お兄ちゃん絶対至上主義☆

藤宮りつか

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第六章 混戦

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 遠山先生の時がそうだったから、鵜飼先生とも飯を食い終わったら「また学校で」って流れになるものだと思っていた。
 ところが

「へー。ここが真実ちゃんの家か。外から見るより中は結構広いんだな」

 どういうわけだか、兄ちゃんは

『真実ちゃん家に行ってみたい』

 と言い出した鵜飼先生の言葉に

『別にいいけど』

 なんて返し、レストランを出た後も、鵜飼先生が俺達兄弟について来ちゃったんだけど。
 一体どういうつもりで兄ちゃんも「別にいいけど」なんて言ったんだよ。今まで兄ちゃんは凜さん以外の友達を家に連れて来たことなんてないじゃんか。

(何? 鵜飼先生は特別なの?)

 そう思っていると

「俺が真実ちゃん家にお邪魔したって知ったら、遠山がめちゃくちゃヤキモチ焼きそうだよな。何なら遠山も呼んでやる?」

 鵜飼先生がそんなことを言い出すから俺はギョッとなった。
 待て待て。あんたが家にいること自体、俺はめちゃくちゃ違和感あるし落ち着かないっていうのに。そのうえ更に遠山先生まで来たら、家の中の異物感が半端ない。「今日は何の日?」ってなるじゃん。
 そもそも、家に来て一体どうするつもりだ。何をするつもりでいるんだよ。
 今まで兄ちゃんは職場の同僚かつセフレである鵜飼先生や遠山先生を家に連れて来たことはないから、二人が家に来たがる気持ちはわからないでもない。
 俺は兄ちゃんと一緒に住んでいるから、好きな人の家に行ってみたいも何もないんだけれど、普通は行ってみたくなるもんだよな。好きな人の家って。
 だからまあ、一緒に飯を食いに行ったついでに、鵜飼先生が「真実ちゃんの家に行ってみたい」と言い出したことについては別段驚くことではなかった。
 だけど、その後の兄ちゃんが「別にいいけど」と返したことについては「え⁉」ってなったし、実際家に来た鵜飼先生が「遠山も呼んでやる?」と、遠山先生まで呼び寄せようとする点については「何で?」と思った。
 別に呼ぶ必要なくない? っていうか、むしろ呼びたくないって思うものなんじゃないの?
 普通、恋敵なら自分が少しでも相手より優位に立ちたいって思うものじゃん。それなのに、何でそこはフェアでいようとするんだよ。
 鵜飼先生を家に招くこと自体、兄ちゃんの中では間違いなく予定外のはずだった。だから、更に遠山先生も――ってなれば、さすがに兄ちゃんも面倒臭がるかと思ったんだけど

「別に呼びてぇなら呼んでもいいけどよぉ……。呼んでどうすんだ? って感じなんだけど」

 兄ちゃんはここでも鵜飼先生の言葉に異論らしい異論は唱えず、「別に構わないけど」というスタンスだった。
 ほんと、どういうつもりだ。兄ちゃんの心境って今どういう状況?
 鵜飼先生と一緒に飯食いに行って、家にまで上げちゃったのであれば、そこに遠山先生が加わっても問題ないって判断なのか?
 確かに、今更予定外の客人が一人増えたところで大差はない。この家は俺と兄ちゃんが二人で住んでいる家だけど、この家の主は兄ちゃんで、この家をどうしようと兄ちゃんの勝手だと俺は思っている。
 当然、家に誰を連れて来ようが兄ちゃんの自由で、その権利は俺にも平等に与えられている。
 でも、兄ちゃんが鵜飼先生や遠山先生を家に上げるとは思わなかった。
 付き合うという選択は考えておらず、あくまでもセフレという関係に徹している兄ちゃんは、二人とは一定の距離を保とうとしているというか、必要以上に親しい間柄になってしまわないよう、注意しているものだと思っていた。
 しかし、どうやらそういうわけではないらしい。
 これまではどうだか知らないけれど、少なくとも今の兄ちゃんは二人を家に入れてもいいと思うくらい、二人とは既に親しい間柄だと自覚しているらしい。
 というより何より、今までは俺に二人との関係を知られたくないという意識が働いていたから、二人を家に連れて来るようなこともしなかったけれど、俺に二人との関係がバレてしまった後では、「別に家に上げるくらいいっか」という感じなのかもしれない。毎日俺とばかり顔を突き合わせている生活じゃ、兄ちゃんもつまらないのかもしれないし。
 俺のせいで滅多に友達と遊びに行くことがない兄ちゃんは、せめて家に友達くらい呼びたいと思うのかもしれないよな。
 まあ、セフレは友達とはちょっと違うと思うけど、肉体的な繋がりがあるぶん、親しさの度合いで言ったら友達よりも上って感じがするし。
 おそらく、兄ちゃんは鵜飼先生や遠山先生の家にはお邪魔することもあるだろうから、〈たまには家にも入れてやらないと不公平〉とでも思っているのかもしれない。兄ちゃんって変に律儀なところがあるから。

