お兄ちゃん絶対至上主義☆

藤宮りつか

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第三章 嫉妬

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「と……遠山先生はどうなんですか? 遠山先生も鵜飼先生と同じ考えですか?」

 遠山先生とはほとんど喋ったことがない俺は、遠山先生の意見も聞いてみようと思ったんだけれど、普段口を利くことがない目上の人間に対して、少し遠慮した口調になってしまった。
 何で俺が遠山先生に遠慮しなくちゃいけないんだか。所詮この人も鵜飼先生と同じで、兄ちゃんを自分の思うようにしたがっている悪い大人だっていうのに。

「……そうだな。俺もおおむね鵜飼と同じ意見ではある」

 クソがっ! やっぱこいつもそういう人間かよっ! 兄ちゃんもセフレに選ぶ相手はもっとちゃんと考えるべきだったんだ。
 おそらく、酔った勢いと、こいつらの顔が良かったものだからうっかり流されちゃったんだろうけど、いざ関係を持ってみるとクソ面倒くせぇ奴らじゃん。

「ただ、俺は神崎のことを愛しているから、ただ欲情に流されているだけじゃない。神崎の意思は尊重してやりたいが、それで他の人間に神崎を奪われてしまっては元も子もないからな」
「はあ⁉」
「おいおい。それじゃまるで俺が真実ちゃんのこと、ただのセフレだとしか思ってない奴みたいじゃん。俺だって真実ちゃんのことは心から愛してるんだぜ?」
「なっ……!」

 今〈愛〉って言った? この二人、今兄ちゃんのことを「愛してる」って言いやがったのか?
 ふざけんなよ。何が「愛してる」だ。兄ちゃんのことを愛してるって言うなら、付き合ってもいない兄ちゃんとそういうことすんなよ。
 少なくとも、兄ちゃんは自分がこの二人から愛されているという自覚がない。自覚がないからこそのセフレなんだ。
 男にとって愛とセックスはイコールじゃないって言うし、愛している人間とセフレ関係なんて言語道断じゃね?
 もし、この二人が本気で兄ちゃんのことを愛しているのであれば、酔った勢いなんかじゃなくて、もっとちゃんとした形で兄ちゃんを堕としてみせろ――って言いたい。
 もしかしたら、男同士ってところがネックになって、そういう形を選んだのかもしれないし、最初は軽い気持ちだったけれど、段々本気になっていった――っていう可能性もあるっちゃあるけど。
 でも、俺の前で〈愛してる〉って言葉を使うのであれば、もっと俺にも兄ちゃんにも誠意ってものを見せて欲しいと思う。
 まあ、付き合ってもいないのに兄ちゃんとセックスしている俺は、二人のことを偉そうに言える立場でもないっちゃないけど。
 だけど

「な……何が〈愛してる〉だよっ! 愛してるって言うなら、兄ちゃんとセフレ関係なんてやめろよっ! そんないい加減な関係やめて、本気で兄ちゃんにアタックすればいいじゃんっ!」

 こっちは一応兄ちゃんに自分の気持ちを伝えているし、兄ちゃんには本気でアタックしているつもりだから、セフレ関係に留まっているだけの二人に、文句を言うくらいはしてもいいと思った。
 もちろん

「それ、お前が言う?」
「お前も結局は兄と不適切な関係になっているだけの弟に過ぎないじゃないか。弟としての愛情ならあるだろうが、恋愛的な意味で神崎に想われているわけじゃないだろ」

 二人からは物凄く厳しい批判が返ってきた。
 特に、遠山先生からの批判は辛辣なもので、俺の心を容赦なくえぐってきた。
 自分が兄ちゃんから恋愛的な意味で好かれているわけじゃないとわかっていても、第三者からまともに指摘されるのは辛いものがある。
 ほんと、この二人は兄ちゃんのことになると弟の俺にも全く容赦しないらしい。
 俺、兄ちゃんの弟なんですけど。兄ちゃんの大事な家族なんですけど。その俺に優しくしてやろうって気持ちはないわけ?
 最初に食らった批判でもダメージを受けたというのに、二人の俺に対する不平不満はそれだけじゃ終わらなかった。

「っていうか、俺達なんかよりお前の方がよっぽどズルいって感じなんだけど」
「そうだな。お前は弟という時点で、神崎から家族としての愛情を受けているんだからな」
「お前んとこ、早くに親亡くしてっから、真実ちゃんも弟のお前を思う気持ちが強めだし。八つも歳が離れてりゃ、弟の我儘を聞いてやらないわけにもいかねーもんなぁ」
「そういう意味では、お前が一番恵まれた環境だ。神崎の弟であるお前は、自分が兄に嫌われる心配というものがないからな。更に言えば、お前と神崎が血の繋がった兄弟である以上、お前と神崎の関係が切れることもない」
「ほんとそれ。こっちはどうやって真実ちゃんとの関係を繋いでおこうかって、日々思考を巡らせてるっていうのに。そういう心配を一切しなくていいお前はほんとズルい」

 一度言い出したら止まらないのか、俺への不平不満を言いたい放題な二人に、俺は口を挟む暇もないって感じだった。
 何で俺がここまで言いたい放題言われなきゃなんねーんだよ。俺だってこいつらに言いたいことは山のようにあるんだぞ。
 それなのに、大の大人二人が年下の高校生相手に、言葉の暴力でフルボッコってどういうこと?

