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第五章 未知
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しおりを挟む何の役にも立たなかった鵜飼先生に、遠山先生のことなら兄ちゃんに聞けと言われた俺は、その言葉の通り
「ねぇ、兄ちゃん。遠山先生ってどんな人?」
その日の夕飯の席で、早速兄ちゃんに遠山先生について聞いてみることにした。
俺の口から遠山先生の名前が出れば、兄ちゃんもいい顔はしないと思っていたけれど
「あぁん? 何でそんなこと聞くんだぁ? 新手の嫌がらせかぁ?」
兄ちゃんはいい顔をしないどころか、俺を威嚇するような怖い顔になって俺を睨んできた。
一体どこのチンピラだよ。せっかく可愛い顔をしているのに、兄ちゃんが怒るとマジで柄が悪くなるのどうにかならないかな。
「だってぇ……鵜飼先生に聞いたら、兄ちゃんに聞けって言われたんだもん」
「はあ? 何で鵜飼にそんなこと聞いてんだよ。お前ら何だかんだと仲良しか?」
「別に仲良しじゃねーし、仲良くするつもりもないけど、あの人が気紛れで俺に絡んでくるんだよ」
「何だそりゃ。お前、またあいつに呼び出されたってこと?」
「うん」
「ったく……。いちいち相手にしなくてもいいってのに。お前も律儀な奴だなぁ」
機嫌を損ねたかと思ったら、またしても鵜飼先生に呼び出された俺に兄ちゃんは同情してくれたみたいだった。
そりゃ同情したくもなるだろうな。兄ちゃんだって鵜飼先生には散々振り回されているんだろうから。
鵜飼先生には俺にあんまりちょっかいを出さないように言ってくれた兄ちゃんだから、兄ちゃんの言いつけを守らず、相変わらず俺にちょっかいを出している鵜飼先生に呆れているところもあるのかも。
ほんと、人の言うことをちっとも聞かない人だよな、鵜飼先生って。
「立場上、学校であの人にはあんま逆らえないところがあるんだよ。断ったところでしつこそうだし」
「確かに、あいつ面倒くせぇからなぁ。人の言うこと聞かねぇし、こっちの都合も考えてくんねぇし」
ほら。やっぱり俺と同じ思いだ。自分が惚れている相手にもそういう態度なんだから、好きでもない俺の扱いなんてもっと雑だよな。
別に鵜飼先生に優しくされたいわけじゃないから、少々雑に扱われても構わないけどさ。
「で、どうなの? 遠山先生ってどんな人?」
何やら俺の質問をはぐらかされそうに感じたから、再度兄ちゃんに聞いてみると
「それ、ほんとに知りてぇの?」
兄ちゃんに物凄く嫌そうな顔をされた。
でも、ここで引き下がりたくはない。遠山先生も俺にとっては恋敵なんだから、どういう人間と兄ちゃんを取り合っているのかを知っておかなくちゃ。
遠山先生の人柄を知ることで、何か対策を考えられるかもしれないし。
「うん。知りたい。だって俺、遠山先生のこと全然知らないんだもん。鵜飼先生は無口だって言ってたけど、兄ちゃんと一緒にいる時も無口なの?」
食事中にこんな話をして申し訳ないと思うけど、今日は平日。明日も学校があるし、俺はこの後宿題とかやらなきゃいけないから、兄ちゃんとゆっくり話すなら食事中が一番だったりするんだよな。
「まあ……無口っちゃ無口かな。あんま積極的に喋る奴じゃねーよ。言葉もちょっと足らないって感じだし」
「へー」
仮にも国語の教師が言葉足らずって……。
言葉を知らないわけじゃないだろうから、ただ単に人付き合いが苦手なタイプなのかな? 見るからにそんな感じがするし。
「最初は何考えてんのかわかんなかったから、正直ちょっと苦手だった。でも、悪い奴じゃねーし。あれで結構可愛いとこもあんだよな」
「可愛い?」
待て待て。何かちょっと鵜飼先生との扱いが違うくない? 可愛い? 今、可愛いって言った?
それって褒め言葉じゃん。兄ちゃんって遠山先生には好意的な感情を抱いているの?
