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第二章 破綻
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しおりを挟む「今日のことは忘れろぉぉぉぉ……頼むぅぅぅぅ……」
兄ちゃんとの初体験を終えた俺は、ぐったりした兄ちゃんを連れて風呂に入った後、今日はもう夕飯を作れそうにない兄ちゃんのために宅配を頼むことにした。
スマホで注文を終え、少しだけ体力が戻ったらしい兄ちゃんの隣りに腰を下ろすなり、酷く落ち込んだ様子の兄ちゃんからそう言われた。
「え。やだよ。っていうか、忘れたくても忘れられないだろ。あんな可愛くてエッチな兄ちゃん」
風呂に入り、気持ちがリセットされた兄ちゃんは、やっぱり俺とセックスしてしまったことを後悔しているみたいだけれど、あれを無かったことにはできないし、「忘れろ」と言われても無理な話だった。
それに、兄ちゃんだって途中からかなりノリノリだったじゃん。ノリノリっていうか、俺が兄ちゃんに食われるんじゃないかと思うくらい、見事なリードっぷりだった。
「だからぁ……あれは気の迷いっつーか、変なスイッチが入っちまったっていうか……。お前が俺にちゅーとかすっからぁ……」
「はいはい。ごめんね。唇が弱い兄ちゃんにキスなんかしちゃってさぁ」
「あのさぁ、もっと反省してくんね? すんなっつってんのにぶちゅぶちゅ何度もキスしやがってよぉ」
「兄ちゃんが可愛かったんだもん。しょうがなくない?」
「しょうがなくねーわぁっ!」
俺と兄ちゃんの初セックスは、それはもう気持ち良かったし激しかった。
兄ちゃんとするセックスが気持ち良過ぎた俺は、一回イっただけじゃ全然足りなくて、俺と一緒に絶頂を迎えた兄ちゃんを休ませる間もなく第二ラウンドに突入。
イったばかりの兄ちゃんは
『ちょっ……待てっ……待ってぇ……兄ちゃん、今イってる……からぁ……』
と半泣き状態で俺に訴えてきたけど、俺が何度も兄ちゃんを突き上げているうちに、また感じ始めちゃって……。
結局三回ヤった。それくらい、俺は兄ちゃん相手に性欲が止まらなかった。
自分はあまり性欲が強い方じゃないと思っていたから、初体験でいきなり三回もイった自分にはびっくりした。
兄ちゃんも兄ちゃんで俺に最後まで付き合ってくれたし、一回イった後は何をされても気持ちいいのが止まらないみたいで、泣きながら喘ぎ、最後は潮吹きまで見せてくれた。
おかげでソファーが大変なことになっちゃったけど、それは後で俺が兄ちゃんに「良し」と言われるまで綺麗にすることになっている。
「つーか! 兄ちゃんはお前の性欲にびっくりなんだよっ! 初体験で三回もスるとかどうなってんだっ! 付き合わされるこっちの身にもなれぇっ! 容赦なくガンガン突きまくりやがってぇっ!」
「それもしょうがないじゃん。兄ちゃんとするセックスが気持ち良過ぎて、イっても全然萎えなかったんだから」
「お前なぁっ! 何でもかんでも〈しょうがない〉で済ましゃいいってもんじゃねーぞっ!」
「でもぉ……」
「でも、じゃねぇっ!」
はぁ……。せっかく兄ちゃんとセックスしたっていうのに、全然ラブラブな感じになってくれないなぁ……。
ヤってる最中はまだ可愛げがあったし、俺のことも「大好き」って言ってくれたのにさ。
まあ、兄ちゃんの言う「大好き」は俺の言う「大好き」と意味が違うから、性欲スイッチがオフになった兄ちゃんは、弟とイチャイチャする気になれないんだろうけど。
「ほんと、どうしてこうなっちまったんだか……。俺はどこで間違えちまったんだぁ?」
ここで言う〈間違えた〉は、おそらく兄ちゃんが俺とのキスに流されてしまったことではなく、俺の育て方を〈間違えた〉ってことなんだろう。
両親が亡くなった後、兄ちゃんは俺の親代わりとして、親がいなくても俺を真っ当な人間に育てようと奮闘してくれた。
それなのに、俺が実の兄に手を出すような人間に育ってしまったから遣る瀬無いんだろう。
