14 / 88
第一章 綻び
13
しおりを挟む俺の知らないところであまりにも予想外のことが起こっていたため、再び部屋に戻った後の俺は現実逃避に身を任せていた。
机の上に勉強道具を広げたまま、ずっとスマホで動画を眺めていたんだけれど
「真弥ぁ~。凜が帰るぞぉー。挨拶しろぉー」
あれから更に一時間、リビングから俺を呼ぶ兄ちゃんの声が聞こえてきたから、俺は渋々といった感じで重い腰を上げた。
テンションは最低レベルでめちゃくちゃ低かったけれど、それを兄ちゃんや凜さんに悟られてはいけない。
だって、俺はさっきまでの二人の会話を聞いていないことになっているんだから。
でも、あんな話を聞いた後なのに、二人の前で今まで通りの俺を演じられるだろうか。
というより何より、あんな話を聞いた後で、俺はこの先兄ちゃんとどう接すればいいんだろう。
「……………………」
不安しかない。上手くやれる自信がない。
あんな話を聞いた後でも、俺の中にある兄ちゃんを大好きな気持ちは変わらないけれど、兄ちゃんを見る目はかなり変わってしまったんじゃないかと思う。
俺の前ではいつもいい兄でいてくれる兄ちゃんが、実は俺に隠れてセックスしているとわかった今、俺は兄ちゃんをどんな目で見てしまうんだろう。
兄ちゃんだって男だし、既に経験済みだってことはわかっていても、彼女とセックスするのと、男のセフレとセックスするのではだいぶイメージが違う。男相手にセックスするくらいなら、まだ彼女とセックスしてくれている方が良かった。
ただでさえ、俺は兄ちゃんと身長が並んだ頃から兄ちゃんのことを可愛いと思うようになっているのに、その兄ちゃんが男に抱かれていると知ったら……。
「ダメだダメだ。考えるな」
兄ちゃんがどんな顔で鵜飼先生や遠山先生に抱かれているのかを想像しただけで、吐き気がするほどの嫌悪感が込み上げてくると同時に、自分もそんな兄ちゃんの顔を見てみたいと思ってしまう。
「落ち着け、俺。平常心、平常心……」
部屋を出る前に深呼吸をして気持ちを鎮める俺は、こんな気持ちになるくらいなら、いっそ二人の会話を聞いてしまったと白状してしまった方が楽なんじゃないかと思った。
勝手に盗み聞きしていた俺を兄ちゃんは怒るだろうけど、そもそも俺がいる家の中でそんな話をした兄ちゃんだって悪い。
本当に俺に聞かれたくない話なら、絶対俺の耳に入らない場所で話すべきだったんだ。
「ちゃんといい子に勉強してたか?」
「う……うん……」
不安でいっぱいではあったものの、俺に話し掛けてくる兄ちゃんにはちゃんと対応ができた。
でも
(くそー……この可愛い兄ちゃんがあんな野郎共に……)
やっぱりそこは悔しくて仕方がなかった。
あの二人、明日学校で見掛けたらどうしてくれよう。悪いけど俺、もう鵜飼先生と遠山先生のことを敵としか見られない。
「試験前なのに邪魔して悪かったな。試験頑張れよ」
「はい。凜さんも頑張ってくださいね。またいつでも遊びに来てください」
「そうだな。真弥の試験が終わった頃にまた来よう」
「楽しみにしてます」
一方、凜さんには益々好感が持てた。
だって、兄ちゃんに鵜飼先生や遠山先生との関係をやめるよう言ってくれたし、冗談交じりの兄ちゃんの誘いもきっぱり断ったもん。俺の中で凜さんの株は大幅にアップだ。
「んじゃま、気ぃつけて帰れよ。夜道が不安なら送ってくけど?」
玄関先で凜さんを見送る兄ちゃんは、もう夜も遅いし、美人で小柄な凜さんの身を案じたが
「馬鹿にするなよ。一人で帰れる。お前は真弥の勉強でも見てやれ」
凜さんは兄ちゃんからの申し出をサラッと断った。
凜さん的には話の途中で部屋に追いやられた俺を気遣う気持ちもあったんだろうが
「んじゃそうするわ」
二人の会話を盗み聞きしていた俺としては、今兄ちゃんに勉強を見てもらうとか無理。
