お兄ちゃん絶対至上主義☆

藤宮りつか

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第四章 秘密

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「お? 何だぁ? 懐かしい客が来てんなぁ」

 結局、日向との話がそう簡単に終わらなかった俺は、時間を忘れて日向と話し込んでいるうちに兄ちゃんが帰って来てしまい、家にいる日向の姿に兄ちゃんはちょっと驚いた顔だった。

「お帰り、兄ちゃん」
「お……お邪魔してます……」
「あの馬鹿どうしたぁ? 姿が見えねぇけど」

 あの馬鹿とは、言わずもがな与一のことである。
 日向が家にいるということは、与一も一緒だと兄ちゃんは思ったのだろう。
 仮にも今は自分の教え子でもあるというのに、〈あの馬鹿〉はちょっと酷いんじゃないかって気もするけど。
 でも、与一の兄ちゃんに対する反抗的な態度は問題があるし、与一は兄ちゃんが担当する数学の成績が壊滅的に悪い。兄ちゃんに馬鹿呼ばわりされても仕方がないところがある。

「今日は与一いないよ。清良とデートなんだって」
「は? どういうことだ? あいつら付き合ってんの?」
「じゃなくて」
「日向いいのか? あんなのに大事な妹預けちまって」

 どうやら与一は清良だけじゃなく、兄ちゃんにも「男としてどうなん?」と思われているらしい。
 まあ、それも当然と言えば当然だ。

「ええ、まあ……。今日は俺が清良に頼んで与一とデートしてもらっているので……」
「何だそりゃ。益々意味がわかんねーなぁ。つーか、何で日向はそんなによそよそしいんだ? よそよそしいっつーか、怯えてる? 俺、日向に何かしたか?」

 あー……。それ、いきなり言っちゃう? それについては後で俺から説教込みで説明しようと思っていたのに。早速兄ちゃんがそんなこと言っちゃったら、今ここで説明しなくちゃいけなくなるじゃん。
 ま、いっか。どうせ後で言うつもりだったし。日向にはもう兄ちゃんの秘密がバレてしまっているわけだから、兄ちゃんに注意を促すためにも、実際の目撃者がいる前で兄ちゃんに説明してあげた方がいいよな。
 でもって、ある意味被害者の日向に謝罪の一つでもさせてしまおう。

「そりゃ怯えもするっつーの。日向、この前の兄ちゃんとあの二人の情事を目撃しちゃったんだから」

 俺の口から思いもよらない言葉が飛び出したものだから

「え。マジ?」

 兄ちゃんの顔はサーっと青褪め、恐ろしいものを見るような目で日向を見た。

「す……すみません……。覗き見するつもりはなかったんですけど、最近真弥の様子がおかしかったし、真弥が鵜飼先生に呼び出された後だったから、もしかしたら二人で真弥の話をするのかと思って……。こっそり後をけちゃったんです。そしたら、そこには遠山先生もいて……」

 日向は兄ちゃんとあの二人の凄いことをしている場面を「見ちゃった」と言っていたけれど、普通、ああいう場面は偶然見ようと思って見れるものではない。見るべくして見たっていうか、見ようとして見なきゃ見れない場面ではあるよな。
 だから、俺も兄ちゃんが帰って来るまでの間に、そのあたりの経緯を日向に聞いてみた。
 兄ちゃんと鵜飼先生が一緒にいるところを見掛けた日向は、今言った理由から、二人をこっそりけたそうだ。
 二人が向かった先は体育準備室――ではなく、生徒どころか教師も滅多に利用することがないという、校舎四階の隅にひっそりと存在している書庫だったそうだ。
 鵜飼先生が声を掛けると、中から遠山先生が出てきたらしい。
 その時点で、日向は俺の話じゃないのかと思い、一度はその場を後にして、そのまま家に帰ろうとしたらしい。
 だけど、どうしても気になってしまい、再び四階に向かい、周りに人の気配がないこと充分に確認してから、書庫のドアに耳を当ててみると、中から艶かしい兄ちゃんの声が聞こえてきた――と。
 中で一体何を? と思った日向が、そっとドアノブに手を掛けてみると、ドアに鍵が掛かっていなかったから、そのまま静かにドアを開けてみたら――ってことらしい。
 中から聞こえてくる兄ちゃんの声を聞いた時点で、日向も中で何が行われているか気付けば良かったんだけどな。
 まさか男三人でそんなことをしているとは日向も思わないから、逆に兄ちゃんに何かあったんだと心配してしまったそうだ。
 日向が俺と兄ちゃんの関係に気付いていないのも、日向が一度はその場を立ち去っていることに関係している。
 多分、最初にそういう話が出ていたはずなのに、その時は日向も家に帰ろうとしていたから、俺と兄ちゃんの関係について兄ちゃんを問い詰める鵜飼先生や遠山先生の発言を、日向は一切聞いていなかったってことだ。俺にとってはラッキーだったと思う。
 まあ、日向に兄ちゃんが犯されている姿を見られてしまったことは複雑だけど、日向も見たくて見たわけじゃないもんな。そこはもう仕方がないってことで諦めるしかない。
 ドアに鍵を掛けていなかった三人も悪いんだから。

