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第四章 秘密
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しおりを挟む結論から言うと、上村先生と日向は付き合っていて、俺と兄ちゃんの関係も日向の知るところになってしまった。
元々上村先生は兄ちゃんと鵜飼先生や遠山先生の関係については知っていた。俺と兄ちゃんの関係も最近知ったばかりだという。
(どうして上村先生が?)
当然疑問に思った俺は、まさか上村先生も兄ちゃんとあの二人のいかがわしい行為を目撃してしまったのではないかとハラハラしたが、何のことはない。鵜飼先生から聞いたそうだ。
(何で言うの⁉ 馬鹿なの⁉)
そう思ったけれど、鵜飼先生と上村先生は同期で仲もいいそうだ。教師一年目の頃から一緒に飲みに行ったり、仕事の話を沢山してきたから、兄ちゃんのことも鵜飼先生は早い段階で上村先生に話していたらしい。
もちろん、それを知ったからといって、他の人間に言い振らすようなことはしなかったみたいだけど、日向から「最近真弥の様子がおかしい」と相談された時は少し心配になって、兄ちゃんにそれとなく俺を気遣うように忠告してくれたそうだ。
(なるほど。それで……)
俺と兄ちゃんの関係がちょっと気まずくなっていた時、兄ちゃんが上村先生に言われて俺と話をしようと思ってくれた背景には、そういう事情があったのか。
つまり、あの頃にはもう上村先生と日向は付き合っていたことになるわけだ。
二人が付き合い始めたのは、日向が二年生に進級する少し前。
俺は一年の時、日向や与一とは違うクラスだったけれど、日向は一年の時も上村先生が担任だった。
多分、その時に二人の間で何かがあったんだろう。生徒と教師から、恋人同士になるような何かが。
でも、まさか日向に恋人がいるとは思わなかった。しかも、男の恋人がいるなんて。
自分の身近に男同士のカップルがいるとは思っていなかった俺は、まさに寝耳に水ってやつである。
「まさかあんたが生徒に手を出すとはなぁ……」
「教師としては切腹ものの許されない行為かもしれないが、そうなってしまったものは仕方がない」
「いつの時代だ。何も切腹するこたぁねーけどよぉ。教師らしからぬ行為をしてんのは俺も一緒っつーか、人のこと言えたもんじゃねーし」
「そうだな。確かに君の方が問題のある行為をしているな。俺は生徒と付き合ってはいるが、まだ何もしていない清らかな関係だ」
「は? マジ? 何もしていない? 付き合ってんのに?」
「そうだ。日向が高校を卒業するまでは清らかな付き合いでいようと思う」
「……………………」
日向と上村先生が付き合っていると知り、それなら日向も……と思ってしまった俺は、二人の関係がただの恋人同士でしかない事実にちょっと驚いた。
でもまあ、俺と違って教師と生徒の立場がまず先に立つ二人は、日向の在学中に何かしようとは思わないのかもしれない。
万が一バレたら二人とも確実に立場が悪くなるもん。日向は退学、上村先生はクビ――なんてことになったら、お互いに責任の取りようがないもんな。
俺と兄ちゃんの場合、教師と生徒以前に兄弟だから、家の中で俺達が何をしていようと、どういう関係になってしまおうが、それはもう家庭の問題になる。問題なのは俺と兄ちゃんの関係ではなく、兄ちゃんとあの二人の関係だから、兄ちゃんはそっちの心配を怠らないで欲しいと思う。
まあ、兄ちゃんもそれくらいわかっていると思うけどね。さっき言った「人のこと言えたもんじゃねーし」っていうのも、俺との関係を言っているわけじゃなくて、あの二人との関係を言っているんだと思う。兄ちゃんの言う「教師らしからぬ行為」は、あの二人と学校でセックスしていることを指しているはずだ。
自分がそんないかがわしい行為をしているものだから、上村先生と日向の関係が清らかなものであることに驚く兄ちゃん。
自分は付き合ってもいない三人の人間とセックスをしている兄ちゃんにとって、付き合っている日向と上村先生が何もしていない恋人関係であることが信じられないんだろう。
そこは責任感や価値観、立場の問題でもあるから、一緒じゃなくて当然だと思う。
早い話、上村先生は兄ちゃんより責任感が強く、教師としての自覚があり、生徒である日向を守る意志が強いということだ。
それだけ日向を大事にしてるってことなんだろうな。
もっとも、兄ちゃんは手を出す側じゃなくて出される側の人間だから、そこの違いも大きいと思うけど。
「付き合っていても、状況と立場によっては超えてはいけない一線があると思う。それに、今は俺も日向も一緒に過ごす時間があるだけで満足だから、急いで関係を深める必要もないしな」
「ふーん……そういうもんかねぇ。俺にはちょっと理解できねぇけど」
上村先生の考え方を否定することはしなかったけれど、恋人とただ一緒にいるだけで満足だと言う上村先生の気持ちは、兄ちゃんに理解できなかったらしい。
そこは俺もちょっと同感かな。
確かに、好きな人と一緒にいられる時間は大切だし、それだけで満足って気持ちもあるっちゃあるけど、人には欲望があるもん。性欲があるもん。好きな人と一緒にいたら、もっといろんなことがしたくなるものじゃない?
