいたころ、お前は彼女と弁当つついて楽しんでいたのか。
なるほどな。なるほど。
く。くそぉぉぉぉ。なんでだぁぁぁぁ。
腹の奥から出てくる負の息吹が口から漏れ出る。それは色を付ければどす黒いものであっただろう。目からは何故か一筋の涙が伝っていた。そら血の涙を流したくもなる。
こんなことが許されていいのか?
金田。お前が特等席だと思っていた石井のバイクの後部座席はお前のものじゃない。その夜はお前たちのものじゃなかったんだ。彼と彼女のものだったんだ。
ソウルナンバーをぶら下げていた俺たちを見ながら、奴は彼女とのペアネックレスをぶら下げてほくそ笑んでいたに違いない。
ああ。下らない。ああ。世界は無情。ああ。死にたい。
彼女持ちのやつとかなんなんだ。
試合に勝って、勝負に負けた気分だ。
それから五分ほど妬み嫉みを腹に溜めて、ドアにもたれかかっていた。そうすると何か諦めがついたのか、逆に冷静になってきた。
いや、これは普通のことだと。
あんな日本人離れしたハーフイケメンに彼女がいないわけがない。金田じゃあるまいし。もし金田が彼女持ちだったらいますぐブチ殺す。お前は許さん。
さて、だいぶ精神も安定してきた。
俺は深呼吸をして、彼の病室のドアを睨みつける。
「きゃはははは。なにそれ~」と女子特有の黄色い声が聞こえてくる。ああ。気が滅入る。こんな幸せオーラ全開の病室入りたくないよ~。…………うん。よし。腹は決まった。
このままこのオーラに負けて帰れば、ここに来た意味がない。
俺は意を決して、勢いよくそのドアを開けた。
「よお。石見。」
石見は突然現れた俺を見て鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
しかし、すぐに眉間に皺を寄せて、こちらを牽制するように睨みつけてくる。
その隣にはやはり彼女と思しき女性がいた。ツインテールで小柄な女性が怯えた様子でこちらを見ている。うん。可愛いですよ。
石見君。あなた。顔に似合わずロリコンなんですね。把握しました。
くそ!なんなんだ。この野郎。こんな可愛い彼女がいながら不良なんてやってんじゃないよ。全く。
「よお。桝原。こんなところまで何の用だ?まだ殴り足りないか?」
石見の顔を正面から見据える。
今まで意識して見たことはなかったが、確かにカッコいい顔をしている。日本人離れした堀の深さに高い鼻梁。意志の強い瞳。そらこんな奴に見つめられたら女子も恋に落ちるよ。
怒った顔も絵になるしな。
ああ。帰りたくなってきた。
こんなハイスペック野郎と対面したくねぇ。
「ふっ。そんな有様でよく言えるな。」
俺は少しでも対等であるべく粋がる。
「ここは病院だ。荒事を起こそうってんならまた今度にしろ。」
酷く真っ当なことをおっしゃる。まさにその通りでございます。
「はっ。俺に命令できる立場かよ。負け犬が。」
いやいや。俺はこいつに頼み事があってきたのに、何故か思ってもない言葉が口から出てしまう。違うんですよ。本当はただあの石見グループに戻ってくださいって言いに来ただけなんです。
「…………しょうがねぇ。やるか?その変わり、こいつに指一本触れてみろ。お前を殺してやるからな?」
俺が焦って困り顔になっているのを奴は何を勘違いしたのか、喧嘩を売ってきた。
ああ。カッコいいじゃないか。
傍らに女子を置いて敵を睨みつける彼氏。カッコいい。
それに比べて週刊誌が入ったコンビニ袋を持って突っ立っている俺はなんなんだ。
かませ犬感半端ねぇぞ。
「いや、喧嘩をしに来た訳じゃねぇ。」
「あ?」
俺はとりあえず石見のいるベッドまで歩いていくと、コンビニ袋に手を突っ込む。
急に近づいてくる俺に身構える石見カップル。
俺は奴らの警戒を解くべく、丁寧に話しかける。
「とりあえず、これ週刊誌ね。ほら。病院ってヒマでしょう。」
「…………あ?ああ。ありがとう。」
ああ。ちゃんとお礼言える子なのか。良い子じゃないか。そこのロリよ。君の彼氏は良い奴だよ。俺が保証する。
「それで、怪我の具合はいかがかな?」
「ああ。まあ、お前にやられた頬が少し痛むくらいだ。」
「そうか。それは悪かったね。」
俺の謝罪が意外だったのか、石見は照れ臭そうに首をかく。
「いや。俺もグループを抜けたいと言うお前に急に食ってかかって悪かった。なにか事情があったのかもしれないしな。」
なんだこいつ。聖母か?完璧に愚痴ってた俺が悪かろう。