絶対平常心ではいられないし、俺に勉強を教えている兄ちゃんがちょっとでも色っぽい仕草を見せたりなんかしたら、俺は兄ちゃんに何をするかわからないよ。
今は混乱と動揺、ショックが大き過ぎてまともな状態ではいられない俺だけど、ぐちゃぐちゃな気持ちにどうにかケリをつけていつも通りの俺に戻ってみせるから、それまで兄ちゃんには俺と距離を取って欲しいと思う。
俺はそう望んでいるのに
「さっきはごめんな。凛とちょっと大人の話してたから、お前に聞かせるわけにはいかなくてよ」
凜さんを見送った後の兄ちゃんは、俺がその大人の話を盗み聞きしていたとは知らないから、俺と距離を取るという発想がない。
そりゃそうだ。兄ちゃんの中では何も変わっていないんだから、俺と距離を取る理由がない。兄ちゃんに距離を取って欲しいのであれば、やっぱり俺が兄ちゃんと凜さんの会話を盗み聞きしていたことを明かす必要がある。
俺が二人の会話を盗み聞きしていたと知れば、兄ちゃんだって俺と距離を取ってくるに違いないもんな。
でも
「せっかく凜が来たのにほったらかしにして悪かったな。お詫びに勉強見てやろうか?」
「え。あ……う、うん……」
現在兄ちゃんと二人暮らしをしている俺は、兄ちゃんと距離を取るのも難しいし、兄ちゃんとの生活が気まずくなってしまうことも避けたい。
そもそも、兄ちゃんのことが大好きで、兄ちゃんに頼りきった生活を送っている俺に、兄ちゃんと距離を取るなんて無理なんだと思う。
それならば、自分の感情を押し殺して今まで通りの弟を演じるしかない。
多少不自然だったり、ぎこちなくなるところはあるかもしれないけれど、そこは適当に誤魔化してしまえば兄ちゃんもあまり気にしないだろう。
(ほんと、まだ彼女がいた方が良かった……)
兄ちゃんに彼女ができたら……と想像して半泣きになってしまったのがたったの二日前だっていうのに。今度は兄ちゃんにセフレがいると判明してしまったものだから、俺は情緒不安定になってしまいそうだ。
ただまあ、唯一の救いがあるとすれば、兄ちゃんは鵜飼先生や遠山先生と付き合っているわけじゃないし、二人に対して恋愛感情はないそうだから、兄ちゃんは誰のものでもないってことだよな。
となると、今後の俺がやるべきことは、兄ちゃんに鵜飼先生や遠山先生とセックスさせないことになるわけだけど、兄ちゃんってどういうタイミングで鵜飼先生や遠山先生とそういうことをしているんだろう。
兄ちゃんが二人とセックスするタイミングや場所、ペースなんかが気になるところだよな。
三人共まだ二十代半ばと後半だから性欲は結構ありそう。もしかしたら、俺が呑気に授業を受けている間に、兄ちゃんは鵜飼先生や遠山先生とセックスすることもあるのかもしれない。
(頼むから学校ではやめて……)
って思うけど、兄ちゃんも言っていたように、兄ちゃんは基本的に日々の生活リズムというか、生活スタイルを崩すつもりがないから、鵜飼先生や遠山先生も兄ちゃんが学校にいる間が一番手を出しやすいと思っていそう。
教師の癖に破廉恥極まりないし、仕事に私情を持ち込み過ぎだと思うけれど、それに兄ちゃんが応えてくれるのであれば、二人も問題ないと思っているんだろうな。
(というより、何でセフレが二人もいるんだよ。せめてどっちか一人にしてくれよ)
弟の立場から言わせてもらえば、鵜飼先生と遠山先生のどちらも兄ちゃんの相手として認められないが、そもそも兄ちゃんがあの二人とどういう経緯でそうなってしまったのかが知りたい。酔った勢いで二人同時に相手したってことなの?
今まで普通の恋愛をしていた兄ちゃんが、どうして男相手だとそうなってしまったのかがわからない。同性相手の方が兄ちゃんの淫乱ゲージが上がっちゃう仕組みなの?
だとしたら、確かに兄ちゃんはそっちの素質があったってことになるよな。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる