お兄ちゃん絶対至上主義☆

藤宮りつか

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第三章 嫉妬

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 二日続けて学校で嫌なことがあった俺は

(明日は兄ちゃんじゃなくて、俺が学校休んでやろうかな……)

 なんてことを考えながら、兄ちゃんがいる我が家へと帰って来た。
 昨日は兄ちゃんがへとへとになって帰って来たけれど、今日は俺が精魂尽き果てた顔での帰宅である。

「ただいまぁ……」

 明らかに疲れ果てた顔と、だだ下がりなテンションで帰って来た俺を

「おー。お帰りぃ」

 兄ちゃんがリビングのソファーに座って迎え入れてくれた。
 どうやらもう動けるくらいには回復したみたいだし、朝はすこぶる悪かった機嫌もすっかり直っているみたいだ。
 充分な休息が取れて元気になった兄ちゃんは、よれよれな様子で帰って来た俺を見るなり

「どしたぁ? ひでー面じゃん。もしかして、学校であいつらに何か言われたのか?」

 少しギョッとした顔になって俺にそう言ってきた。
 ここで言う〈あいつら〉とは、日向や与一のことじゃなくて、鵜飼先生と遠山先生のことなんだと思う。
 昨日、あの二人と一悶着あった兄ちゃんは、俺が今日、あの二人に絡まれることは想定済みだったと思うし。
 もちろん、お察しの通りその予想は見事に的中し、俺はあの二人に散々嫌なことを言われたわけだけど

「兄ちゃん……」

 兄ちゃんの顔を見た瞬間、これまでずっと耐えてきた腹立たしい気持ちとか、悔しい思いが一気に溢れてきて、俺は鞄を放り投げると、兄ちゃんに勢い良く飛びついていった。

「いっ……! こらこらっ! 急にどうした⁉ 兄ちゃんまだ腰とかケツとかいてぇんだけどっ!」
「兄ちゃぁ~んっ!」

 充分な休息が取れたとしても、兄ちゃんの身体がまだ万全じゃないことはわかっているつもりだ。
 それを承知のうえで申し訳ないとは思うけど、俺は今、めちゃくちゃ兄ちゃんに甘えたい。甘えて甘えて、甘え倒して、兄ちゃんに優しく慰めてもらいたい。
 俺のこういうところがまだまだ子供だってことはわかっているし、自分が兄ちゃんの弟だって立場を利用していることもわかっちゃいるけど、兄ちゃんの弟として生まれてきた俺は、兄ちゃんに甘えられるのは弟の特権だと思うところもあって、兄ちゃんに甘えられる機会があるのであれば、思いっきり兄ちゃんに甘えたいという願望があった。

「ったく……。ちょっとは大人になったのかと思いきや、デカくなったのは図体だけかぁ? お前はほんとまだまだガキだな。どうした? 泣いてんのか? 兄ちゃんが慰めてやっから、何があったのか話してみな?」
「ん……うん……」

 泣くつもりはなかったんだけど、兄ちゃんに抱き付いた瞬間、兄ちゃんの感触と温もりに胸が熱くなって、自然と涙が零れてしまっていた。
 泣きたくなるくらい兄ちゃんのことが好きだって感情も込み上げてきたから、思わず涙が零れてしまったんだと思う。

「今日、学校でまた鵜飼先生に呼び出されたんだけど、今日は遠山先生も一緒にいて……」

 高校生にもなって兄ちゃんに泣きつく俺に、兄ちゃんは内心呆れているのかもしれない。
 それでも、俺の話はちゃんと聞いてくれようとする兄ちゃんに、俺は今日学校であった出来事を包み隠さず全部打ち明けていった。
 俺が鵜飼先生や遠山先生との会話を一言一句漏らさず兄ちゃんに伝えていると、兄ちゃんは何とも言えない微妙な顔になっていたけれど――多分、面倒臭い奴らだと思ったんだろう――、あの二人が兄ちゃんに本気だと知った時は

「え。あいつらってマジで俺のこと好きなの?」

 と意外そうな顔をしていた。
 でも、俺が思うに、あの二人の気持ちに気付いていなかったのは兄ちゃんだけなんじゃないかと思う。
 だって、俺は最初から疑っていたもん。あの二人は本気で兄ちゃんのことが好きなんじゃないかって。
 だから、兄ちゃんに

「兄ちゃんは本当に全く気付いてなかったの? あの二人に恋愛感情を抱かれてるって」

 って聞いてみたら、兄ちゃんからは

「そりゃヤってる最中に〈好きだ〉とか〈愛してる〉って言われたことはあるけどよぉ……。そんなのはフリだと思ってた。その場を盛り上げるためのリップサービスっつーか、雰囲気作りみたいなもんだと思ってた」

 という返事。
 言われてんじゃん。「好き」も「愛してる」も。それであの二人の気持ちに気付かないっていうのは、さすがにちょっとないかも。
 あの二人のことは本当に邪魔だしムカつくけど、そこはちょっと同情しちゃうかな。

「だってよぉ、最初が酔った勢いだったし、あいつらから正式に付き合いたいって言われたわけでもねーもん。俺も別にあいつらのことがそういう意味で好きってわけじゃねーから、お互いに身体だけの付き合いの方がいいんだろうって思ってた」

 まあ、最初が酔った勢いじゃ、そうなっても仕方がないのかもしれないし、ちゃんと告白をされていないのであれば、二人の言う「好き」も「愛してる」も兄ちゃんには響かなくて当然なのかもな。
 どうして二人が正式に兄ちゃんに交際の申し込みをしなかったのかは何となくわかる。きっと怖かったんだろうな。勇気を出して兄ちゃんに告白して、兄ちゃんに拒まれてしまうかもしれないことが。
 だから、シている最中のどさくさに紛れて伝える「好き」と「愛してる」が、あの二人には精一杯の求愛だったのかもしれない。

「じゃあ、兄ちゃんは俺の気持ちも本気じゃないと思ってる? 兄ちゃんは俺とも身体だけの関係だと思ってるの?」

 今日あった出来事を全部兄ちゃんに話し終わった俺は、自分も兄ちゃんからそう思われているのかどうかが心配になって、不安いっぱいな顔で兄ちゃんに聞いてみた。
 もし、俺のこの気持ちが兄ちゃんに一ミリも届いていないのであれば、俺は物凄く悲しい。俺の中では一生懸命兄ちゃんに自分の気持ちを伝えているつもりだから、それが全く伝わっていなかったとしたら、俺はマジで凹む。

「いや……。お前の気持ちは本気だと思ってる。一応〈好き〉って散々言われてるし。むしろ、本気じゃねーと困るっつーか……」
「ん?」
「だってよぉ……兄弟でそういうことしてるのって、やっぱ普通じゃねーじゃん? だからぁ、そこは本気であってもらわねーと……って思っちまうんだよなぁ」
「安心して。俺、兄ちゃんのこと、マジで死ぬほど大好きだから」

 俺の気持ちが伝わっているというよりは、半分兄ちゃんの願望が入っているみたいではあった。
 それでも、兄ちゃんの中では俺の気持ちが本当であると思ってもらえているようだから良かった。
 っていうか、どうして兄ちゃんには自分が愛されてるっていう自覚が薄いんだろう。兄ちゃんって絶対人から好かれることが多いはずなのに、そういうところの自信ってないのかな?
 いくら兄ちゃんが他人の感情に疎いといっても、人からの好意って普通は感じられない?
 まあ、好意と同じくらい、人からの悪意ってものも人間は感じやすいものだと思うけれど。
 でも、そっか。兄ちゃんは俺の気持ちを本気だと思ってくれているんだ。本気だと思ったうえで、俺とセックスもしてくれているわけだ。そこは素直に嬉しいかな。

「で? お前はあいつらに言いたい放題言われて何がそんなに嫌だったんだ? あいつらに自分の気持ちを疑われたのか嫌だったのか?」
「それもあるけど……。俺が弟の立場を利用してるって言われたのが嫌だったんだよ。兄ちゃんも俺が弟の立場を利用して、兄ちゃんに自分の我儘を通してるって思う?」

 早くに両親を亡くして以降、兄ちゃんはそれまでよりもずっと俺に尽くしてくれるようになった。それは兄ちゃんの中でも自覚があるんだと思う。
 俺のために何でもしてくれる兄ちゃんに

