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第一部ヴァルキュリャ編  第二章 コングスベル

何者

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「な、何故俺がヴァルキュリャが見えるか、ですか?」
 
 ゲイロルルは黙って俺を見ている。
 そんなの俺も知らねぇよ。
 答えは多分、ゴンドゥルと契約したからなんじゃね?
 でも、それは言っちゃいけないやつなんだよな?
 だから……
 
 
「じ、実は私も分からないのです……」
 
 
 か、観察されてる。
 取り調べってこんな感じなのかなぁっっ。
 一寸先には全部ばれそうだ。
 俺の目が泳いで、部屋の片隅に置かれた荷物袋に止まった。
 
 
「ただ……不思議な青い塊を手に入れてから、見えるようになった気がします。もしかすると、あの青い塊の影響せいかもしれません」
 
『見ても?』
 
「はい。今、出します」
 
 
 俺はゆっくり荷物袋に歩み寄り、青い塊を取り出した。
 魔剣と盾をアセウス、青い塊を俺が持っていたのが良かったか。
 ずいっと、ゲイロルルの方へ差し出す。
 不思議な塊なんだよなぁ。
 真っ暗闇の中だからか、手に持つとうっすらと発光しているように見える。
 うわっ、ゲイロルルが近寄ってきた。


『触れても?』

「はい、もちろん」


 ゲイロルルの右手がそっと乗せられると、青い塊の発光が収まったように見えた。
 いやいや、気のせいじゃん。
 この真っ暗闇で俺が見えてるのは、ゲイロルルの放つ光が照らしてるから。
 暗闇に慣れた目がうっすら感じてるだけだ。
 他に光なんて……。

 近くに来てゲイロルルの顔がはっきりと見えた。
 ガンバトルとはあんまり似てなかった! いぇすっ!!
 彫像のような美形という点は同じなんだけどさ。
 各パーツは大きいけれど、強く主張せず調和する、すっきりとした顔立ち。
 完璧かよ。
 銀色に輝く髪と色白の肌。
 美しさが厳かで月の女神様みたいだと思った。
 みとれていたみたいで、青い塊から手を放したゲイロルルと目が合って、あわあわする俺。

 
「は、ハイリザードマンを倒したらドロップしたのです。不思議な力を持っていて……何だか分かりますか?」

『見たことはないな』
 
 
 うっすら瞳が緑がかって光ったように見えた。
 不思議だよなぁ、黒は時おり緑を帯びて見える。
 そんな余計なことを思っているうちに、ゲイロルルは元居た場所へ戻っていた。
 青い塊の謎も分かれば一石二鳥と閃いたんだけど。
 そう上手くはいかないかぁ。
 ゲイロルルが再び黙り続けたから、俺は二つ目の答えを考え始めた。
 何故、俺がアセウスに隠れて一人で動いているか。
 なんでこの流れでそれを聞くんだよぉ……。


「えぇーと、二つ目のなんですけど、どうやら、ヴァルキュリャが見えるのは俺だけみたいなんです。だから、ヴァルキュリャ達に会って話を聞くのは俺一人で、あ、私一人でしようと思って……アセウスには隠しています」

『お前一人が知ってなんになる』

「も、もちろん、必要なことは方法を変えてアセウスに伝えますっ。知らせるつもりですっ。でもっ、知らなくていいことだってありますよね?」


 ゲイロルルは黙っている。
 なんだろ、この話、前もしたよな。
 誰にだっけ? ソグン? シグル?
 

「アセウス一人で背負うには、重い運命ことだって思いませんか? 俺は……私は少しでもそれを減らしたいんです。一緒にいるんだし、一緒に調べてるから、お、おこがましいかもしれないけど、肩代わり出来ることだってあるんじゃないかって。何の因果か、私にだけヴァルキュリャが見えるのなら、出来ることをしたいんです」


 この話をするといつも変な気分になる。
 焦るような、いたたまれないような、変な気分。
 ゲイロルルは少しも動かない。
 えぇと、三つ目、俺の中に何か混ざってるって?
 

「ただ、それだけのお節介な友人です。混ざってるってのも良く分かりません。両親は普通に普通の人間でしたし。普通の人間と違い複数混ざっているって、どういうことなのか、もう少し説明してもらわないとまるで分かりません」


 心当たり? めちゃめちゃあるだろ。
 考えを巡らせてみれば、有り過ぎてどれを言ってるのか迷うくらいだ。
 俺の中、イーヴル・コアは右手首に取り込んだし、
 ゴンドゥルだって力を使える契約を交わしてる。
 力の影響ってことなら、ソグンの腕鎖ブレスレットもしてるし、
 そこにシグルの髪の石も付いてる。
 魔剣とも血の契約をしてるし、
 なにより俺の中には前世の俺がいる。
 我ながらすげぇなとビビったが、どれもゲイロルルに話せたネタではなかった。
 どうしてもダメそうなら魔剣のことを話すか?
 それか、イーヴル・コアのことをソグンのくだりは隠して話すか……。


『説明は難しい。……私は知覚する、周囲にあるものを。そして判別していく、神、ヴァルキュリャ、人間、魔物……あれ・・とお前はどれとも違う、にごり混ざっている。異形ばけものだ』
 
「あ、あれ・・って何スか」

『……《罪の責務》、寝ていただろう?』

「『あれ・・』、なんて……っ! 《罪の責務》《罪の責務》ってっ、そんな風に呼ばないでくださいっっ。そりゃ、そうなのかもしれないけどっ、一人の人間つかまえて、酷くないですか? 《罪の責務》はとっくに死んだんです。あいつは何も悪いことしてないし、むしろいい奴過ぎるくらいだしっ。アセウスってっっ……意味は同じだけど、あいつにはちゃんと、名前があるんだっっ」

『……《罪の責務アセウス》か』

「アセウスも同じって言うなら魔剣のせいじゃないですか? エイケン家に代々伝わる魔剣があるんです、アセウスを守る。オージンが赤子を守らせた剣です。当然アセウスのことは守護してますし、……俺も、血の契約をして加護を受けてます。オージンの魔剣、ご存知ですよね?!」

『……知っている』

「俺ごときがずーずーしいことだとは分かってますっ、けど、アセウスを守るためには……俺が足手まといにならないためには必要だったんです。俺と、私とアセウスとで思い当たることといったらそれくらいです。半神のあなた達が、あいつを化け物なんて……言わないでください……」


 あまり周囲には求めない。
 望まないことは見ない、聞かない、知らないでやり過ごす。
 そのつもりだった。
 求めると叶わなかった時に傷つくから。
 俺の処世術だ。
 だけど、気がついたら口に出ていた。
 アセウスあいつをあれ、とか化け物、とか、聞き捨てならなくて。
 ほんと俺、どーしちゃったんだろ。

  
『……真実を知りたい、か』
 

 一瞬、ゲイロルルの光が薄れて、周囲が闇に包まれた。
 そんな気がした。
 そぉだ、俺は答えたぞ! 次はそっちのターンだよな?!
 
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