「う……嘘だろ。何で? だって、鍵……」
「掛かっていませんでした」
「~っ⁉ あいつらぁっ!」

 きっといつもはちゃんと鍵を掛けているんだろうな。学校でそういうことをしている以上、鍵と音には充分注意を払っているはずだもん。
 でも、たまにその注意を怠ることもある。そこは毎回しっかり確認しろよ、って感じだけど。

「…………ちょっ……ちょっと待てっ! 日向が知ってるってことは、あの馬鹿も……」
「知りませんっ! 俺、言ってませんっ! 他の誰にも言うつもりありませんからっ!」
「そ……そっかぁ……」

 おいこら。何ホッとした顔になってんだよ。〈日向にしかバレてなくて良かった〉って安心してる場合じゃないんだよ。そこはもっと注意と反省をしろって話なの。
 ほんと、わかってんのかなぁ? 兄ちゃんは。俺は日向に見られたってわかった時点で、他の人間にも見られている可能性を疑ったのに。
 だって、兄ちゃんとあの二人の関係って一年以上も続いてるんだよ? 日向が見たってことは、他にも誰か見ている人間がいるんじゃないかって思う方が自然じゃん。
 まあ、もし見られていたとしたら、もっと大事になっているよな。いくら相手が生徒じゃなくても、教師が学校でセックスしているだなんて大問題なんだから。学校でそういうことをするのであれば、絶対にバレないという自信を持って事に当たって欲しいものだ。
 もっと言えば、一番いいのは学校でヤらないという選択なんだけどな。

「だから、今日は日向だけがうちに来てんのか。悪かったな。変なもん見せちまって」
「ほんとですよっ! 俺、もう心臓が飛び出るくらいにびっくりしたんですからねっ! 学校でそういうことしないでくださいよっ!」
「マジごめん。気を付ける」

 兄ちゃんが本当に反省しているのかは怪しいところがあるけど、兄ちゃんも日向に悪いことをしたという気持ちはあるみたいだから、そこは素直に謝っていた。
 もしかして、見られて恥ずかしいって気持ちはあんまりないのかなぁ。兄ちゃん淫乱だから、人に見られるのは見られるので興奮しちゃうとか?
 兄ちゃんが学校であの二人とスるのを良しとしているのだって、実は密かに「誰かに見られたら……」というスリルを味わっているのだとしたらどうしよう。
 兄ちゃんはもう充分に破廉恥なんだから、これ以上破廉恥にならなくてもいいよ、って言いたい。

「俺とあいつらの関係を知っちまったってことは、じゃあ俺と……」
「っ!」

 どうして日向が一人だけで家に来たのかの理由を理解した兄ちゃんは、自分とあの二人の仲を知った日向が、俺と兄ちゃんの関係も知ったものだと思ったらしい。
 それを確認するように俺を見てきた兄ちゃんに

「~っ!」

 そこはまだバレていないことを伝えるために、俺はブンブンと首を横に振って、兄ちゃんに「言うなっ!」と合図した。

「?」

 兄ちゃんは必死な顔で首を横に振る俺を見て、最初はわけがわからなさそうに首を傾げていたが、俺の目が「言わないでぇ~っ!」と兄ちゃんに訴えかけると

「ああ……うん。何でもねぇ」

 ようやく俺の言わんとするところを理解してくれたようだった。
 何事もなかったかのように自分の発言を取り消すと、自分には何もやましいところはないと言わんばかりの涼しい顔をしていた。
 ほんとにもう……。何かにつけていちいち危なっかしいんだから。最近の俺は兄ちゃんを見ているとヒヤヒヤさせられちゃうよ。

「ところで、今から晩飯作んだけど、日向も食ってくかぁ?」

 そして、自然な流れで話題を変えてしまい、これ以上自分に不都合な会話が出てこないように仕向ける兄ちゃん。
 こういうところは上手いなって思うけど、だからって油断は禁物だ。
 もし、ここで日向が「そうします」って答えちゃったら、そのぶん俺達兄弟と日向が一緒に過ごす時間が増えてしまい、いつどこで俺と兄ちゃんの関係がバレてしまうかわからないもんな。
 元々兄ちゃんって自分の発言をあまり気にしないところがあるから、うっかり余計な発言をしちゃって、俺と兄ちゃんの関係があっさり日向にバレてしまう可能性はある。
 だけど、四人兄弟の長男であり、今日は妹の清良に無理なお願いをしている日向は、家のことが気になるのか

「お言葉は嬉しいですけど、今日はもう帰ります。清良のことも気になるんで」

 との返事。
 兄ちゃんも気軽に日向を誘っただけだから、日向に誘いを断られたところで嫌な顔はしなかったし、俺もちょっとホッとした。
 っていうか、兄ちゃんも断られることを前提に日向を誘ったような気がする。
 一応教師をやっている兄ちゃんは、あまり遅くまで生徒を家に帰さないのは良くないって思ったんじゃないかな。
 もう夕飯時なんだってなれば、日向も「そろそろ家に帰らなきゃ」ってなるもんな。


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