お兄ちゃん絶対至上主義☆

藤宮りつか

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第四章 秘密

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「にしても、凜の彼女がああいう女だったとはなぁ……」

 凜さんや桃さんと家で夕飯を食べ、夕飯を食べ終わった二人を家の前で見送った後の兄ちゃんは、家の中に戻るなりそう言った。

「確かにちょっと意外だと思ったけど、普通にいい人だったし可愛かったじゃん。何だかんだとお似合いだと思うし」
「まあなぁ……。別に悪かねぇけど、俺はあの手の女はちょっと苦手だなぁ。元気過ぎるっつーか、一緒にいて落ち着かねぇんだわ」
「ふーん……そうなんだ」

 桃さんに何か不満でもあるのかと思ったら、ただ兄ちゃんの好みではないってことらしい。
 そんな気はしたけどね。だって兄ちゃん、桃さんの元気と勢いに始終押されっぱなしって感じだったもん。
 でも、これで兄ちゃんの好みが少しわかった。兄ちゃんは一緒にいて楽しい人より、一緒にいると落ち着く人の方がいいってことだ。
 そう考えた時

(俺はどっちなんだろう……)

 と思う。
 俺、兄ちゃんと一緒にいる時は元気いっぱいって感じではないと思うけど、だからって落ち着くっていうのとはちょっと違うと思う。
 ずっと一緒に暮らしてきた兄弟だから、一緒にいるのが当たり前で、気を遣わなくてもいい存在って感じかな。
 まあ、それを言ったら鵜飼先生や遠山先生だって一緒にいて落ち着くタイプではないよな。
 特に鵜飼先生には翻弄されっぱなしって感じがするし、遠山先生は…………よくわからないな。遠山先生って何を考えているのかわかんないんだもん。兄ちゃんと二人きりになった時はどんな感じなのかも想像がつかないし。
 でもまあ、俺、鵜飼先生、遠山先生の三人共、兄ちゃんの好みのタイプではない気がする。

「真弥はああいう女がタイプか? ま、高校生は好きそうだもんな。ああいう女」
「何言ってんの? 俺のタイプは兄ちゃん一択なんだけど」
「…………お前、それよそで言うなよ? 変な奴だと思われるから」
「そうかなぁ?」

 何でいきなり俺のタイプの話だよ。俺のタイプより兄ちゃんのタイプを教えて欲しいわ。
 それに、俺は兄ちゃんが好きだって言ってんだから、俺の好みのタイプは兄ちゃんに決まっているのに。
 こういうことを当たり前に言ってくるあたり、兄ちゃんが俺のことを恋愛対象として全く見てくれていない証拠みたいなものだよな。

「そうに決まってんだろ。何が〈そうかなぁ?〉だ」
「むぅ……」

 あえて自分から言い触らすつもりはないけど、好みのタイプを言えと言われたら、俺は堂々と胸を張って言える度胸はある。

『俺のタイプは兄ちゃんだ』

 って。
 それくらい俺は兄ちゃんのことを想っているんだから、いい加減兄ちゃんも俺に愛されている自覚を持って欲しいものだ。

「でもまあ、凜の彼女を直接拝めて良かったとは思うな。俺の好みじゃねぇけど面はいいし。お前の言うように悪い女じゃなさそうだしな」
「へー。タイプじゃなくても可愛いとは思うんだ」
「そりゃまあ一般的な感性っつーか、一般論で言えば可愛いになんだろ」
「ふーん……そうなんだ」

 桃さんが兄ちゃんの好みではないことは充分にわかって安心するものの、兄ちゃんが桃さんのことを可愛いと思っているところはちょっと面白くない。
 そりゃ俺も桃さんのことは普通に可愛いと思ったけど、俺が桃さんを可愛いと思うのと、兄ちゃんが桃さんを可愛いと思うのはまた別っていうか……。
 俺はヤキモチ焼きだから、自分の好きな相手が自分以外の人間を褒める発言をするのが嫌なのかもな。
 自分のこういうところを子供っぽいと思うけど、まだ高校生の俺には人を好きになった時の心の余裕がないんだと思う。
 何せ俺、兄ちゃんが初めてだもん。本気で好きになった相手も、肉体的な関係を持った相手も兄ちゃんが初めてだから、俺の頭の中は常に兄ちゃんのことでいっぱいだ。
 そんな俺だから、兄ちゃんの気持ちがちょっとでも俺じゃないところに行ってしまうとすぐヤキモチを焼いちゃうし、「俺だけを見てよっ!」って気持ちになってしまう。