でも、それは何も兄ちゃんが悪いわけじゃないし、兄ちゃんが間違えたわけでもない。だって俺、父さんや母さんが健在だった頃から兄ちゃんのことは大好きだったもん。
もちろん、その頃はまだ恋愛的な意味で兄ちゃんを好きだったわけじゃないんだろうけど、大好きな兄ちゃんと肩を並べられるようになって、兄ちゃんのことを可愛いと思うようになった俺が、兄ちゃんに恋愛的な感情を向けるようになったのは自然なことのようにも思う。
つまり、間違っていたのだとすれば最初からで、俺が兄ちゃんの弟として生まれてきたこと自体が間違いだったってことになる。
「別に兄ちゃんが悪いわけじゃないよ。俺は昔から兄ちゃんのことが大好きだったし、兄ちゃんと身長が並んだくらいから、兄ちゃんのことを可愛いと思うようになったんだから」
とりあえず、盛大に落ち込んでいる兄ちゃんを慰めてあげることにした。
兄ちゃんは何も間違えていないし、これは俺の問題なんだってことで、兄ちゃんの気持ちを楽にしてあげようと思った。
俺の言葉にピクッと反応した兄ちゃんは
「あのさぁ……お前に可愛いって言われんの、ぶっちゃけすげー嫌なんだけど」
その言葉通り、物凄く嫌そうな顔で俺をジッと見てきた。
いやいや。嫌って言われましても……。可愛いもんは可愛いんだから仕方ないだろ。その不満そうな顔すらも既に可愛いのに。
「こう言っちゃなんだけど、兄ちゃんあんま可愛いとか言われたことねぇんだぞ?」
「そう? でも、この前凜さんも兄ちゃんのこと可愛いって言ってたじゃん」
「ありゃ〈可愛いところがある〉って言ったんだろ。外見的なことじゃなくて、内面的にって意味だ」
「それに、鵜飼先生や遠山先生には言われてるんじゃない? 可愛いって」
「ぐっ……」
やっぱ言われてんのかよ。あの二人に「可愛い」って。ま、あの二人の兄ちゃんに対する態度を見てりゃ、そんなの一目瞭然だけどな。
確かに、兄ちゃんはこれまで外見的な意味で「可愛い」と言われたことはあまりないんだろう。異性の目から見た兄ちゃんは〈可愛い〉より〈格好いい〉になるんだろうから。
でも、同性の目から見た時の兄ちゃんは可愛いと思う。
顔立ちは格好いいっちゃ格好いいんだけど、今年二十五歳になる兄ちゃんの顔にはまだ幼さみたいなものが残っているし、つり目ではあるけどぱっちりした目は凛々しいというより可愛い。兄ちゃんは絶対に嫌がるだろうけど、女装とかしたら似合う顔立ちだとも思うんだよな。
「あいつらの感性は人とズレてんだよ。あいつらを基準にすんな」
「そうかなぁ? 兄ちゃんは顔がいいじゃん。顔がいいってことは、可愛いも格好いいも両方あるってことじゃない?」
「男が可愛いとか言われても嬉しくねーんだよ」
全くもう……。ああ言えばこう言うんだから。褒められてるんだから素直に喜べばいいのに。
でもまあ、俺も兄ちゃんに「可愛い」って言われると不満に思うから、男って生き物は基本的に格好いいと思われたいものなのかもな。
だけど、可愛いものは可愛いでしかないわけだから、たとえ兄ちゃんに嫌がられようとも、俺が兄ちゃんを可愛いと思う気持ちを変えられるわけじゃないんだよな。
「それはそうとさぁ……兄ちゃん、鵜飼先生や遠山先生とセフレ関係を解消する気にはなった?」
兄ちゃんは俺にまだまだ言いたいことがあるのかもしれなかったけれど、兄ちゃんとセックスした今、俺はそこが一番大事な問題だった。
弟はない――が覆された今、俺だって兄ちゃんの欲求不満を解消してあげられると判明したわけだ。だったら、あの二人との関係は解消してもいいんじゃないかと思う。
ところが
「だから、それは追々にっつってんだろ」
兄ちゃんから返ってきた返事は、俺の期待を大きく裏切るものだった。
「何でだよ。俺だって兄ちゃんを気持ち良くしてあげることができるんだから、もう俺だけで良くない?」
明らかにムッとした顔になる俺は、なかなか二人との関係をやめようとしない兄ちゃんが理解できなかった。
兄ちゃんは鵜飼先生や遠山先生に恋愛感情はないって言っているのに、どうしてセフレ関係をやめられないんだろう。あの二人とするセックスはそんなに気持ちいいのか?