「可愛いって何だよ。もしかして兄ちゃん、遠山先生のことは好きなの?」
俺の想像では、兄ちゃんの中で鵜飼先生と遠山先生の扱いは全く同じものだと思っていた。
二人とも兄ちゃんにとっては厄介な存在で、同じくらい面倒臭いと思っているのかと思っていた。
それなのに、片や「あいつ面倒くせぇからなぁ」で、片や「結構可愛いとこもあんだよな」って……。
どう考えても扱いが違うとしか思えない。今の兄ちゃんの発言を聞いたら、鵜飼先生はさぞかしショックなんだろうな。
「何言ってんだ。別に好きじゃねーよ。お前が知りたがったんだろ。遠山がどんな奴かって。だから正直に答えてやったんだろが」
「でも、可愛いは褒め言葉だよ? 好意的に思っている相手に使う言葉じゃん」
「だからぁ、そういう意味で使ったんじゃねーよ。あいつ、いつも澄ました顔してっけど結構抜けててよ。そういうところが人として可愛いと思うだけだ」
「たとえば?」
「たとえば…………たとえばアレだ。今日は水曜なのに木曜だと思い込んでたり、人に指摘されるまでシャツが裏表逆になってることに気付かない……とか」
「……………………」
それ、可愛いか? ただのドジっていうか、間抜けなだけじゃん。
確かに、いつも澄ました顔で授業を進めている遠山先生に、そんな一面があるとは思ってもいなかった。俺の中にはなかった遠山先生のイメージではあるけれど、俺はそれを可愛いとは思わないし、何か残念な人だとしか思わないんだけど。
「それにあいつ、ヤってる時は案外素直だし、俺に甘えてくるんだよな。ヤってる時に甘えられると、ちょっと可愛いと思う」
「……………………」
はぁぁぁぁ~⁉ 何言ってんの⁉ 誰が遠山先生とヤってる時の話しろっつったんだよっ! しかも、それをちょっと恥ずかしそうに頬染めながら話すんじゃねーよっ! 俺、めちゃくちゃ不愉快だわっ!
っていうか、兄ちゃんの好みは安らぎと癒しを与えてくれる人じゃないの⁉ 兄ちゃんを優しく包み込んでくれるような包容力がある人じゃないのかよっ! 兄ちゃんにとって安らぎと癒しって何⁉ 甘えられることが安らぎと癒しなの⁉ 「こいつ可愛い」って思える瞬間が安らぎで癒しなの⁉
だったら俺、今度からめちゃくちゃ兄ちゃんに甘えたセックスするけどっ!
「何だ? その顔。何で急に般若みてぇな顔してんの?」
「誰のせいだと思ってんのっ!」
兄ちゃんの口から遠山先生を〈可愛い〉なんて言う言葉を聞かされた俺は、まさに鬼の形相だった。
そりゃこういう顔にもなるだろ。兄ちゃんだって俺がヤキモチ焼きなのは知っているんだから、発言にはもっと気を付けろよな。
「兄ちゃんの口から遠山先生が可愛いって言われて、ヘラヘラ笑ってなんかいられるかっ!」
「そういうもんかぁ? でも俺、お前が世界で一番可愛いと思ってるけど?」
「ぐぅっ!」
この野郎……。当たり前みたいな顔をして、とんでもない殺し文句を言ってこないで欲しい。兄ちゃんのこういとこ、マジで小悪魔でしかない。
兄ちゃんの言葉に一喜一憂してしまう俺は、言葉だけで兄ちゃんに振り回されっぱなしになっちまうよ。
「ち……因みに、鵜飼先生とはどういうセックスしてんの?」
兄ちゃんに言いたいことはまだまだあったけれど、兄ちゃんが鵜飼先生とどんなセックスをしているのかも聞いてみることにした。
俺が聞いてもいないのに、自分から遠山先生とのセックスの話をした兄ちゃんは
「何でそんなこと言わなきゃなんねーんだっ! 関係ねぇだろっ!」
顔を真っ赤にして怒った。
その真っ赤な顔が怒りからきているのか、恥ずかしさからきているのかは定かではない。鵜飼先生とは物凄くエロいセックスをしてそうだもんな。
「いいじゃん。この際だから教えてよ。俺が聞いてもないのに遠山先生とのセックスの話はしてくれたんだから、鵜飼先生とはどんなセックスしてんのかが気になる」
「べっ……別に普通だよっ! あいつが一方的に色々してくるから、ぶっちゃけどうなってんのか自分でもわかんねーしっ!」
「一方的に色々ねぇ……」
その色々ってやつは本当に色々なんだろうな。体位だったりシチュエーションだったり。鵜飼先生は体格がいいし力も強そうだから、兄ちゃんの身体を好き勝手弄んでいるに違いない。
で、淫乱な兄ちゃんはどんなことをされても感じるし、気持ち良くなっちゃうから、結局はエロエロなセックスとかしているに違いないんだよ。
あー……ムカつく。兄ちゃんに可愛いと思われながらセックスしている遠山先生も、兄ちゃんを好き勝手弄ぶ鵜飼先生も、俺の中では殺してしまいたいほどにムカついてしょうがない。
そもそも嫌いな相手とセックスはしないから、口ではどう言おうが、兄ちゃんがあの二人とセックスするのをやめないことが一番腹立たしいとは思っているんだけどな。
何だかんだともう一年以上もその関係が続いているんだぞ。恋愛感情がなくて、身体だけの付き合いだって言うなら、いい加減飽きたりとかしないわけ?
『そんなにあの二人とするセックスが気持ちいいのかよっ!』
って言ってやりたい。
「つーかお前、遠山がどんな奴か知りてぇんじゃなかったのかよ。何で俺とあいつらのセックスの話になってんだ」
「兄ちゃんが言い出したことじゃん。俺が悪いんじゃないよ」
俺だってこんな話になるとは思っていなかったけれど、兄ちゃんが話をそっちの方向に持って行ったんじゃん。
それなのに、俺が責められるのは理不尽以外の何物でもない。
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