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第二章 破綻
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しおりを挟む言うまでもなく、人生初のキスだった。
初めて触れた兄ちゃんの唇は柔らかくて、少しだけ甘いと感じた。
触感はともかく、味覚に関しては俺の妄想がかなり入っているのかもしれないけれど。
でも、間違いなく柔らかいと感じる兄ちゃんの唇はキスしていて気持ちがいいと思ったし、初めて兄ちゃんとしてではなく、好きな相手として兄ちゃんに触れた俺は、自分の中にあるありとあらゆる感情が、どうしようもなく高まっていくのを感じていた。
(兄ちゃん可愛い……兄ちゃん大好き……)
ただ唇を重ねているだけのキスでも、兄ちゃんへの想いがどんどん溢れてきて止まらない。
自分の中にここまで兄ちゃんを想う気持ちがあるとは思わなかったから、自分でもちょっとびっくりした。
そして、肝心な兄ちゃんの反応だけど、いきなり俺にキスされたことによっぽど驚いているのか、俺にキスされたまま、しばらくは微動だにしなかった。
そりゃまあ、俺もびっくりしているくらいだから、兄ちゃんはもっとびっくりしちゃうよな。兄ちゃんのことだから、俺にキスされるだなんて微塵も思っていなかったんだろうし。
だけど、本当は兄ちゃんを押し倒した時にこうなっていてもおかしくなかった。
あの時は兄ちゃんの膝蹴りに邪魔されて告白もキスもできなかったけれど、本来なら、あの時こうなっていた方が自然だったんじゃないかと思う。
「……………………」
「……………………」
しばらく無言のまま――そりゃキスしてるんだからお互いに喋れない――、兄ちゃんとキスすること数秒。
俺にキスされた兄ちゃんがどういう行動に出るのか内心ハラハラドキドキしていた俺は、両手をゆっくりと前に突き出し、俺の胸を優しく押し返してきた兄ちゃんに
(あれ?)
と思った。
突然俺にキスされて、驚きのあまり兄ちゃんが固まってしまうのはわかる。
でも、時間が経てば我を取り戻し、物凄い勢いで俺を拒否してくると思ったんだけどなぁ……。
「……………………」
両手を突き出して俺の身体を優しく押し返した兄ちゃんは俯いたままで、俺は今、兄ちゃんがどんな顔をしているのかを物凄く見たくなった。
「……兄ちゃん?」
俺を見てくれない兄ちゃんの顔を覗き込んでみた俺は
「っ⁉」
兄ちゃんが顔を真っ赤にして、唇をキュッと結んでいる表情に、どうしようもなく胸がときめいてしまった。
何だよ、そのクソ可愛い顔。それって一体どういう表情? どういう感情なんだよ。
ちょっと怒っているような顔をしているあたり、兄ちゃんが俺にキスされて喜んでいるとは思えないんだけれど
(その顔は反則っ! 可愛過ぎんだろっ!)
ってなるよな。
恋愛経験がゼロではないし、今現在はセフレという爛れた関係を持つ相手が二人もいるっていうのに、兄ちゃんがこんなしおらしい反応をするとは思わなかった。
「兄ちゃ……」
「キスはやめろ」
「へ?」
「キスはすんな。俺、唇弱いんだよ……。だから、キスはすんな」
「……………………」
開口一番で怒鳴られるかと思ったら、とんでもなくいい情報をゲットした。
なるほど。唇が弱いってことは、キスされると感じちゃうってことなんだ。だから、兄ちゃんは鵜飼先生にキスされた時、あっさり流されちゃったってことなんだな。
ってことは、俺も兄ちゃんにキスし続けていたら、兄ちゃんは俺に流されてくれるってこと?
(何それ。キス大好きか? 可愛いな)
想像しただけですげームラムラする。俺にいっぱいキスされた兄ちゃんがどうなっちゃうのかもめちゃくちゃ見てみたい。
「あと、兄弟でキスとかおかしいだろ。何やってんだ、お前」
「いや……だから……」
俺にキスされたことにびっくりし過ぎちゃって、兄ちゃんは俺に告られたことが頭から抜けているのかな?
