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第六章 混戦
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しおりを挟む(あれ……俺、さっきまで何してたんだっけ?)
頭が物凄くボーっとするし、身体中が怠くて、心なしかちょっと身体が熱いような気もする。
(風邪でも引いた?)
そう思ったけれど、突然体調を崩すような心当たりがない。
そもそも俺は今家の中にいて、さっきまで兄ちゃん、鵜飼先生、遠山先生の四人で、今の状況についてわりと真面目な話をしていたように思う。
今までのような第三者への悩み相談ではなく、お互いに牽制し合うでもなく、当事者同士の真剣な話し合いだから、それなりに意味があったし、大事な話をしているんだって感じがしていたはずなんだけど……。
何故か途中から急に意識が曖昧になり、急激な眠気に襲われてしまったような気がする。
「……………………」
その理由を一生懸命思い出そうとする俺は、焦点の合わないぼんやりとした目で、目に映るもの全てを片っ端から検証していくことにした。
テーブルの上が散らかっている。散らかったテーブルの上にはグラスが四つ。目の前のグラスは鵜飼先生が使っていたもので、中味は空になっていた。
その隣りのちょっと飲み残しがあるグラスは遠山先生が使っていたもので、その向かいにあるのが兄ちゃんの使っていたグラス。
で、俺の手元にあるのが当然俺の使っていたグラスになるわけだけど、中味はちょっとだけ残っていた。
グラスの中は何が入っていたんだっけ? 色からしてお茶のような気もするし、ジュースを飲んでいたような気もする。
「んー……んっ⁉」
緩慢な動きでグラスに手を伸ばしてみた俺は、ほんの少し残っているグラスの中味を口に含み、その正体を確かめた。
グラスの中味は酒だった。
鵜飼先生が言ったように、本当に電話をしてから十分ほどで家に来た遠山先生は手ぶらじゃなかった。
きっと何か手土産でも持って行かなくちゃ悪いと思ったのか、途中のコンビニで買って来た酒とつまみを持っていた。
高校生の俺は当然酒なんか飲めないし、飲むつもりもなかったんだけれど
『人生何事も経験だぞ? 俺がお前の歳の頃には、もう普通にチューハイやカクテルなら飲んでたもんな。せっかくの夏休みなんだから、ちょっとは大人の経験してみろよ』
と鵜飼先生に唆されて、少しだけなら飲んでみたいと思ってしまった俺がいた。
もちろん、傍にいた兄ちゃんは物凄い勢いで反対した。
『高校生に酒を勧める教師がどこにいんだぁっ! 真弥に変なこと教えんなぁっ!』
って物凄い勢いで鵜飼先生を怒鳴りつけていたんだけれど、結局は俺が誘惑に負けてしまい、酒を飲んでしまったのである。
鵜飼先生が勧めてきた酒はそんなに強いものじゃなかったし、わりと飲みやすいものだったから、俺もついついジュース感覚で飲んじゃったんだけど、よくよく考えてみたら、俺は酒に弱い兄ちゃんの弟だった。
兄弟で全く同じ体質というわけじゃないんだろうが、俺もそんなに酒に強いわけではなかったらしい。次第に眠気に襲われ、いつの間にやら眠ってしまっていたようだ。
それはまあいい。決して褒められる経験ではないが、初めての飲酒を経験し、自分があまり酒に強い方ではないと判明したのはいい勉強になった。
だから、それはいいとして
(兄ちゃんとあの二人はどこに行った?)
今はそれが一番重要な問題だよな。
前回の失敗を踏まえ、今日は一滴も酒を飲んでいなかった兄ちゃんも、俺が酒に手をつけた後は二人に勧められて酒を飲んでいたと思う。
遠山先生が手土産に酒とつまみを持って来たのも、兄ちゃんに酒を飲ませて酔わせようという魂胆だったに違いない。
そして、狙い通り酒を飲んでしまった兄ちゃんは酔っ払い、酔うとシたくなっちゃう兄ちゃんをあの二人が放っておくはずがない。
しかし、さっきまで四人で飲んでいたリビングに三人の姿はない。
ということは、三人は今、二階にある兄ちゃんの部屋にいるに違いない。
そこで何をしているのかなんて考えたくもないけれど、今ここに三人の姿がないということが、最早答えみたいなものだった。
「クソー……マジでしくった……」
今回はどう考えても俺のミスだ。俺が鵜飼先生の言葉にまんまと乗せられて、酒なんかに手を出してしまったことが大きな間違いだった。
兄ちゃんは普段酒を嗜むような生活を送っていないけれど、だからといって酒を飲むのが嫌いなわけではなかった。あまり酒に強くはないが、むしろ飲むのは好きな方で、普段俺の前で飲まないのは、俺の教育上よろしくないと思って自重しているからだ。
学生時代はよく凜さん達と飲みに行き、酔っ払いになって帰って来ることも少なくはなかった。だから、俺も兄ちゃんがあまり酒に強くないことを知っているんだ。
父さんがまだ生きていた頃は、父さんの晩酌に付き合うことも多かった。
そんな兄ちゃんだから、俺が酒を飲めば飲まないはずがないってわかっていたのに。ついつい好奇心ってやつに負けてしまった。