「いや。急に殴りかかった俺が悪い。すまなかった。今日は今の学校の現状とこれからについて話したくてきたんだ。」
「どういうことだ?何かあったのか?」
「いや。それが学校では石見のグループにいたやつらが皆、俺の下についた。」
「まぁそうだろうな。俺はお前に負けたんだ。それが普通だろう。」
「うんうん。でも俺はボスなんてがらじゃないんだ。だから、石見には引き続きボスをやって欲しくてな。」
「…………は!?ふざけるな!俺はお前に負けたんだ。今更、ボス面出来るかよ。」
「うーん。あ。そうだ。俺がもう一回お前とやって負けたことにしよう。それで良くないか?」
「てめぇ。なめてんのか?そんなの俺のプライドが許さねぇ。」
「ああ。プライドかー。………そうだな。じゃあ。まあどっちでもいいけど俺は今度から金田たちに言われたことは全部石見に投げるわ。俺に負けたんだし、お前は俺の下についたも同然だろ?」
「は?なんだと…………?」
「うん。これで行こう。俺はボスの権限を石見に委任したって。裏のボスみたいな感じでいて、なんもしなかったら皆、俺の存在を忘れるだろ。」
「意味がわからねぇよ。…………お前は何がしたいんだ?」
「俺は学生生活を満喫したいんだよ。喧嘩とか御免なんだよ。嫌なんだよなー。不良とか怖いし。家でゲームして寝ていたいんだ。」
「なに?…………じゃあお前は今まで嫌々、不良をやっていたのか?」
「まあ。そうだな。」
「そうか。分かった。いや。今まで嫌だとは知らなかった。それは気が付かなかったんだ。」
なぜか落ち込む石見が可愛く見えてきた。石見は申し訳なさそうにこちらを見る。
「いや。言わなかった俺が悪い。うん。石見はなんか知らんがこれからもがんばれ。後、彼女とお幸せに。じゃあ。」
そう言うと俺は後ろを振り返らず、足早に病室を去る。
「おい!!このエロ本持って帰れ!!」
と石見の声が聞こえてくるが、俺は後ろを振り返らない。それはモテない男からの餞別だ。貰っておけ。
じゃあな。石見。本当にお幸せに!!
しかし…………く、悔しい。俺もあんな可愛いロリっ子彼女欲しい。
なんで最強になった俺の元には誰もこないんだ。来るのは金田やら町の不良ばかり。
こんなの理不尽だ。
俺は駅に着くと、自然と涙が出ていた。
夕焼けは平等に俺たちを照らすのに、俺の見ている景色と石見が見ている景色は違う。誰かと見る景色ってもっと綺麗なんだろうなとか想像してまた泣いた。
傷心した俺は怠い体を引きずり帰路に就く。
鬱屈とした気分になり、今日はもうなにもしたくなかった。
その時、声をかけられる。
「えっと貴方、明桜の生徒さんよね。桝原さんじゃない?」
顔を上げるとそこには見たこともない美女が立っていた。
あ、俺の人生始まったわ。
俺はにこやかに彼女に愛想を振りまく。
しかし、次に俺の視界に入ってきたのは満面の笑みの美女とその隣にいるイケメンとアホそうな男だった。
二強の内、橋爪が石見に負け、その石見を俺が倒したことで、事実上俺はこの明桜のトップに躍り出たのだ。
石見グループは桝原グループとなったわけだ。
俺は初めて見る上からの景色に高揚感を覚え、媚びへつらう奴らを見て優越感に浸っていた。
俺の天下がやってきたと。
そう。始めの三日間は。
上に立って初めて気が付くことがある。
こいつらはどうしようもないと。
やれ他校の奴が喧嘩を売ってきただの、やれ他校の奴らが俺たちのシマで調子に乗っているだの。アホな連絡ばかりを寄越してくる。
それに加え、俺が普通に授業を受けていると、奴らは今からカチコミにいきますよと平気で授業中の教室に入ってくる。
まあ、授業を受けているのも俺ともう一人のがり勉君の二人だけだが。
本当に始末に負えない。
そして喧嘩を売っては負けると俺に告げ口をしてくる。もう本当になんて面倒な奴らなのだろうか。
今思えば、このサル山のボスとして奴らを管理出来ていた石見という男はすごい奴なのだろう。
カリスマ性。そう。確かに石見は人間性に富んだ出来る男の代名詞的存在だったのかもしれない。
それでいてあの容姿。勝てるところは一つもないし、勝ちたいとも思わない。
俺はふと思った。
もうやめたいと。
こんなサル山でボスを気取っていても楽しいことなど一つもない。
お前らそんなにいるんだからもっと有意義に日々を過ごしてはどうか?喧嘩しても恨みを買うだけだし、万引き、恐喝もあとあと困るのはお前等だぞ。