「どうするとかは特にないよ。ただ、念願だった真実ちゃんの家にお邪魔させてもらった感動を分かち合いたいんだよ。だって真実ちゃん〈真弥がいるから〉って理由で、俺達を絶対家に入れてくれなかったじゃん」
「当たり前だろ。俺がお前らを家に連れて来たら、真弥がびっくりするだろが。お前らとの関係は絶対真弥に知られるわけにはいかなかったから、お前らを家に上げることもしなかったんだよ。特にお前は真弥の前でも俺との関係を隠す気がなさそうだったし」
「でも、結局バレてるあたりが真実ちゃんの迂闊なところだよね。そういう隙があるところがまた可愛いし、ほっとけないってなるんだけどさ」
「うるせ」

 やっぱり兄ちゃんは俺に二人との関係がバレないようにするため、二人を家に招くことをしなかったらしい。
 しかしながら、今鵜飼先生が言ったように、結局は俺にバレてしまったから、その必要がなくなったということみたいだ。
 そして、家に入れた以上はもてなしてあげるつもりがあるのか、お茶を淹れる兄ちゃんの傍で

「おー、遠山か? 今俺、どこにいると思う?」

 鵜飼先生が早速遠山先生に電話を掛けていた。

(ほんと、マジで呼ぶの?)

 できれば遠山先生には今夜外せない用事があって、家には来られないって展開が望ましいんだけど。
 残念ながらそういうことにはならず

「遠山もすぐ来るってさ。何か電話しながら出掛ける仕度してるっぽくて笑ったわ。あの様子じゃ後十分もしたら来るんじゃね?」

 何か物凄い勢いで家に来るつもりの遠山先生にげんなりした。
 今から仕度して十分後には家に着くとか……。ひょっとして遠山先生の家って結構近かったりすんの?
 ぶっちゃけ、その可能性は充分にあると思う。
 俺の家から兄ちゃんの職場である学校までは、徒歩で充分通えるほどに近いけれど、それは幸いなことに、たまたま家と兄ちゃんの職場が近かっただけのこと。
 もし、両親が健在で、兄ちゃんの職場が自宅からそれなりに離れていたのであれば、兄ちゃんは家を出て、職場の近くで一人暮らしをしていたんじゃないかと思う。
 先日、遠山先生と一緒に飯を食った居酒屋が家の近所だったのも、遠山先生の住んでいる場所が家の近くだって証拠のように思う。
 そして、それは鵜飼先生にも言えることなんじゃないかと思う。
 だって、今日行ったレストランも家の近所と言えば近所だったし。家に来る途中の鵜飼先生の顔も、この辺の土地は良く知っているって感じだったもん。
 二人とも実家暮らしではないみたいだから、職場の近く――つまりは俺達の家の近所にマンションを借り、一人暮らしをしているってことなんだろう。
 それに、遠山先生を電話一本で家に呼びつる鵜飼先生だっておかしいじゃん。鵜飼先生や遠山先生にとっては初めて来る場所なんだから、呼びつけるにしても、もっと詳しい場所の説明とかってしない?
 でも、遠山先生と電話で話している鵜飼先生の声を聞いている限り、そういう説明は一切なかったように思う。
 もしかしたら、実際中に入っていないだけで、二人は家の前までなら何度か来たことがあるのかも。
 家に入った鵜飼先生も言っていたもんな。「外から見るより中は結構広いんだな」って。
 あの言葉は今日だけの感想ではなかったのかもしれない。
 きっと下心丸出しで兄ちゃんを家の前まで送ったりとかしたんだろう。「送ってくれたお礼に」って、家に入れてもらうことを期待したりしていたんだ。
 か弱いわけでもないうえ、変質者や怪しい人物には容赦がなさそうな兄ちゃんに、送り迎えは一切必要がないっていうのに。

「あいつ、明日は休みだっつってたのに。せっかくゆっくりできる夜を無駄にするとか馬鹿なのか?」

 一方、自分は二人から特別な感情を抱かれていないことにしたい兄ちゃんは、またしてもそんなとぼけたことを言っていたけれど

「いやいや。明日が休みだからこそ、真実ちゃんと一緒に過ごしたいって思うんじゃん」

 そんな惚けた発言は鵜飼先生に通用しなかった。
 もちろん、あえて何も言わない俺にも通用しなくて、俺には今の兄ちゃんの発言が白々しく聞こえた。
 男同士のそういう感情を認めたくない兄ちゃんの気持ちもわかるけどさぁ……。いつまでも目を背け続けるわけにもいかないんじゃない? って感じがするよな。兄ちゃんの考え方が変わらない限り、今の状況も変わらないってことなんだから。
 兄ちゃんが本気で今の状況を何とかしたいと思うのであれば、必ず向き合わなくちゃいけない問題でもあるんだよな。
 今の兄ちゃんを見ているとどうも呑気で「そのうち何とかなんだろ」と思っている様子だった。

「一緒に過ごしたいっつってもよぉ……。こっちは明日仕事だし、時間も時間だから、そう長い間一緒にいられるわけでもねぇんだけど」

 それは兄ちゃんにとって極々自然な突っ込みであり、俺も特に不自然なところはないと感じたんだけれど、何やら違和感というか、漠然とした嫌な予感みたいなものがあって、俺の胸はやけにざわついた。
 そして、その嫌な予感が的中した時、俺は今日という日を呪いたくもなったのだが、時は既に遅しで、最早どうすることもできない状況というやつに陥っていた。


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