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第三章 嫉妬
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しおりを挟む俺と鵜飼先生の話し合い――というか、兄ちゃんを巡って牽制のし合いは昼休みが終わるまで続いた。
俺が兄ちゃんとヤることはヤってるって事実を聞かされた鵜飼先生は
『それはおかしいだろ』
だの
『兄弟でそれは不味くね? お前、本当にそれでいいのか?』
だのと、本格的に俺を諭してきたりもしたんだけれど、兄ちゃんとただならぬ関係になっている鵜飼先生に、そんなことを言われたくないと本気で思った。
本当は兄ちゃんにも一言
『ごめん。鵜飼先生に兄ちゃんとシてること言っちゃった』
って謝りたかったんだけど、今日の俺のクラスは数学の授業がなかったし、放課後になるなり兄ちゃんの姿を必死で探してみたんだけれど、兄ちゃんを見つけることができなかった。
なので、おとなしく家に帰って兄ちゃんの帰りを待っていたんだけれど――。
「ただいまぁ……」
午後七時前。いつもと大体同じくらいの時間に帰って来た兄ちゃんは酷く疲れた様子で、心なしか服もよれよれで乱れていた。
これは、もしかしなくても事後――ってやつなのでは?
「お……お帰り、兄ちゃん」
何となく予想はしていた。放課後に兄ちゃんの姿をいくら探しても見つからなかったのは、俺が兄ちゃんを見つけるより先に、鵜飼先生が兄ちゃんを拉致ったんじゃないかって。
今日、昼休みに鵜飼先生に呼び出された俺は、そこで鵜飼先生が兄ちゃんに三日間素っ気ない態度を取られている不満を聞かされたし、兄ちゃんとエロいことができていないという愚痴も聞かされた。
俺も兄ちゃんとセックスしてる事実を暴露したから、それを聞いた鵜飼先生が兄ちゃんを問い詰めないはずはないと思ったんだよな。
だから、俺は兄ちゃんが鵜飼先生に捕まる前に、兄ちゃんを見つけ出して兄ちゃんと一緒に帰ろうと思ったのに、その兄ちゃんは既に鵜飼先生に捕まった後だったらしい。
これは俺のミスだ。直接兄ちゃんに会えなくても、兄ちゃんの身に危険が迫っていることをメールで知らせておけば良かった。
だけど、普段一緒に住んでいる兄ちゃんにメールや電話を滅多にしない俺は、兄ちゃんに危険をメールで知らせるという、単純なことを思いつかなかったんだよな。
それにしても
(そんな如何にも〈ヤってきました〉って感じで帰って来ないで欲しいっ!)
少しボサボサになった髪の毛。まだ身体の火照りが収まっていないのか、ほんのりと赤い顔。そして、何よりも開いた襟元の下に見える真新しいキスマーク……。
いくら学校から家まで徒歩通勤だからって、そんなあられもない姿でフェロモン撒き散らしながらふらふら歩いていたら、いつどこで誰に襲われるかわかったもんじゃないよ。ほんと、兄ちゃんには危機管理意識ってものがないんだから。
「あのさ、兄ちゃん。そんなフェロモン全開な感じで外歩かないでもらえる?」
兄ちゃんに全く危機管理意識がないから、代わりに俺が兄ちゃんに注意を促してみたんだけれど
「あぁ? 誰のせいだと思ってやがんだぁぁぁぁ……」
心配そうな顔と、不機嫌そうな顔が半々の俺に向かって、兄ちゃんは物凄く怖い顔で凄んできた。
はい。俺のせいですよね。それはわかっているんだよ。
「てめぇが余計なこと言いやがったせいで、えらい目に遭っただろうがぁぁぁぁ」
「ごめん。でも……」
「でも、じゃねーんだよ。せっかく兄ちゃんがあいつらとの関係をどうにかしようと考えてるってのに、事を荒立てるようなことしやがってぇ」
「ほんとごめんって。でもさ、鵜飼先生だって悪いんだよ? 今日の昼休み、鵜飼先生が俺のクラスに来て、俺を呼び出したりなんかするから……」
「それは聞いた。あいつにも何でそんなことしたのか問い詰めてやったけど、俺がお前とヤってること知ったあいつは聞く耳なんか持たなくてよぉ……。おまけにそのことを遠山にも言いやがって、兄ちゃんは……兄ちゃんはなぁ……」
「え」
マジかよ。あの人、遠山先生にまで俺と兄ちゃんがヤってるって話したの?