片想いの相手でもそういう願望があるのに、両想いなら尚更に。
まあ、相手が日向ならそれも致し方ないって気はするし、上村先生は兄ちゃんと違って性欲の制御が上手くできる人みたいだから、お互い今の関係で充分満足だと思えるのかもしれないけどさ。
でも、日向だって男だし、ぶっちゃけ今が一番そういうことに興味があるお年頃じゃない? 上村先生とシたいって気持ちにはならないのかな。
「日向もそれで満足なのか? こう言っちゃなんだけど、お前と同い年のこいつは結構性欲旺盛だし、頭ん中じゃ俺とスることばっか考えてるっぽいけど」
「兄ちゃんっ!」
余計なこと言わなくていいんだってばっ! 確かに俺は兄ちゃん相手だと性欲旺盛っぷりも甚だしいし、頭の中では兄ちゃんとスることばっか考えてるのかもしれないけど、それは兄ちゃん限定っていうか……。元々の俺が性欲旺盛なわけではないし、俺が常にエロいことばっか考えてるわけでもないんだからな。
「ぉ……俺は真弥と違いますからっ! もちろん、上村先生も真実さんとは違うんだからっ! いいんですっ! 俺は今のままでっ!」
ほら。兄ちゃんが余計なこと言うから日向が怒っちゃったじゃん。
まあ、その前から機嫌を損ねているようではあったんだけどな。
せっかくの上村先生とのデートを俺達に邪魔されたうえ、俺が日向に隠し事をしていたこともバレちゃったわけだから。そりゃ日向も機嫌が悪くなるってものだよな。
でも、隠し事をしていたのは日向も一緒だから、そこは俺だけが責められるところじゃないと思う。
もしかしたら、俺が兄ちゃんとの関係を素直に白状していれば、日向も自分と上村先生の関係を俺に明かしていたかもしれないけれど、日向が上村先生と付き合っているだなんて思いもしなかったんだから、俺も兄ちゃんとの関係を言い出せなかったんだよな。
本当は日向も俺に上村先生との関係を明かしたくて、俺に「腹を割って話そう」って言ったところがあったのかも。
だけど、俺と兄ちゃんの関係がただの兄弟のままだと思った日向は、俺に自分の話ができなかったのかもしれない。
でもまあ、こうしてお互い秘密にしていたことを教え合ったんだから、これからはそういう話をすればいい。
ちなみに、俺と兄ちゃんの関係を日向に暴露したのは兄ちゃんだ。
日向と上村先生の関係を知った兄ちゃんが、「だったらお前も言わなきゃダメだろ」なノリで話してしまったのだ。
鵜飼先生や遠山先生に続き、俺まで兄ちゃんとそういう関係になっていることを知った日向は物凄く驚いていた。
日向の驚きっぷりを見た時、俺は
(だから言えなかったんだよな)
と思った。
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