〈兄ちゃんは俺の我儘を何でも聞いてくれる〉

 と、俺が思ってしまったところはある。
 だけど、それを利用しようと思うことはほとんどないし、ましてや、それを利用して兄ちゃんと兄弟の一線を越えたいと思ったことは一度もない。
 でも、兄ちゃんはどうなんだろうって思う。
 俺が兄ちゃんに手を出そうとした時、兄ちゃんも最初は拒否の姿勢を見せてきた。
 それなのに、俺が強引に迫ったところはあるから、心の中で兄ちゃんは

〈俺が弟の我儘を拒みきれないってわかってる癖に……〉

 とか思っていたらどうしよう。

「ん~……。まあ、ちょっとはそう思うところがあるっちゃある。だって俺、お前の我儘は何でも聞いてやっちまうし。お前もそれはわかってると思ってるからなぁ」
「う……」

 やっぱそう思われてた。俺ショック。
 そりゃね、俺だって兄ちゃんのそういう気持ちを全く利用しなかったわけじゃないから、そう思われても仕方がないところはあるよ。
 結局、兄ちゃんとセックスしたのだって、俺が自分の欲望と我儘を通したってことになるし。今もそうだと思っている。
 いつも俺の我儘に付き合わせてごめん、って気持ちもあるっちゃあるけど、それは俺が兄ちゃんの弟だからってことじゃなくて、俺は兄ちゃんのことが好きだから、そうしたいって思っているわけで……。
 って、そんなのはただの言い訳かな。だって俺、心のどこかで〈兄ちゃんは俺を拒めない〉って思っちゃってるもん。
 俺に兄ちゃんの弟を思う気持ちを利用しているつもりはなくても、兄ちゃん的には自分のそういう気持ちを利用されてるって思っちゃうよな。

「でもま、別にそれはそれでいいんじゃね?」
「え?」
「だって、それが弟の特権ってもんだろ」
「兄ちゃん……」

 あぁぁぁぁ――っ! 兄ちゃん格好いいっ! そして可愛いっ! 俺の前では無条件に優しい兄を演じてくれる兄ちゃんに、俺は兄ちゃんが好き過ぎて辛いっ!
 こんなに弟思いな兄ちゃんって他にいる⁉ 多分いないと思う。俺の兄ちゃんは世界で一番優しい兄ちゃんだと思う。
 こんな兄ちゃんを好きにならない弟はいない。弟としてだけではなく、弟として以上に俺が兄ちゃんを好きになってしまうのは最早必然ってものだ。

「でも、我儘も大概にしろって思うこともあるっちゃあるんだからな。そこは肝に銘じとけぇ」
「……はい。善処します……」

 最後にちょっと厳しいことも言われちゃったけど。
 でも、兄ちゃんも俺の我儘が別に嫌ってわけじゃないんだとわかると、俺もちょっと安心した。
 あんまり我儘言わないようにしたいけど、弟である以上、やっぱり兄ちゃんに甘えたくなる時はあるもんな。
 だから、なるべく兄ちゃんを困らせない範囲で、たまには我儘言って兄ちゃんに甘えようと思う。

「あいつらにも言っとくな。あんま真弥に余計なこと言うなって」
「あー……うん。それはありがたいんだけど、言った後は気をつけてね。あの人達、兄ちゃんのことになるとすぐ見境なくしちゃうから」
「お前がそれ言う? 大丈夫だって。兄ちゃんだっていつもヤられっぱなしってわけじゃねーんだからな」
「ならいいけど……」

 弟の前だからか、何やら自信満々な顔の兄ちゃんだけど、その言葉に関してはあまり信用できないものがあった。
 確かに、連日あの二人とセックス三昧な日々を送っているわけじゃなさそうだから、兄ちゃんも拒む時はしっかり拒んでいるってことなんだとは思う。
 ただ、二人を拒みきれない時もあるっていう事実が、俺を堪らなく不安にさせてくれるんだよな。

「そうだ。兄ちゃん、今日一緒に寝よ」
「はあ⁉ 言ってるそばからお前はっ! 今日はもうヤんねーぞっ!」
「じゃなくて、俺のベッド、昨日のままだからシーツが……」
「洗えぇっ! 今すぐ洗濯機回せぇっ!」

 兄ちゃんのことがどうしようもなく大好きな俺は、こうして兄ちゃんと一緒に過ごす時間を幸せだと思う反面、兄ちゃんが自分以外の誰かに抱かれているという事実に、嫉妬で胸が焼け焦げそうだった。


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