「んだよ。その不満そうな顔。お前だってあの女のことは可愛いって言っただろ」

 どうやら不満に思う気持ちが顔に出ていたようで、逆に兄ちゃんから不満そうな顔をされてしまった。

「言ったけどぉ……。でも、俺が言うのと兄ちゃんが言うのとではちょっと違う気がするんだもん」
「何が違うんだよ。同じだろ?」
「同じじゃないよ。だって、兄ちゃんは俺がそう言ったところでヤキモチなんか焼かないじゃん」
「え。何? お前、今のでヤキモチ焼いてんの?」
「うん」
「あり得ねー。どんだけヤキモチ焼きなんだよ。タイプじゃねぇっつってんのに」

 俺が兄ちゃんの発言にヤキモチを焼いたと知った兄ちゃんは、不満そうな顔から一転、ちょっと驚いた顔になっていた。
 ほんの些細なことでもヤキモチを焼いてしまう俺に呆れているのかもしれない。
 でも、兄ちゃんだって知っていると思うんだよな。兄ちゃんのことになると、俺が物凄くヤキモチ焼きだってこと。
 今まで兄ちゃんの身に起こった俺に関するあれやこれは、結局のところ全部俺のヤキモチだったり、兄ちゃんに俺だけを見て欲しいと思う、俺の強い独占欲だったりするわけだから。
 だけど、そういうヤキモチ焼きなところとか、強過ぎる独占欲って兄ちゃん的にはどうなのかな。
 束縛されることを嫌う人間は多いと思うから、面倒臭いと思われたりするのかな。

「ごめん。俺って面倒臭いよね」

 兄ちゃんの口から「面倒くせぇ奴だな」とは言われたくない。だから、自分から先にそう言って謝ってみると

「別にいいけどよぉ……。ただ、お前が何でそんなに俺のこと好きなのかはほんとよくわかんねぇわ」

 兄ちゃんは俺にヤキモチを焼かれること自体は別に嫌じゃなさそうだったけれど、俺が兄ちゃんを好き過ぎる理由は心の底から不思議そうな顔だった。
 俺から言わせてもらえば、どうして俺が兄ちゃんを死ぬほど好きになる理由がわからないのか、そっちの方が不思議なんだけどな。
 でもまあ、兄ちゃんって自分が人からどう思われているのかにはあまり興味がないし、自分の魅力ってやつにも全く気付いていない様子だから、俺が兄ちゃんを好きになる理由が全く理解できないんだろうな。
 ただでさえ、俺と兄ちゃんは血の繋がった兄弟だから、弟の俺が兄ちゃんに恋愛感情を抱くことすら、兄ちゃんにとっては理解不能な難問みたいなものだろうし。
 それでも、その弟とセックスはできてしまう兄ちゃんは、ようやく兄ちゃんと二人きりになれて、兄ちゃんに触れたくてうずうずしている俺の気持ちに気付いたのか

「今日はスんのかぁ? スるならシてもいいけど」

 そう言ってきた。

「……………………」

 一瞬何かの聞き間違いかと思ってしまった俺は、自分の耳を疑いそうにもなったけれど

「…………スるぅっ!」

 兄ちゃんの方からそんなことを言ってくれるなんて今までになかったことだから、慌てて兄ちゃんの言葉に返事を返した。
 これって兄ちゃんからのお誘いって思ってもいいのかなぁ。誘っているというよりは、「どうせスるんだろ?」みたいな感じではあったけど。
 でも、いつもは俺から行動を起こしてそういう流れを作っているから、兄ちゃんから「スるならシてもいいけど」なんて言われると、それだけで有頂天になってしまう俺がいる。
 一体どういう風の吹き回しなのかは知らないけど、ひょっとして凜さんと桃さんの仲睦まじい様子を見て、自分も誰かとイチャイチャしたい気分になっちゃったのかな?
 もしくは、桃さんの立派なおっぱいを見て、男としての性欲が刺激されたとか。
 それだとどちらにしても俺が兄ちゃんの都合に付き合わされているだけになっちゃうけど、兄ちゃんとなら毎日でもセックスしたいと思っている俺は、自発的に俺とセックスしてもいいという気持ちになってくれている兄ちゃんを逃すわけにはいかなかった。

「んじゃベッド行くか」
「うんっ!」

 テンション的には今からセックスをするというより、寝る前に絵本を読んでもらえる子供みたいになってしまっている。
 が、俺と兄ちゃんは今から絵本には絶対描けないようないかがわしい行為をするのである。


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