おそらく、先日酔って淫乱になった兄ちゃんを見て、酒にどれくらいの力があるのかを知りたくなったのと、鵜飼先生に言われた「大人の経験」ってやつに惹かれてしまったのだろう。
兄ちゃんより八つも年下の俺は、早く大人になりたくてしょうがないから。
「早く兄ちゃんのところに行かなくちゃ……」
今更もう手遅れだとは思うけど、だからといって、ここでうだうだしているわけにもいかない。怠い身体に鞭打って立ち上がった俺は、足を踏ん張り、自分の身体をしっかりと支えると、ゆっくりとした足取りで兄ちゃんの部屋に向かった。
いつもは何も考えず自由に歩き回っている家の中が、まるで巨大迷路のように広く感じる。兄ちゃんの部屋までの道のりが果てしなく遠く、到達困難な場所のようにも思えた。
だけど、歩けないほど酩酊してはいないし、酔っ払って気持ちが悪くもなっていない。身体はふらふらするけれど、次第に意識もしっかりしてきた。
最大の難関である階段を昇りきると、兄ちゃんの部屋はすぐそこだった。
「っ……」
階段を昇っている時から、兄ちゃんの部屋からは人の気配を感じたし、ドアの向こうから兄ちゃんの喘ぎ声らしきものも聞こえてきたけれど、俺はあえてそれに気付かない振りをして、まずは階段を昇りきることに専念した。
少しでも気を抜くと、階段から一気に転げ落ちそうな気がしたから。
でも、いざ二階にやって来て、兄ちゃんの部屋のドアを開けた俺は、そこで世にもおぞましい光景を目にすることになった。
「ゃっ、んンっ! ぁっ……待っ……ゃっ、だぁっ……」
「ん~? 何が嫌なの? 真実ちゃん、俺にこうやって奥トントンされんの好きだろ?」
「だっ、めぇっ……ゃんっ……真弥が……真弥が起きちゃう、からぁっ……」
「大丈夫だろ。初めて飲んだ酒にすっかり酔っちまってたし。ありゃ完全に酔い潰れてたじゃん。しばらくは起きないって」
「でもっ……ぁんっ……でもぉ……」
「神崎。今は弟のことよりこっちに集中しろ。仮に弟が起きたとしても、俺達の関係は知られているんだから気にすることはない」
「そういうわけには……ゃあっ! ン……ゃだっ……遠山っ……そんな風に触っちゃ……ゃあっ、んんっ!」
やっぱりというか、当然というか、そこはもう欲に塗れた卑猥極まりない行為が行われている真っ最中だった。
後ろから鵜飼先生に両脚を抱え上げられた兄ちゃんは、正面にいる遠山先生に恥ずかしい部分を全部見せるような格好になっていて、下の口で鵜飼先生のナニをしっかり咥え込んでいる姿も丸見えだった。
それだけでも充分にいやらしいと思うのに、更には遠山先生からも身体のあちこちを愛撫され、羞恥と快楽に兄ちゃんの顔は堪らなくそそられるものになっていた。
これが前に日向が見た光景なんだろうか。だとしたら、日向にとってとんでもなく衝撃的な光景だったに違いない。セックス経験がある俺でも息を呑んでしまうような光景なんだから、まだ経験のない日向には刺激が強過ぎるってものだ。
「っ……」
こんな光景を見てしまったからには、俺は今すぐ三人に行為をやめさせるよう動くべきだった。
それなのに、俺の足は床に根が生えてしまったかのように動かず、あまりの衝撃に言葉も失っているようだった。
「ぁっ、ぁんっ……やぁっ……ぁんんっ……」
後ろから優しく鵜飼先生に揺さぶられ、前から遠山先生に身体を愛撫される兄ちゃんは、俺が部屋のドアを開けたことにも気付いていない様子で、二人から与えられる刺激に感じることに忙しそうだ。
こうして兄ちゃんが自分以外の男に抱かれている姿を見るのはもちろん初めてのことで、正直自分がどういう反応をすればいいのかがわからなくなってしまう。
ただ、客観的に見る兄ちゃんの感じている姿というのもまた堪らなく可愛くて、俺は自分の下半身が熱くなっていくのを感じた。
「ん? あれ? もう起きちゃったのか?」
「っ……」
兄ちゃんは感じることに夢中で俺の存在に気付いていないけれど、まだ余裕がありそうな鵜飼先生は、俺が部屋のドアを開け、そこから部屋の中を見ている俺の姿に気付いたようだった。
(この状況で俺に声なんか掛けてくる?)
とも思ったが、さすがに無視するわけにもいかない状況ではあるよな。何たって、自分達がヤってる最中のところを俺に見られているわけだから。
「ふぇ? し……真弥ぁ?」
頭のすぐ上から鵜飼先生の声が聞こえてくれば、兄ちゃんもその声に反応してしまうのだろう。
明らかに自分や遠山先生に向けて発せられた言葉じゃない鵜飼先生の声に、兄ちゃんもようやく俺の存在が頭を過ったんじゃないかと思う。
でも、まだ状況が完全に呑み込めていないみたいだから、俺の存在を認識したわけじゃなく、少し混乱している様子だった。
しかし
「残念。真実ちゃん、真弥が起きちゃったみたい。起きて真実ちゃんが俺達とエッチなことしてるの見られちゃってるよ?」
鵜飼先生にそう言われると、さすがに今の状況を理解した。
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