さて、そう思い立った俺はある一つの行動に移すことにした。
石見にボスに返り咲いてもらい、俺はどこのグループにも属さず、孤高の一匹オオカミというのもいいのではないかと。
思い立ったが吉日。俺は早くも石見が入院しているという病院に向かった。
彼のいる病院は学校の最寄り駅からほど近いところに位置する。
俺は放課後、コンビニで週刊誌を買って彼の病室へと向かう。病人にもっていくべき物など分からないので、娯楽品を持って行ってやろうと考えたのである。
さて、確かこの部屋だ。このドアの向こうに石見がいるわけだが、始めになんと声をかけたらいいのか考えてしまう。
思えば彼が入院しているのは俺のせいだ。彼をボスから引きずり下ろした俺に、またボスになってとお願いされたら彼は激高するに違いない。んーとドアの前で唸りながら考える。
口元をとがらせてどうにか彼にボスへと返り咲いてもらうべく足りない知恵を振り絞り考える。
と、その時ドア越しにある声が聞こえてくる。
それは女性の声だった。
それも母親ではない。その声は猫なで声で石見と楽しそうに戯れている。姉でもないだろう。石見に兄弟姉妹はいない。
「石見く~ん。大丈夫?さより心配だよ~。」
「大丈夫だ。心配ない。あと三日もすれば治る。それにしてもやられたぜ。桝原の野郎。あんな強いとは思わなかった。」
「そんな強い人だったの~?でも安心して次、その人が慎吾に悪い事しそうになったら私が助けてあげる!」
「いやいや。俺がもっと強くなって沙代里を守ってやるから大丈夫だ。」
「え~。慎吾カッコいい~!」
…………これは?!
親戚かな?
実は妹か姉がいて隠していたとか………。いやそれはそれで羨ましい。
いやいや。あんな話し方の肉親はきついだろう。
はい。認めましょう。そうですね。彼女ですね。
これで何故、奴がいつも会合に遅刻していたのかも分かった。遅いときは一時間も遅れてきてやがった。なるほど。彼女とお楽しみだったんですね。
俺たちが数字の入った石ころを転がしてたいたころ、お前は彼女と弁当つついて楽しんでいたのか。
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く。くそぉぉぉぉ。なんでだぁぁぁぁ。
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ソウルナンバーをぶら下げていた俺たちを見ながら、奴は彼女とのペアネックレスをぶら下げてほくそ笑んでいたに違いない。
ああ。下らない。ああ。世界は無情。ああ。死にたい。
彼女持ちのやつとかなんなんだ。
試合に勝って、勝負に負けた気分だ。
それから五分ほど妬み嫉みを腹に溜めて、ドアにもたれかかっていた。そうすると何か諦めがついたのか、逆に冷静になってきた。
いや、これは普通のことだと。
あんな日本人離れしたハーフイケメンに彼女がいないわけがない。金田じゃあるまいし。もし金田が彼女持ちだったらいますぐブチ殺す。お前は許さん。
さて、だいぶ精神も安定してきた。
俺は深呼吸をして、彼の病室のドアを睨みつける。
「きゃはははは。なにそれ~」と女子特有の黄色い声が聞こえてくる。ああ。気が滅入る。こんな幸せオーラ全開の病室入りたくないよ~。…………うん。よし。腹は決まった。
このままこのオーラに負けて帰れば、ここに来た意味がない。
俺は意を決して、勢いよくそのドアを開けた。
「よお。石見。」
石見は突然現れた俺を見て鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
しかし、すぐに眉間に皺を寄せて、こちらを牽制するように睨みつけてくる。
その隣にはやはり彼女と思しき女性がいた。ツインテールで小柄な女性が怯えた様子でこちらを見ている。うん。可愛いですよ。
石見君。あなた。顔に似合わずロリコンなんですね。把握しました。
くそ!なんなんだ。この野郎。こんな可愛い彼女がいながら不良なんてやってんじゃないよ。全く。
「よお。桝原。こんなところまで何の用だ?まだ殴り足りないか?」
石見の顔を正面から見据える。
今まで意識して見たことはなかったが、確かにカッコいい顔をしている。日本人離れした堀の深さに高い鼻梁。意志の強い瞳。そらこんな奴に見つめられたら女子も恋に落ちるよ。
怒った顔も絵になるしな。
ああ。帰りたくなってきた。
こんなハイスペック野郎と対面したくねぇ。