俺、キスする前に言ったんだけど。俺は兄ちゃんのことが恋愛的な意味で好きなんだって。
「だから、俺は兄ちゃんのことが好きなんだって」
「はあ? そりゃお前、何かの勘違いだ」
「勘違いじゃねーよ」
「いや。勘違いだ。兄弟でそんな感情ありえねぇ」
むっ……。この期に及んでまだそんなこと言うか。
そりゃさ、俺だってここで兄ちゃんに告白するつもりはなかったし、今の段階で兄ちゃんに告るなんて全くの予定外だった。その場の雰囲気に流されて告っちゃったところはあるんだけどさぁ……。
でも、好きだって言われてキスされてんだよ? そこはもう疑いなく、俺がそういう意味で兄ちゃんのことを好きだって証拠じゃん。
それなのに、「勘違い」とか「ありえねぇ」で済ませようとする兄ちゃんって酷くない?
「兄ちゃん」
「んだよ」
こうなったらもう、兄ちゃんに俺の気持ちが伝わるまで、兄ちゃんにキスして、キスして、キスしまくってやる。
でもって、あわよくば兄ちゃんとエロいことして、既成事実ってやつを作ってしまおう。
俺の気持ちを勘違いで済ませようとする兄ちゃんに腹を立てた俺は、俺と兄ちゃんの間にあるテーブルを跨ぎ、いつぞやの再現よろしく、俺を挑むような目で見ている兄ちゃんをソファーの上に押し倒した。
そして
「勘違いでも、ありえねぇ話でもないってこと、兄ちゃんに教えてやるよ」
今回もあっさり俺に押し倒されてしまった兄ちゃんの唇に、自分の唇を再び重ねた。
でも、今回はただ俺に押し倒されているだけじゃなく、俺にキスされている兄ちゃんはすぐさま抵抗しようとしてきた。
だけど、兄ちゃんからの抵抗を予想していた俺は、俺の身体を押し返そうとしてくる兄ちゃんの両手首を掴み、ソファーの上に縫い付けてやった。
抵抗しようとする兄ちゃんの力は強かったけど、ここで兄ちゃんに負けるわけにはいかない俺は腕の力だけじゃなく、身体の重みも使って兄ちゃんを押さえ付けた。
前回の教訓から、兄ちゃんの膝蹴りを食らわない対策もばっちりだ。兄ちゃんを押し倒す時、兄ちゃんの脚の間に身体を割り込ませた俺は、手がダメなら足で……と思っている兄ちゃんの攻撃を受けずに済んでいる。
「んっ……んんっ! はっ、ぁ……真っ……んんーっ!」
俺が兄ちゃんの唇をしっかり塞いでいるせいで、兄ちゃんは言葉での抵抗もままならず、せめて身体を捩ってどうにかしようと試みたけれど、兄ちゃんの唇が少しでも離れたら、すかさず兄ちゃんの唇を追いかけてキスをする俺に、次第に抵抗する気力を失っていったように見えた。
「んっ……んんっ……」
俺に押さえ付けられた手の力も徐々に抜けていき、おとなしく俺にキスされるだけになっていく兄ちゃん。
不慣れなうえに強引過ぎる俺のキスじゃ、兄ちゃんは感じないのかもしれないけれど、兄ちゃんの抵抗が弱まると、ただ唇を塞いでいるだけのキスから、角度を変えて何度も啄むような優しいキスに変えてみた。
「んっ……ぁ……ゃ、めっ……んんっ……」
キスの仕方を変えると、兄ちゃんの声がちょっとだけ甘くなった気がするのは気のせいだろうか。
相変わらず抵抗しようとする気持ちはあるみたいだけど、俺に押さえ付けられた兄ちゃんの力はどんどん抜けていく一方で、時々もどかしそうに身体を揺らしていたりする。
そんな兄ちゃんの姿が可愛いやら、いやらしいやらで、俺の感情は昂っていくばかりだった。
本当は思いきって舌を絡ませるキスとかしてやりたいんだけど、これが初めてのキスになる俺は、そのやり方がいまいちわからない。
兄ちゃんを感じさせるキスをしてみたいんだけど、下手にガッついて、兄ちゃんにキスが下手だと思われても嫌だしなぁ……。
だから、戯れのようなキスを兄ちゃんの唇に何度も何度もちゅっ、ちゅっ、ってしていると
「っ……い……いつまでそんな焦れってぇキスばっかしてんだっ……」
俺にキスされ過ぎて唇が赤くなってきた兄ちゃんにそう言われた。
かと思いきや
「っ⁉」
これまで受け身に徹していた兄ちゃんの方から俺にキスをしてきて、驚いている俺の舌に自分の舌を絡めてきた。
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