何で言うんだよ。正気? 正気の沙汰とは思えないんだけど。
っていうか、そんな事実を遠山先生まで知っちゃったら、当然遠山先生も俺と兄ちゃんがシてることを面白くないと思うはずで……。
「んあ? ちょっ……! は⁉ おいおい待て待てっ! 何やってんだっ! お前っ!」
「いや、ちょっと……」
「意味わかんねーよっ! 何で脱がすんだっ! こっ……こらぁぁぁぁ~っ!」
兄ちゃんの疲労困憊っぷりと、未だに身体の火照りが収まっていない様子から、今日は相当激しいセックスをしてきたと想像される。
相手は鵜飼先生だと思っていたけれど、遠山先生も俺と兄ちゃんの関係を知ったってことは、二人掛かりで――ってことなのかもしれない。
だとしたら、その痕跡が兄ちゃんの身体には残っているはずで、それを確かめずにはいられない俺なのであった。
「馬鹿馬鹿っ! やめろっ! おいっ! 真弥っ! ぅあっ……!」
俺に服を脱がされそうになった兄ちゃんは必死に抵抗してきたけれど、抵抗する兄ちゃんの手を上手く躱しながら、何とか兄ちゃんのシャツのボタンを全部外すことに成功した俺は、ボタンの外れたシャツを左右にバッと開いてやった。
「っ……!」
兄ちゃんの首に真新しいキスマークが付いていたから、首以外のところにも付けられているんじゃないかとは思っていたけれど、これは……。
「ったく……脱がすなっつったのに……」
キスマークは兄ちゃんの身体の至る所に付けられていた。まだ兄ちゃんの上半身裸の姿を正面からしか見ていないけれど、この数は上半身だけで済まないことを物語っている気がする。
「兄ちゃん。全部脱いでよ」
上半身に付けられたキスマークを俺に見られた兄ちゃんは、酷く決まり悪そうな顔になって俺から顔を背けたけれど、兄ちゃんの身体に無数のキスマークを付けた二人に怒りが込み上げてくる俺は、このままおとなしく兄ちゃんを解放してあげるつもりはなかった。
「はあ⁉ 何言ってんだっ!」
俺に「全部脱いで」って言われた兄ちゃんはギョッとなると、焦った顔になって俺をまじまじと見てきた。
だけど、俺の真剣な眼差しがジッと自分に注がれていることに気付くと
「やだ……。何で俺が脱がなきゃいけねーんだよ。今はお前に裸見られたくねーのに……」
子供みたいに拗ねた顔になり、再び俺からぷいっと顔を背けてしまった。
その仕草は成人男性としては可愛過ぎるものではあったが、とても可愛いとは言えないキスマークの数は見逃してあげられないから、兄ちゃんが自分で脱がないのなら、俺が兄ちゃんの服を脱がすことにした。
「っ⁉ だっ……だからぁっ! 脱がすなっつってんだろっ!」
「ダメだよ。あの二人が兄ちゃんの身体のどこにキスマークを付けたのかチェックしなくちゃいけないから」
「チェックしてどうすんだよっ! やめっ……おいぃぃぃぃ~っ!」
強引に兄ちゃんの服を脱がせることにした俺は、立ったままじゃ服を脱がしにくいから、兄ちゃんの身体をひょいと抱き上げると、そのまま兄ちゃんをリビングのソファーへと連れて行った。
ソファーカバーが掛かっている方のソファーに優しく兄ちゃんを下ろすと、改めて兄ちゃんの服を脱がしに掛かったんだけど、俺に裸を見られたくない兄ちゃんは当然抵抗してきた。
「こらっ! 真弥っ! やめろっつってんだろっ!」
「やだ」
「何でだよっ! お前、最近ちっとも兄ちゃんの言うこと聞かねぇなぁっ!」
「そう?」
「そうだろがっ!」
口と身体の両方を使って抵抗してくる兄ちゃんに手間取りはしたものの、何とか兄ちゃんの服を脱がし終わった俺は、素っ裸にした兄ちゃんの身体を隅々までチェックしてみた。
さっきは服で隠れていた部分にも、数えきれないくらいのキスマークがしっかりと付けられている。
形や色の濃さ、大きさもバラバラなあたり、やっぱり二人の人間に付けられたキスマークなんだとわかる。
「クソっ……男の裸なんて見て何が楽しいんだよ、お前は……。ジロジロ見てんじゃねーよ……」
「これは楽しんでるんじゃなくて、兄ちゃんがいつも鵜飼先生や遠山先生とどんなセックスをしているかのチェックだよ」
見るからに疲れ果てた様子で帰って来た兄ちゃんだから、裸にされたところでエッチな気分になる様子はなかった。
それでも、二人の男に凌辱された後の兄ちゃんの身体というものも、俺の目には途轍もなくいやらしく見えてしまうから、俺はムラムラしてしまう。
もちろん、ムラムラするだけじゃなく、しっかりとヤキモチを焼いちゃうわけだけど。
「見ただけじゃわかんねーだろ。もういいだろ。退け」
俺に裸を見られることを嫌がっていたけれど、俺に裸を見られるのは初めてってわけでもないから、いざ見られてしまった後の兄ちゃんは半分諦めたみたいな顔だった。
それでも、キスマークだらけの身体を俺に見られるのはやっぱり嫌みたいで、その顔はとても不機嫌そうでもあった。
「そうでもないよ? こんだけキスマークを付けられてるってことは、あの二人が兄ちゃんを自分のものにしたいと思う気持ちの現れみたいなものだし。キスマークを付けられている場所で、どういうセックスをしているのかも何となく想像つくじゃん」
兄ちゃんに嫌がられつつも、兄ちゃんの身体に付けられたキスマークを一つ一つ確認していく俺は、頭の中でありとあらゆる想像を巡らせていた。
正直、それは全然楽しい想像ではなかったし、嫉妬で気が狂いそうにもなったけれど、兄ちゃんの身体にこれほどのキスマークを付けたあの二人は、やっぱり兄ちゃんのことをただのセフレだと思っていないことを確信した。
「たとえば……ほら、この位置にキスマークを付けるとしたら、その時の体勢はこう……とかさ」
太腿の付け根あたりにまで付けられたキスマークを見つけた俺が、兄ちゃんの太腿を持ち上げ、キスマークの上から兄ちゃんの太腿に吸い付くと
「っ……! なっ……やめろって!」
兄ちゃんは身体をビクッと震わせて、俺の頭をグッと押し返そうとしてきた。
だけど、そんな抵抗にめげず、兄ちゃんの太腿に強く吸い付いた俺は、あの二人のどちらかが付けたキスマークが俺のキスマークで消えるまで、兄ちゃんの太腿から唇を離すつもりがなかった。
前に兄ちゃんの首に初めてキスマークを見つけた時と同じように、俺は今、兄ちゃんの身体に付けられたキスマークを、全部自分の付けたキスマークで上書きしてやるつもりだった。
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