「ふっ。そんな有様でよく言えるな。」
俺は少しでも対等であるべく粋がる。
「ここは病院だ。荒事を起こそうってんならまた今度にしろ。」
酷く真っ当なことをおっしゃる。まさにその通りでございます。
「はっ。俺に命令できる立場かよ。負け犬が。」
いやいや。俺はこいつに頼み事があってきたのに、何故か思ってもない言葉が口から出てしまう。違うんですよ。本当はただあの石見グループに戻ってくださいって言いに来ただけなんです。
「…………しょうがねぇ。やるか?その変わり、こいつに指一本触れてみろ。お前を殺してやるからな?」
俺が焦って困り顔になっているのを奴は何を勘違いしたのか、喧嘩を売ってきた。
ああ。カッコいいじゃないか。
傍らに女子を置いて敵を睨みつける彼氏。カッコいい。
それに比べて週刊誌が入ったコンビニ袋を持って突っ立っている俺はなんなんだ。
かませ犬感半端ねぇぞ。
「いや、喧嘩をしに来た訳じゃねぇ。」
「あ?」
俺はとりあえず石見のいるベッドまで歩いていくと、コンビニ袋に手を突っ込む。
急に近づいてくる俺に身構える石見カップル。
俺は奴らの警戒を解くべく、丁寧に話しかける。
「とりあえず、これ週刊誌ね。ほら。病院ってヒマでしょう。」
「…………あ?ああ。ありがとう。」
ああ。ちゃんとお礼言える子なのか。良い子じゃないか。そこのロリよ。君の彼氏は良い奴だよ。俺が保証する。
「それで、怪我の具合はいかがかな?」
「ああ。まあ、お前にやられた頬が少し痛むくらいだ。」
「そうか。それは悪かったね。」
俺の謝罪が意外だったのか、石見は照れ臭そうに首をかく。
「いや。俺もグループを抜けたいと言うお前に急に食ってかかって悪かった。なにか事情があったのかもしれないしな。」
なんだこいつ。聖母か?完璧に愚痴ってた俺が悪かろう。
「いや。急に殴りかかった俺が悪い。すまなかった。今日は今の学校の現状とこれからについて話したくてきたんだ。」
「どういうことだ?何かあったのか?」
「いや。それが学校では石見のグループにいたやつらが皆、俺の下についた。」
「まぁそうだろうな。俺はお前に負けたんだ。それが普通だろう。」
「うんうん。でも俺はボスなんてがらじゃないんだ。だから、石見には引き続きボスをやって欲しくてな。」
「…………は!?ふざけるな!俺はお前に負けたんだ。今更、ボス面出来るかよ。」
「うーん。あ。そうだ。俺がもう一回お前とやって負けたことにしよう。それで良くないか?」
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「ああ。プライドかー。………そうだな。じゃあ。まあどっちでもいいけど俺は今度から金田たちに言われたことは全部石見に投げるわ。俺に負けたんだし、お前は俺の下についたも同然だろ?」
「は?なんだと…………?」
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「まあ。そうだな。」
「そうか。分かった。いや。今まで嫌だとは知らなかった。それは気が付かなかったんだ。」
なぜか落ち込む石見が可愛く見えてきた。石見は申し訳なさそうにこちらを見る。
「いや。言わなかった俺が悪い。うん。石見はなんか知らんがこれからもがんばれ。後、彼女とお幸せに。じゃあ。」
そう言うと俺は後ろを振り返らず、足早に病室を去る。
「おい!!このエロ本持って帰れ!!」
と石見の声が聞こえてくるが、俺は後ろを振り返らない。それはモテない男からの餞別だ。貰っておけ。
じゃあな。石見。本当にお幸せに!!
しかし…………く、悔しい。俺もあんな可愛いロリっ子彼女欲しい。
なんで最強になった俺の元には誰もこないんだ。来るのは金田やら町の不良ばかり。
こんなの理不尽だ。
俺は駅に着くと、自然と涙が出ていた。
夕焼けは平等に俺たちを照らすのに、俺の見ている景色と石見が見ている景色は違う。誰かと見る景色ってもっと綺麗なんだろうなとか想像してまた泣いた。
傷心した俺は怠い体を引きずり帰路に就く。
鬱屈とした気分になり、今日はもうなにもしたくなかった。
その時、声をかけられる。
「えっと貴方、明桜の生徒さんよね。桝原さんじゃない?」
顔を上げるとそこには見たこともない美女が立っていた。
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