そりゃまあ、不慣れな俺より、経験豊富そうなあの二人の方が上手いっちゃ上手いんだろう。兄ちゃんの身体が淫乱になったのもあの二人のせいなんだから、兄ちゃんがあの二人とするセックスが好きなことも容易に想像がつく。
でも、だからといっていつまでもセフレ関係を続けるのはどうかと思うし、新しい相手を見つけたら切ってもいい関係なんじゃないかと思う。
あえて恋人関係にならず、セフレ関係を結んでいるってことは、その関係をいつでも解消できるというメリットがあるからなんじゃないかと思うんだけど……。
「何で兄弟でセックス三昧の日々を送んなきゃなんねーんだよ。今日はたまたま流されちまっただけで、兄ちゃんはお前とセックスしたいわけじゃねーんだぞ?」
「でもシたじゃん。兄弟でもできないわけじゃないってわかったんだから、これからは俺とだけセックスしてよ」
「だぁーかぁーらぁっ! それはお互いにとって良くねぇっつってんのっ! 俺とお前は血の繋がった兄弟なんだからなっ! 普通、兄弟でセックスはしねーもんなのっ! そんなこと、お前だってわかってんだろっ!」
むぅ……。兄ちゃんのこういうところはほんと頑固っていうか、無駄に頑固だよな。
兄弟でセックスなんて普通じゃない――なんてこと、俺だってとっくにわかっちゃいるよ。わかっちゃいるけど、兄ちゃんを好きになってしまった俺としては、「それの何がいけないの?」って感じでもある。
それに、モラル云々を言うのであれば、「兄弟じゃない男同士とセックスするならいいのかよ」って話にもなるわけで、兄ちゃんの主張には矛盾は生じることになる。
普通じゃないのがダメだっていうなら、男同士のセックスだって普通とは言えない。今の世の中、性別に囚われない自由な恋愛が認められつつあるように見えるけど、それってまだまだ一部的なもので、一般的には同性間での色恋沙汰に世間は冷ややかなものだ。
だから、俺との〈普通じゃない関係〉を拒みたいというなら、兄ちゃんは鵜飼先生や遠山先生との普通じゃない関係も拒むべきだ。
とは言っても、あの二人のいいように身体を開発されてしまった兄ちゃんは、正論を言ったところでそう簡単にあの二人との関係をやめてくれないだろうから、もっと他の手を考えなくちゃだよな。
どうやら兄ちゃんは刺激や快感に弱く、気持ちいいことも大好きみたいだから、そこを上手く利用するしかないだろう。
気持ち良くなるためなら、弟の俺ともセックスしちゃうような淫乱な兄ちゃんなら
「だったらさぁ、俺があの二人より兄ちゃんを気持ち良くさせるセックスができるようになったら、兄ちゃんはあの二人との関係をやめてくれる?」
兄ちゃんに俺とするセックスが一番好きだって思わせることができれば、兄ちゃんは俺だけのものになってくれるかもしれない。
「はあ⁉」
「約束してよ。俺が誰よりも兄ちゃんを気持ち良くするセックスができるようになったら、兄ちゃんは俺だけのものになってくれるって」
「なっ……!」
兄ちゃんを俺だけのものにするためなら、俺は何でもできる。本気でそう思っている。
「おまっ……そりゃつまり、お前はこれからも兄ちゃんとヤるつもりでいるってことかぁ⁉」
「うん。そうだよ」
「~っ⁉」
兄ちゃんの中では、俺が兄ちゃんと一回スれば満足すると思っていたところがあったのかもしれない。
が、むしろその逆で、一度兄ちゃんとシてしまった俺は、これからだって何回も兄ちゃんとシたい。その思いは日増しに強くなっていくという確信もあった。
「無理無理無理ぃっ! 一回シたんだからもういいだろっ! 今日の一回で満足しろよっ!」
「無理。できない。俺、兄ちゃんとなら毎日だってシたい」
「はあ⁉」
「だから約束してよ。俺が誰よりも兄ちゃんを気持ち良くするセックスができるようになったら、兄ちゃんは俺だけのものになってくれるって」
念を押すようにもう一度兄ちゃんに同じ言葉を投げかける俺に、兄ちゃんはどう答えていいのかわからなくなってしまっているようだった。
でも、一度媾ってしまった俺と兄ちゃんは、もう兄弟としての関係が破綻してしまっているわけだから、今更常識に囚われるのも馬鹿らしい。
もう兄ちゃんにとっていい弟ではなくなってしまった俺は、兄ちゃんを俺だけのものにするためなら、本当に何でもするつもりだった。
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