「そもそもお前、真実ちゃんのこと本当に好きなの?」
「はあ⁉」

 極めつけは、俺に向かって兄ちゃんのことを本当に好きなのかと聞いてくる始末。
 好きに決まってんだろ。兄ちゃんのことが本当に好きじゃなかったから、兄弟でセックスなんてできるはずがない。
 それなのに、どうして俺は鵜飼先生に兄ちゃんへの気持ちを疑われなくちゃいけないんだよ。

「どういう意味だよっ! 好きに決まってんだろっ!」

 俺の兄ちゃんに対する純粋な恋心を疑われるのは心外だった。
 俺だって、自分が兄ちゃんのことを本当に好きなのかどうかを真剣に考えてみたんだよ。考えてみた結果、俺は兄ちゃんのことが本当に好きなんだって結論に行き着いた。
 自分で出した答えを俺以外の人間に疑われるいわれはないし、ましてや否定される筋合いだってない。
 しかしながら

「いやー、それはどうかな? だってお前、真実ちゃんのことは元々兄貴として好きだったわけだろ? その〈好き〉が恋愛感情になるものなのかって、俺としちゃいささか疑問なわけよ。お前の言う〈好き〉は結局のところ、弟として兄ちゃんのことが好きって気持ちの延長なんじゃないかと思ってよ」

 俺がどれくらい兄ちゃんのことを好きか知らない鵜飼先生は、兄ちゃんを好きだと言う俺の気持ちを疑うことしかしなかった。
 更に

「お前は神崎と俺達の関係を知ってしまったことで、兄を誰にも取られたくないという、弟としての独占欲が働いただけなんじゃないのか? 両親を早くに亡くしたお前が、たった二人だけの家族になった兄に依存し、執着するのは想像にかたくない。お前はそんな自分の感情を、恋愛感情だと勘違いしているだけなんじゃないのか?」

 遠山先生にまで俺の気持ちを疑われてしまい、俺は言葉を失ってしまうくらいのショックを受けた。
 どうしてそんな意地悪なことが言えるんだ。いくら俺に兄ちゃんのことを諦めて欲しいとしても、言っていいことと悪いことがあんだろ。

「大体、お前はちゃんとした恋愛だってまだしたことねーんだろ? それなのに、人を好きになるってことがわかってんのか?」
「なっ……!」
「そうだぞ。まずは普通の恋愛をしろ。そのうえで、自分が本当に実の兄に恋慕の情を抱いているかどうかを考えろ」
「……………………」

 昨日も散々鵜飼先生に兄ちゃんとの関係のことで口出しされたけれど、今日は遠山先生が加わったことで、俺のダメージ二倍って感じだった。
 肉体的には全くの無傷だけど、精神的にはマジでフルボッコって感じ。
 どうして俺がこんな目に? 俺、何か悪いことでもした?

「昨日も言ったと思うんだけどよ。お前、本当にそれでいいの? お前が真実ちゃんと俺達の関係が気に入らない気持ちもわかるけどさ。お前はお前でもっと自分の人生考えた方がいいんじゃね? 兄弟で結婚はできねーし。今まで生きてきた時間より、これから生きて行く時間の方が長いんだからさ」

 何やらもっともらしい言葉で話を締め括ろうとしているが、俺はちっとも納得がいかなかったし、自分を改めるつもりもなかった。
 もしかしたら、鵜飼先生には本当に俺の将来をうれう気持ちがあるのかもしれないけれど、俺の将来を決めるのは俺自身だ。俺の人生に責任を取るのも俺自身だ。アドバイスは受けても、誰かの言葉に強制されたくはない。
 そうは思っていても、たかだか十六年とちょっとしか生きていない俺は、俺より十年も多く生きている人生の先輩ってやつを納得させる反論なんてできないから

「言っとくけどな、これでも俺、お前のことは少なからず心配してやってるところもあるんだからな。一応教師って立場だし。お前は惚れた奴の弟でもあるわけだから、全く情がないってわけでもねーんだ」

 今更いい先生ぶる鵜飼先生に

(うるせーよ……)

 という、反抗的な感情しか抱けなかった。


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